ペットを家族に迎える時 あなたは犬や猫とどう出会いたい?
かつては番犬やネズミ捕りのために飼われていた犬や猫ですが、いまでは「家族の一員」とも言える存在です。そんな大切なペットたちと、どう出会いましたか。どう出会いたいですか。犬や猫を家族に迎えようと思うのはなぜでしょう。日本では15歳未満の子どもの数よりも多くなった犬猫たちとの出会い方について、みなさんと一緒に考えます。
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朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●お店で何度も観察
高校生の時から欲しかった犬種をペットショップで見つけました。何度もお店に出向き、その子を観察してから飼うことを決めました。私にとっては生涯最高の子でした。(佐賀県・60代女性)
●一目見たときピピピ
出会いは第一印象が大切。チワワを2匹飼っていますがいずれもペットショップで一目見たときにピピピと来ました。(埼玉県・60代男性)
●売れ残りを購入
幼い頃からずっと犬と猫は常に家に居ました。全て捨てられていた子たちです。今はペットショップで購入した3匹の猫と暮らしています。大きくなって売れ残りの子を選びました。施設の保護犬、猫にも関心があるのですが譲渡がもう少し簡単になれば利用する人も増えて良いと思います。(京都府・50代女性)
●どこから来ても終生飼育
また飼えるようになったらブリーダーから買いたい。前に飼っていた猫と同じ種類の猫が良いから。最近気になるのが猫ブームからの保護猫ブーム?でペットショップやブリーダーがひとまとめにたたかれがちな気風。たしかに悪徳ブリーダーや悪徳ペットショップもいてクローズアップされやすいけどきちんとしたブリーダーやペットショップもある。
殺処分されるのは捨て犬・猫なのだから捨てる人間が問題。どこから来た犬猫であろうと終生飼養、去勢避妊の徹底や猫の場合は完全室内飼いなどの啓蒙(けいもう)が大事だと思う。(兵庫県・30代女性)
●無知で安易だった自分
生後2カ月経たないうちに店頭で売られていたうちの犬。当時はそれがいけないことだとは知りませんでした。あまりの可愛らしさに連れて帰ることを即決意、購入しました。今はペットショップで買ったことに罪悪感があります。
店の違法行為に自分も加担したこと、売られている犬たちが親犬と引き離されて切ない思いをしているとは思い至らなかったこと、お金を生み出すためにぼろぼろになっても繁殖をさせられている犬たちがいると知らなかったこと。
無知で安易な自分に腹が立ちました。でも誰も買わなかった時の、我が家の犬の結末を思えば、出会えてよかったのかも、とも思います。愛犬との生活は幸せです。もうすぐ16年になります。(北海道・40代女性)
●命を預かる覚悟必要
ペットを迎え入れるということはひとつのかけがえのない命を預かるということであり、当然、自分の時間もなくなるし、経済的な負担もあり、病気もあれば老いていく命に寄り添っていくという絶対的な覚悟が必要である。
ただ、ペットは必ず家族の笑顔を増やしてくれます。愛猫を家族に迎え入れて1年程度ですが、愛猫のいない生活は想像できないです。(埼玉県・50代男性)
●残ってしまった子は
今飼っている犬は家族がどうしても飼いたくてペットショップで。今考えると保護犬という選択肢もあったと感じています。確かにペットショップにいる犬や猫は、とてもかわいいと感じますが、残ってしまい少し大きくなってしまった子たちを見ると、こういった業態はどうかと最近感じます。手軽に入手できるのも……。(徳島県・50代女性)
●子どものため迎えたが
子どもが不登校になり、家に閉じこもっていたときに、自分以外の命を感じて欲しくて初めて猫を飼いました。保護猫などの存在も知ってはいましたが、初めて飼う猫なので、性格などを知った上で迎えたくて、穏やかな性格の猫ということを調べて今のコと出会いました。子どものためにと迎えたのですが、今は私の方が毎日癒やされています。(兵庫県・40代女性)
●モノではなく生き物
どこからかはあまり関係ない。飼うと決める時に責任と覚悟と知識を深めることが大切なんだと思う。私はずっと飼いたいと思い続けてて、猫の平均寿命と自分の年齢的にもこれが最後のチャンスだと踏み切った。
