病気の子を癒やすファシリティードッグ 治療に欠かせない存在に
静岡県立こども病院(静岡市葵区)が、子どもたちを元気づける常勤の犬「ファシリティードッグ」を日本で初めて導入してから間もなく10年。闘病生活を送る子どもたちを癒やす存在として根付いてきた。ほかの病院でも採り入れる動きが出てきている。
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葵区にある静岡伊勢丹で6月18日、ファシリティードッグのゴールデンレトリバー、ヨギの8歳の誕生会があり、子どもたちがヨギへの思いをつづった手紙を読んだ。
「ヨギちゃんへ いつも手術のとき一緒にいてくれてありがとう。安心できたよ。お仕事頑張ってね」
緊張しながら朗読したのは、富士市の藤田いろはさん(8)。ヨギとの出会いは4年前にさかのぼる。
母みどりさん(41)によると、いろはさんは4歳の時、急性リンパ性白血病と診断され、県立こども病院に約1年間、入退院を繰り返した。ある日、突然検査を嫌がって泣き叫び、医師にぬいぐるみを投げつけたという。みどりさんは「それまで言うことを聞いてたから、色々たまったのだと思う」と振り返る。
2時間ほど経ってもおさまらない中、現れたのが同病院の医療チームの一員として「常勤」しているヨギだった。ヨギは静かにいろはさんに寄り添った。少しすると、いろはさんは「頑張る」と言って検査を受け入れたという。
それがきっかけで仲は深まり、ヨギは毎日病室まで来るように。手術の時は手術室まで付き添ってくれた。いろはさんも時にはヨギのリードを握り、病院の廊下を散歩した。いろはさんにとって、ヨギは「優しいし、かわいい、特別な存在」だ。
犬の「ヨギ」、つらい時間を楽しい時間に変えた
小山町の池谷花野さん(16)も白血病で2017年から1年半、同病院に入院した。親との面会時間は短く、薬の副作用で吐き気もする。「自分の身体とは違う」と感じ、つらかった。だが、ヨギが来るとつらい時間が楽しい時間に変わった。
ヨギをなでながら、ヨギのパートナーである鈴木恵子さん(55)と話すのが楽しみだった。「ヨギは『いやしのかたまり』。一緒にいると、病気のことを忘れられる」
母親の麻紀さん(46)も病院で花野さんのそばにいるヨギを見て「娘は私よりもヨギを当てにしていた。親以上の存在になっていたと思う」と話す。
導入時には反対も 今では治療に欠かせない存在に
ヨギはNPO「シャイン・オン・キッズ」(東京)が派遣している。同NPOによると、ファシリティードッグとは動物介在療法などの専門的なトレーニングを受け、病院などの施設に常駐して活動する犬。ヨギは米ハワイの育成施設でトレーニングを受けた。病棟に入ると「仕事モード」になり、走ったり声を出したりしないという。
日本では同病院が10年に初めて導入。その後、神奈川県立こども医療センターも取り入れ、今夏には都内の病院でも活動を始める予定だ。
病院では、ハンドラーと呼ばれる人間とペアで活動している。病室や病棟を定期的に訪れたり、検査に付き添ったりすることで入院中の子どもたちの励みになっているという。
県立こども病院には比較的重い病気の子どもが多く入院している。ヨギは看護師として勤務経験があるハンドラーの鈴木さんとともに毎週月~金曜に約280床ある病室を回る。子どもたちとはボールで遊んだり、えさをもらったりなでてもらったりして触れあう。「毎日来てほしい」というようなリクエストにも応えるという。
また、検査や手術室まで子どもたちに付きそうことも。鈴木さんは「痛い検査や怖い手術を嫌がったり、泣け叫んだりする子もヨギがそばにいれば、不安がなくなり、笑ってくれる」という。
同病院の滝浪元基・広報担当によると、ファシリティードッグの導入時、院内では安全面や衛生面から反対の声も多かった。
だが、実際に導入してみると「患者の治療にとって欠かせない存在になった。『つまらない』入院生活もヨギがいることで前向きになってもらえる」(滝浪さん)。長い入院生活の中で子どもが治療を嫌がり、医者や看護師がなだめてもどうにもならない時でも、ヨギがいれば受け入れることがよくあるという。
お酒でファシリティードッグを応援
シャイン・オン・キッズと静岡伊勢丹は、同店でファシリティードッグの支援酒の販売を始めた。売り上げの一部がNPOの活動資金になる。
支援酒は銘酒「臥龍梅」で知られる三和酒造が製造。純米大吟醸(720ミリリットル、3240円)と梅酒セット(500ミリリットル2本、同)があり、いずれもラベルにヨギの写真をあしらった。シャイン・オン・キッズの担当者は「支援酒を通じてファシリティードッグを知ってほしい」としている。
(堀之内健史)
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