けがした猫を自宅に引き取り治療、世話 女性が保護を続ける理由

 けがした猫を中心に保護活動をしている女性がいる。自宅で預かり、治療し、新たな飼い主に譲渡する。9年前から地域猫活動と並行して続けている。インスタグラムでも注目されている女性に会いに行ってみた。

(末尾に写真特集があります)

 東京都心の閑静な住宅地。瀟洒な3階建て住宅で、tekoさん(48)はカメラマンの夫と、たくさんの猫と1匹の犬と生活している。

「常に20頭前後いますが、どの猫も保護した猫たちで、みんな大けがをしていたり、衰弱していた子たち。里親募集中の子もたくさんいます」

 2階にあがると、大きなソファベッドに白黒猫がくつろいでいた。ダイニングテーブルや椅子、キャットタワーの上にも猫がいる。棚にはモニター画面があり、猫が映し出されていた。

1階の保護部屋にいる『カエデ』という19歳の猫と、『神楽』という猫をモニターでチェックしています。カエデは大けがをしていたエイズの元地域猫。神楽は右眼球が破損していてリハビリ中。だいぶよくなりましたが、てんかんがあるので心配で……」

 そう話す脇を三毛猫が足早に通り過ぎた。よく見ると後ろ足がきかず、前足だけを使って歩いている。昨年末に東京都の動物愛護相談センターから引き出した「レモン」だ。

「うちにいるのは、ワケありな子ばかり。それがいちばんの特徴ですね。ひどい状態の子が多い時は、月の3分の2は動物病院に通っていますよ」

 tekoさんは子どもの頃から動物好きで、30代前半で結婚して2匹の猫を飼った。当時は「精力的に保護活動をすると思わなかった」というが、9年前に転機が訪れた。

怪我して遺棄されていた「てこちゃん」との出会いから保護活動に力を入れるようになった(tekoさん 提供)
怪我して遺棄されていた「てこちゃん」との出会いから保護活動に力を入れるようになった(tekoさん 提供)

黒白猫「てこちゃん」との出会い

 きっかけは、インスタグラムのハンドルネームにもしている黒白猫「てこちゃん」との出会いだった。

「この家に越して来る前に住んでいた街は、すごく猫が多かったんです。ある時、近くの教会の前を通り過ぎたら、けがで目の塞がった子猫を抱いて教会の人がおろおろして、『捨てられたようで困っている』と仰って。可哀そうなので、そのまま子猫を連れて帰りました。教会の名(天理教)にちなんで、テンテンとかてこちゃんとか呼ぶようになって」

 懸命に治療をすると、てこちゃんは元気になり、顔もきれいになった。それから、外にいる猫たちが「どうしてこんなに弱ったり、けがをしているんだろう」と気になるようになったのだという。

 だが、当時の住まいはマンションで、2匹までしか飼えなかった。飼い猫のほかに保護猫が2匹、3匹と増えると、夫が「ちょっと待って」と慌てた。そこで話し合い、5年前、思い切って一戸建てを買った。

「まさに猫のためのお引っ越し。それでも最初、夫には『保護は3匹までね』と釘をさされました。引っ越して、まず私がしたことは、周囲の猫の情報収集。近所の家をピンポンして、この辺りに猫がいませんか? 猫でお困りではないですか? と聞き込みをして。近所の餌やりさんの所在がわかると、差し入れのゴハンを持って訪ね、オペをしてない子のことを聞いて、オペを施すようにしました」

東京都動物愛護相談センターより引き出したレモン(1歳)。下半身不随だがすいすい移動して水のみ中「家族募集中です」
東京都動物愛護相談センターより引き出したレモン(1歳)。下半身不随だがすいすい移動して水のみ中「家族募集中です」

けがした猫を引き取る

 地域猫と、そのお世話をしているたくさんの餌やりさんたちの存在を知って交流を持つようになった。やはり気になったのは、けがをした猫の存在だった。何とか助けられないか、とできる限り治療をした。そんな中、前から交流のあったボランティア(地域猫の先輩)と保護団体「CATWINGS」を作った。

「CATWINGSの当初の主要メンバーは3人で、代表は主に老猫たちを引き出して看取り、私は負傷猫を引き出し看病し、もう一人は地域猫活動に力を入れています。我が家の保護猫を家族に迎えて下さった方がメンバーに加わり、あとから犬部もできました」

 tekoさんによると、最近では保護団体が多くなり、譲渡数が増え、殺処分は減ってきている。だが、引き出されるのは子猫が多く、負傷猫に手を差し伸べる団体はあまりないという。「無理」「もらい手もない」と思われるからなのだろう。でもtekoさんは「ひどい子ほど何とかしたい」と、挑戦した。そしていくつもの奇跡が起きた。

 差し出された写真には、目を疑うほど回復した猫たちが写っていた。

「たとえば『アポロ』という猫は、交通事故にあって殺処分対象だったのに、見違えるほど元気になりました。『左膳』は頸椎がずれて全身麻痺だったけど、病院を回ってたまたま巡り合えた神経科の先生のアドバイスで、手術なしで静養して歩けるようになったんです。昨年『レモン』といっしょに引き出した『ライム』は顔面を骨折していたけど、よき家族にもらわれて……」

車のエンジンルームに後ろ足を巻き込まれた「めめ」。これからの季節は「猫バンバン」「ボンネットコンコン」することで助かる命もある (tekoさん提供)
車のエンジンルームに後ろ足を巻き込まれた「めめ」。これからの季節は「猫バンバン」「ボンネットコンコン」することで助かる命もある (tekoさん提供)

夫も資金面で協力

 これまで200頭ほど保護・譲渡してきたという。だが、tekoさんは専業主婦。保護活動にかかる医療費などは夫頼みだ。夫は当初は消極的だったが、ある時から認めてくれるようになったのだという。

「死にそうな子が家に来て、手当てをして元気になり、よいおうちに行くのを何度も見るうちに、『君がやってることはすごいと思う』と言ってくれたんです。病院に連れて行くとかヘルプはないけど、金銭面で支援をしてくれています。彼は2階のソファベッドで猫たちと寝て、私はベッドを捨てて3階で猫白血病で隔離中の『めめ』と寝ています」

 保護活動に加え、地域猫の活動も続けている。

「ここ最近、保護犬、保護猫が注目を浴びるようになりましたが、地域猫には目を向けられていない。だから今でも、こそこそと餌やりする方が多いんです。餌やりをするお年寄りに、餌をあげるなら手術しろといっても、なかなかできない現実があるし、それを助ける行政の協力がもっともっと必要ですね。地域にいる猫がまず地域でしっかり管理されるのが目標。それができないと殺処分ゼロだって難しいと思います」

tekoさんと元捨て犬のクリパ
tekoさんと元捨て犬のクリパ

猫の家に犬が加わる

 猫の話をするtekoさんの足元には、2年前のクリスマスに家に来たという元捨て犬「クリパ」が静かに寄りそっていた。今は犬と一緒に学ぶことが楽しいという。

「大人になって犬と暮らすのは初めて。猫とは魂でつながり、犬は人間の子どものような絆を感じます。犬友も増えて世界が広がりました。やりたいことはまだたくさんあります。この子たちみんなに幸せになってほしい」

 包み込むような柔らかな眼差しで、猫たちがくつろぐ部屋を見回した。

tekoさんのインスタグラム
@teko1010



藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。
この特集について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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