緊急手術! 保護した子猫に「胃ろう」 ごはんが食べられない

 私がその子猫に初めて出会ったのは昨年の12月初旬。三毛猫の女の子で、名前はこももちゃん。2019年2月中旬現在で生後約5か月です。別件の取材で訪れた、埼玉県の保護猫カフェ、ねこかつ大宮日進店でのことでした。キャリーケースごしに見つめる大きな瞳。首にはエリザベスカラー、お腹には伸縮性のネット。元気そうだけど、ケガでもしたんですか? とたずねようとした、そのとき。「この子はね、胃ろうで命を長らえてるんです」代表の梅田達也さんの言葉に、声が出ませんでした。

(末尾に写真特集があります)

愛護センターに持ち込まれた小さな命

 こももちゃんがねこかつにやって来たのは、昨年10月上旬。その時点ですでに離乳は済んでいたとのことなので、おそらく生後1か月ほどだったでしょう。

「同時に生まれたきょうだいたちと一緒に、茨城県の動物愛護センターに持ち込まれたんです」と、スタッフの多田国子さん。

 幼齢の動物は世話に手がかかったり身体が弱かったりすることもあって、持ち込まれてほどなく殺処分になることが多いといわれますが、「ボランティアの働きかけで、茨城県の愛護センターは子猫が持ち込まれると連絡をくれるようになったんです。センターの車で私たちのところまで届けてくれることもあり、ここでの保護猫たちの様子を見て『モチベーションが上がります』っておっしゃってくださる方も」(多田さん)

 きょうだいの中では一番小柄だったこももちゃんですが、ある日を境に、ウェットフードやドライフードを吐き出すようになったといいます。

「スポイトで与えたミルクでさえ吐き出すようになって。これは絶対におかしい! と獣医さんに診てもらったんです」

 診断の結果わかったのは、先天性の食道狭窄。胃の手前で食道が細くなり、食べ物はおろか、液体すら通らなくなっていたのです。

シリンジを見ると、においをクンクン。「早く口から食べられるようになりたいね」
シリンジを見ると、においをクンクン。「早く口から食べられるようになりたいね」

このままでは死んでしまう! 緊急措置としての胃ろう

 担当してくれたのは東京都立川市のおおにし動物病院。院長の大西学さんに話を聞きました。

「本来、胃ろうを取り付けるにはもう少し身体が大きいほうがいいんですが、こももちゃんの場合は緊急事態。栄養はおろか水分さえ摂取できない状態が続くと命にかかわりますから、まず胃ろうを提案しました」

 胃ろうとは、身体の外から直接胃にチューブを入れ、栄養を送り込む処置(または装置)のこと。人間でも食事が思うように摂れない高齢者などに行われることが多い処置ですが、子猫に胃ろうとは初耳です。

「珍しいケースでしょうね。人間の場合、現在は内視鏡手術が主流です。傷が小さくて済むし、身体への負担も少ない。動物の場合でも、大学病院など施設の整ったところであれば、内視鏡手術をするでしょうね」

 こももちゃんの場合は、開腹手術。あまりにも身体が小さく、直接目で見ながらの手術が最適との判断でした。

「どんな方法が最善なのかは、その動物の状態次第。ただ、どんな方法であれ胃ろうを取り付けるには麻酔が必要ですから、最低限、全身麻酔に耐えられるだけの体力は必要です。病気や高齢の動物でも、体力が落ち切ってしまってからでは胃ろうも設置できない。タイミングの見極めが重要です」

 素早い判断が功を奏して、こももちゃんの手術は成功。まずは胃ろうで十分な栄養と水分を摂り、身体を維持・成長させる。そして体重が3キロぐらいまでになったら、狭窄している食道を広げる治療をしましょう、ということになったのです。

ケージから出してもらえる時間も増えてきた。このあとカラーを外してもらっておおはしゃぎ
ケージから出してもらえる時間も増えてきた。このあとカラーを外してもらっておおはしゃぎ

わんぱく娘・こももは誰より元気!