ペットショップはここ数年でかなり変わってきてると思えるけど、一般人の方も捨ててること、勝手な餌やりなどの問題点にも注目があまりいってない気がする。あとは……動物愛護法とかあるけど、一番の問題はまだペットは所有物でモノ扱いなこと。モノではなく生き物なんだと法律的にも変わっていって欲しい。(愛知県・50代男性)
犬や猫の大量生産・大量販売 1980年代から
ペットショップなどによる生体販売は、犬や猫との出会いを、日本人にとって身近で手軽なものにしています。ペットフード協会の調べによると、2018年時点で、犬の77.1%、猫では22.3%がペットショップなどから購入する形で、飼われています。
でもほんの30年前までは、雑種をもらったり拾ったりしてくるのが主流でした。純血種を買うという消費行動が一般的になったのは、平成に入ってからのことです。
競り市の登場が、そのきっかけになりました。それ以前、ペットショップは、繁殖業者(ブリーダー)から直接購入する、ペットショップ同士で必要な種類を交換する、海外から輸入するほかに、子犬・子猫を仕入れるルートがありませんでした。このため、多店舗展開や全国展開はできず、消費者のニーズにあわせて多様な犬種・猫種をそろえることも難しかったのです。消費者にとってペットショップは、いまほど身近な存在ではありませんでした。
ところが、1980年代半ばから事情が変わります。繁殖業者が子犬・子猫を出荷し、ペットショップがそれを仕入れる場、いまのスタイルの競り市ができはじめたのです。一般社団法人「金融財政事情研究会」が業界動向をまとめた「業種別審査事典(第11次)」は、「セリ市場の登場により大量供給が実現した」と書いています。
各地に競り市ができたことで、繁殖業者による大量生産とペットショップによる大量販売というビジネスモデルが成立しました。2018年4月時点で、全国で24の競り市が運営されています。異業種からの参入が容易になったのも重要な変化です。いまでは、数十店から100店前後を展開する大規模チェーンが10社以上も存在しています。
ブームを作り出し、流通量を一気に増やすことも可能になりました。漫画「動物のお医者さん」の影響で90年代に起きたシベリアンハスキーの大流行。02年から始まった消費者金融「アイフル」のCMによるチワワ人気。最近では、猫のスコティッシュフォールドの人気が過熱気味です。特定の犬種・猫種を消費者が過剰に求め、それにあわせて繁殖、販売が行われるようになりました。
朝日新聞の調べでは、14年度以降、犬猫は毎年のべ80万匹前後が流通しています。そのうちおよそ7割が、ペットショップ経由で消費者のもとにわたっていると見られます。
一方、ペット流通とは別に、近年では動物愛護団体や地方自治体から、一度は捨てられたりした保護犬・保護猫を譲り受ける人も増えてきています。17年度は、地方自治体が収容した犬猫のうち4万7865匹が、新たな飼い主らにもらわれていきました。
「犬や猫の販売、透明性と規制を」 ペッツファースト・正宗伸麻社長
小鳥や子犬などを売る商店は古くからありましたが、ビジネスとして急激に大きくなったのはこの30、40年ほどです。ペットフード会社やペット保険会社が業界の一員として存在感を増し、薄利多売で「数」を売れば業界全体が潤うという考え方が、次第に主流になってきました。
ペッツファーストは2008年、前身の会社から生体販売部門を引き継いで設立。現在、約70店を展開しています。最も多い時で年約2万3千匹を販売していましたが、いまは店舗や販売数の拡大を求めない成長のあり方をめざしています。企業としても業界としても、薄利多売からの転換が必要だと考えているからです。
販売数で言うと、年2万匹程度が適切だと見ています。事故死や病気のないように1匹ずつ丁寧に管理し、仕入れた子犬・子猫すべてに飼い主を見つける――。生き物を扱う企業として当たり前のことですが、この当たり前を実現するためには、数を追っていてはいけないのです。
現在、ペットを飼い始めるきっかけやチャンネルは多数存在しています。そんな中でペットショップの役割は、飼い主に対して「家族が増える」意味や責任をしっかりと伝え、販売後もペットとの暮らしを豊かにするためのアフターサービスを提供することです。ブリーダー(繁殖業者)から飼い主へと子犬・子猫がわたっていく流れの中で、ブラックボックスをなくしてより良い流通が行われるためのチェック機能も、私たちが果たすべきです。
