ゆったりと猫もおしゃべり? 限りなく自由な沖縄・竹富島の猫
竹富島(沖縄県)の民宿、新田荘。送迎車には福々しい猫の絵が描かれ、食堂には、歴代猫のアルバムがある。宿では、朝と晩、猫の食事の世話をしている。一時は10匹以上通ったが、いまは3、4匹だ。宿のおばあ、新田初子さんは言う。
「近所に強くて悪い猫がいてね。普通は喧嘩して降参したら終わりだけど、そいつは相手の猫がひどいケガをするまでやる。逃げて、戻って来なくなった子もいます」
その日は、仲睦まじい白猫のオスとメス、はちわれのオスがいた。
「みんな、ここで生まれた子たちですよ」(初子さん)
名前はみんな、ないという。この日の夕は、宿泊客の食事にも出た刺し身を、たっぷりもらっていた。
晩は雨が降っていた。宿泊客の退屈を気遣って、酒を振る舞い、宿主の長史さんが三線を弾いて歌を歌い、食堂で三線ゆんたくを披露してくれた。初子さんも三板と歌で加わる。網戸越しの庭にぼんやりと猫の姿が見える。
夜更け。はちわれが玄関に入ってきて、しきりに鳴いている。高く、少し掠れた特徴的な声だ。尻尾を立て、体をくねらせ、ついてこいと言っているようだ。
黄色い瞳の不思議な力に圧倒されて外に出ると、白猫2匹も集合していた。オッドアイのメスは縁側に佇み、精悍な顔立ちのオスはじっとこちらを見ている。手を伸ばすと、白猫2匹は身をかわす。オスの体に擦り傷がある。噂の悪い猫にやられたのか。
ただ1匹、はちわれが鳴きながら絡みついてくる。沖縄では、猫もゆんたくするのかもしれない。
かなりの時間が経って、はちわれは夜闇に姿を消した。白猫2匹はそれぞれの寝床に引っ込んだ。
雨がやんだ翌朝、日が昇る前にはちわれは戻ってきた。朝食の用意に忙しく働く初子さんを窓越しに追い、2匹の白猫とともに行きつ戻りつ、催促している。
ニャア、ニャア、ニャア。
「はいはい、おまえたちは、うるさいねえ」(初子さん)
昨晩と同じ、掠れた高い鳴き声。鳴いているのは彼だけだ。だから、とんだ濡れ衣だ。
勝手口から初子さんが出てくる。猫たちの朝食の時間だ。
食事が済むと、白猫たちは木陰に寝そべり、はちわれは宿を出て、珊瑚の石垣に囲まれた道を歩いていった。後を追っても素っ気ない。昨晩のあの人懐こさは、今朝の情熱は何だったのか。
観光客を乗せた水牛車がゆっくりと宿の前の道を進んでいった。
(編集部・熊澤志保、渡辺豪、写真・今村拓馬)
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