あかんたれな愛犬「シーちゃん」と私 老人ホームで重ねる時間

自室で愛犬の「シーちゃん」と過ごす好川さん。棚の上には夫の写真などが飾られている(高野良輔撮影)
自室で愛犬の「シーちゃん」と過ごす好川さん。棚の上には夫の写真などが飾られている(高野良輔撮影)

 食堂での朝食を終えて部屋に戻ると、「小さな家族」が全身で喜びを表しながら、迎えてくれる。

 「この子のおかげで、私は心強くいられるんです」

 好川富子さん(80)は、そう目を細め、抱きしめる。

 住宅型有料老人ホーム「れんげハイツ井高野」(大阪市)に入居して、まもなく2年が経つ。この間、好川さんを支えてくれたのが「シーちゃん」。長く暮らした奈良市内から、娘がいる大阪市内に夫婦で越してきた2015年。慣れない土地に住む励みにと飼い始めた、メスのシーズーだ。

 ホームには17年春、夫婦そろって入居した。だが夫は、施設に入って3日目に脳梗塞(こうそく)で倒れ、逝ってしまった。ショックで寝込み、涙が止まらなくなった。寂しさで気がおかしくなりそうな日々を、シーちゃんが救ってくれた。

 「シーちゃんがそばにいてくれるだけで、うれしくて。この子がいるから立ち直れました」

 れんげハイツ井高野は、まだ全国的にも限られる、犬や猫などのペットと暮らせる老人ホーム。全77戸のうち、7戸がペット可だ。数十年、連れ添った夫を亡くした好川さんに、シーちゃんと離れて生きる選択肢はなかった。

ペット専用ルームでくつろぐ好川さん(高野良輔撮影)
ペット専用ルームでくつろぐ好川さん(高野良輔撮影)

ペット可の老人ホーム 1人と1匹の暮らし

 シーちゃんは、好川さんにとって4匹目の犬だ。夫が犬好きで、家には常に犬がいた。どの子もかわいかったが、シーちゃんはやはり特別。「1人と1匹」の時間が積み重なり、お互い、なくてはならない存在になった。

 自室で、好川さんの病気を「発見」してくれたこともあった。

 深夜、眠っている好川さんの体を前脚でしきりに押すシーちゃんの姿を、見回りの職員らが何度か目撃した。不思議に思って観察してみると、好川さんの呼吸が止まると、シーちゃんが押し始めることがわかった。病院で検査し、睡眠時無呼吸症候群だとわかった。

 かしこい半面、「この子はあかんたれさん」と笑う。施設内で暮らす、ほかの犬に興味はある。でも気が弱い。近寄ってみても、すぐ好川さんのもとに戻ってくる。

 昼間、楽しそうに長電話をしていると、ヤキモチをやいて唸(うな)る。夜は、好川さんの体に触れていないと眠れない。だから冬場は布団のなかで、好川さんが腕枕。

 一方の好川さん。シーちゃんが月に1度、トリミングのために不在になるのが耐えられない。その日、シーちゃんは朝からトリミングサロンに預けられる。「食堂から部屋に戻ると、シーちゃんがいない。もう寂しくて」

 夕方、「感動の再会」を果たす。玄関に迎えに行くと、シーちゃんが駆け寄ってくる。抱きしめる好川さんの腕のなかで、シーちゃんは尻尾を振り続ける。

愛犬みとるため「90歳まで元気でいたい」

 好川さんは4歳の時、ポリオ(小児まひ)にかかり、右足に障害が残った。いまは車椅子生活。朝晩の散歩に支障はないが、「ペット可」が売り物のれんげハイツはペット関連の設備が充実しており、ドッグランが併設されているのでありがたい。1日1回、放してやると、思いっきり駆け回る。

 約14平方メートルのペット専用ルームもあり、散歩ができない雨の日は重宝する。トイレシートの交換やドッグランでの運動を、職員が手伝ってくれるのも助かる。

 シーちゃんは今月17日で4歳になる。小型犬の平均寿命は、およそ14歳。好川さんはいう。

 「ちょっと自信はないけど、なんとか、この子をみとってあげたいんです。ここで90歳までは、元気でいます」

 シーちゃんを残して、先には逝けない。最近、デイサービスの体操教室に通うようになった。
(太田匡彦)

■部屋の情報
住人 女性・80歳
物件 ペットと同居できる有料老人ホーム
広さ 約13平方メートル(自室)
月額費用 通常約13万円(ペット同居)

■ペット可の老人ホーム
 ペット可の老人ホーム ペットフード協会の調べでは、70代の世帯の飼育率は犬が10.0%、猫が7.5%(2018年)。全世代でみれば犬は減少傾向が目立つが、70代だけは横ばい傾向にある。一方、ペット可の老人ホームは全国的にまだ限られ、老人ホーム検索サイト「みんなの介護」によると、4万7074件の登録施設のうちペット可の施設は218件にとどまる(1月8日現在)。

朝日新聞
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