ビルの片隅にすみ着いた「壁ぬけ猫」 生き残ったいたずら心

モチーフは松永さんの夢に出てくるという「空想の中の猫」(滝沢美穂子撮影)
モチーフは松永さんの夢に出てくるという「空想の中の猫」(滝沢美穂子撮影)

 大阪・西梅田の複合ビル「ハービス大阪」の建物の角に、奇妙な「黒猫」がいる。頭と前脚は手前の壁から、しっぽと後ろ脚は向こうの壁から突き出ている。会社員の20代の女性は「おもしろいインスタ写真が撮れそうですよね」と「黒猫」の頭に手を伸ばした。

 建物を挟むように設置されたこの「壁ぬけ猫」は、グラフィックデザイナーの松永真さん(79)が手がけた、「フリークス」シリーズの鉄板による造形のひとつ。近くには同様の作品がほかに9体点在する。1997年、ハービス大阪の竣工(しゅんこう)時に、6作家の作品群とともに敷地内に設置された。

 開発当時、松永さんはこういった建物に接続する作品案をいくつか提案した。いたずら心が満載の斬新なデザインは評価されたが、いざ設置となると安全や構造上の問題が立ちはだかり、結局、実現したのはこの「壁ぬけ猫」だけだった。「あの猫は唯一の生き残りなんだ」と松永さん。

 当時のアートプロジェクトを担当した小林幹彦さん(63)は、松永さんらと現場での作品作りに奔走した。広島の造船所まで行き、鉄板の加工にも立ち会った。「どの場所にどの作品が合うのかを、作家らと念入りに話し合って作り上げました」と当時を振り返る。

 ビジネスマンがせわしなく行き交うかいわい。ビルの片隅にすみ着いた「黒猫」は、人々の心を和ませている。
(白井由依子)

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