近年、動物愛護の機運が高まっているのを感じます。業界の先行きには、強い危機感を持っています。命に真摯(しんし)に向き合う、社会性と透明性をもった販売ができる企業を育てていかなければいけません。それとともに、動物愛護法の改正は絶対に必要です。幼すぎる子犬・子猫の販売を規制する8週齢規制や、飼育施設に関する厳しい数値規制を導入し、業界全体の底上げをする必要があります。そうでなければ、この業界に未来はないと思っています。
「ペットの扱い方、社会の成熟度示す」 濱野佐代子・帝京科学大准教授
犬は「最古の家畜」と言われます。約1万2千年前のイスラエルの遺跡から人と一緒に埋葬された子犬の骨が見つかるなど、古くから人と犬は親密な関係を結んできたことがわかります。猫はそれからずいぶん遅れて、諸説ありますが、約4千年前に人の暮らしに入ってきました。
ノーベル医学生理学賞を受けた動物行動学者コンラート・ローレンツは、他の家畜とは違い犬と猫だけが、強いられて使役される身分とは別の身分で家畜となったと述べています。人にとって、犬は番犬や狩猟のパートナーとして、猫は感染症を広げ穀物被害を及ぼすネズミを駆除してくれる存在として利益をもたらしました。
一方で犬や猫にとって人はすみかや食べ物を用意してくれる存在でした。互いの利益が一致し、共同生活が始まったのでしょう。そのうえで、双方にコミュニケーションがしやすかったこともあり、信頼と愛情を基にした関係を築いていきました。
現在のようなペット飼育のあり方が見られるようになったのは、ヨーロッパでは19世紀、日本では20世紀に入ってからだと考えられています。犬や猫から得られる恩恵が、実用的な利益から、関係性による精神的なものへとシフトしていったのです。
近年ではさらに進んで、少子高齢化を背景に、犬や猫は「子どものような存在」として家族の一員の役割を担うようになりました。「生きがい」と捉える人まででてきています。1980年代から欧米で、ペット(愛玩動物)をあえてコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼ぶようになったのもその表れです。子どもの数が減り、寿命が延びるなかで、犬や猫を精神的なよりどころと見なす人が増えてきたのです。
多くの人が犬や猫などのペットに愛情を注げる時代は、平和で幸せな時代です。ペットの扱い方が、成熟社会のバロメーターになっているとも言えます。家族のなかで守るべき立場の子どもやペットたちに愛情を注ぐ行為は、ゆっくりですが確実に、社会をよい方向に導いていくでしょう。
「繁殖の環境、想像してみて」 俳優・浅田美代子さん
北関東のある繁殖業者を訪ねた時のことが、今でも忘れられません。
そこには、約500匹もの繁殖用の犬たちがいました。犬たちは、何段にも積み重ねられた狭い金網製のケージに入れられ、散歩に連れて行かれることはありません。長毛の子は、毛に糞尿(ふんにょう)がまとわりついてヨロイのように固まっていました。
脚の骨が折れたまま放って置かれている子もいました。何度も子犬を産まされてきた7、8歳の雌犬の多くは骨からカルシウムが溶け出し、足腰が立たなかったり、歯がほとんど抜けてしまっていたり……。
繁殖に使われなくなった子たちをレスキューしに行ったのですが、そういう状態の子たちでも繁殖業者は「まだ産めるから」と手放しません。ボロボロの子を3、4匹しか助けられませんでした。
2014年に我が家で引き取った子犬も、劣悪な繁殖業者のもとにいた子です。感染症の疑いがあり「売り物にならない」と殺されそうになっていたのを、助け出しました。
こうした現実が、明るいペットショップに陳列されている子犬・子猫の背後にはあるのです。たまにペットショップで子犬や子猫を見ると、私は、「かわいい」ではなく「かわいそう」と感じてしまいます。
もちろん、すべての業者が悪質なわけではありません。でも、大量販売を続けるペットショップと、工場のように大量生産をする繁殖業者は裏表の関係です。ペットショップで買う人がいる限り、劣悪な繁殖業者は大量生産を続けます。
新たにペットを飼いたいと思う人は、ペットショップにいる子犬・子猫の父母、きょうだいはどうしているのか、想像してみてください。新しい命が作り出されている一方で、闇で苦しんでいる命、殺処分を待つ命がいることを思い出してほしいのです。消費者としての行動を少し顧みることで、負のスパイラルは止められるはずです。
◇専門記者・太田匡彦が担当しました。
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