 周囲の心配をよそに、こももちゃんはいたって元気。スタッフの多田さんが毎日自宅へ連れ帰り、昼間はねこかつで過ごします。食事はもちろん、多田さんが胃ろうチューブに療法用の流動食やミルクを流し込んでくれます。

 胃ろうをした猫のケアって、どんなものですか?

「胃ろうの猫のお世話をしたのは私も初めてで、無我夢中でやってきました。最初のころは、一日に4、5回、流動食を。合間にミルクを与えていました。高齢猫のケースと違って、とにかくよく動くし暴れるので、チューブをひっかけて外してしまわないかとヒヤヒヤで……。実際、年末に一度抜けてしまって大騒ぎしたことも。なんとか年末年始でも空いている病院へ駈け込んで、チューブを入れなおしてもらいました」

 チューブの接続部分はつねに清潔に。抗生物質入りの軟膏を毎日塗っているといいます。「ちょっとでも化のうしたり、傷口が開くようなら、即病院へ。最初は体が小さすぎてワクチン接種もできなかったから、他の子と接しないように隔離してました。いつもケージやキャリーケースから外を眺めて寂しそうでしたが、今では少しずつ、出してあげられるようになりました」

 温かい部屋で常に見守られて、こんなお姫様猫もいない、と多田さんは笑います。

 私が2度目にこももちゃんを訪ねたのは年明け、1月末。初めて出会った時700グラムだった体重は、1.5キロほどに。食事も朝晩2回になり、体つきもだいぶしっかりしてきました。

「流動食用のシリンジを取り出すと、ぺろぺろ舐めるんですよ。口から食事をしたいっていう意欲はすごく強いみたい。生命力のある子だと思います」

 同時に保護されたきょうだいたちは、とっくに譲渡先が決まり、保護猫カフェを卒業して行きました。今、ねこかつで一緒に遊んでいる子たちはみな、こももちゃんよりも歳が若いのに、体格は彼女よりも上。それだけ成長が遅いのです。それでも元気いっぱいのこももちゃん。じっくりと成長しながら、本格的な手術ができる日を待っています。

後輩たちより小柄なこももちゃん。一緒に遊んでいる「ちさと」ちゃんも年下だ
後輩たちより小柄なこももちゃん。一緒に遊んでいる「ちさと」ちゃんも年下だ

こももちゃんの食道はどうなるの?

 取材開始当初は「バルーンカテーテルで食道を拡張させてみようと思っています」とおっしゃっていた大西先生。麻酔をした状態で気管挿管用のバルーンカテーテルを口から食道に入れ、患部に届いたら空気を送り込んで内側からぐっと広げます。それを数回繰り返すことで、少しでも広がってくれるのを期待しましょう、という予定だったのです。

 ところが、この原稿を執筆するうち、方針が変更に! 改めて大西先生に伺いました。

「大きくなってきたこももちゃんを診察したところ、血管の異常ではないかと思われる所見がみつかったんです」

 どういうことでしょう?

「動物の胎児には独特の『胎児循環』という循環経路があるのですが、通常、成長にともなってなくなるはずなんです。それが動脈管遺残症といって、身体の中に残ってしまう病気です」

 残ってしまった血管は血流があるわけではななく、じん帯のような状態なのだとか。

「これが周囲の組織とともに食道を圧迫するのです。もしこの状態だとしたら、バルーンカテーテルで膨らませても食道は広がりません」

 もう少し体重が増えるまで継続的に診療を続け、「動脈管遺残症」であることが確実ならば、開胸手術で残ってしまっている血管を取り除くことで食道を復活させるのだといいます。

 いずれにせよ、手術できるようになるまであと一息。

 しっかり健康体を取り戻したら、新しい家族を探す予定です。

「殺処分されてしまう子もいる一方で、ここまで気にかけてもらえる子もいる。どちらも大切な命であることに変わりはありません。こももちゃんにもがんばってもらって、幸せになってもらわないと」

 誰もがこももちゃんの幸せを願っています。がんばれ、こももちゃん!

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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