犬や猫への虐待見抜けず 「殺処分ゼロ」目指し続けられた譲渡
犬や猫の殺処分ゼロを目指す茨城県動物指導センター(笠間市)の活動が揺れている。8月、センターが犬や猫を引き渡していた愛護団体の元理事長の男性(55)が猫に暴行を加える様子を撮影した動画が、ネット上で広まったためだ。なぜ見抜けなかったのか。
犬や猫に暴行する様子を撮影 3分半の動画
「ワンワン」。犬のけたたましい鳴き声が響く中、男性が右手に持った棒で猫を叩く。逃げる猫の首を捕まえて放り投げたり、顔に袋をかぶせて床にたたきつけたり。動画サイト「ユーチューブ」で公開された約3分半の動画には、犬や猫に暴行を加える様子が映っている。
動画を公開したのは環境NGO「ライフ・インヴェスティゲーション・エージェンシー(LIA)」。動画に映っていた男性を昨年12月、動物愛護法違反(虐待)容疑などで県警に刑事告発した。
告発状によると男性は2016年7月、水戸市内の動物保護施設で猫を叩くなどの暴行を加えた疑い。猫はその後、死亡したとしている。
男性は、水戸市にあったNPO法人の動物愛護団体の元理事長だ。朝日新聞の取材に「動画に映っているのは自分」と認めた上で、「棒で叩いた猫と死んだ猫とは別だ」と強調した。一方で、「いきすぎたしつけだった。反省している」と語った。
水戸署は先月15日、同容疑で男性を書類送検。その後、男性は愛護団体の解散を決めた。団体の施設にいた動物は県動物指導センターに引き取られた。
犬や猫への虐待の可能性 把握していたけれど
男性によるとこの団体は2015年12月ごろから、飼育放棄された犬や猫を新しい飼い主に譲る活動をしていた。これまでにセンターから計79匹の犬と猫を譲り受け、それ以外も含めると100匹以上を愛犬家らに引き渡してきたという。
一方、センターには、「センター長が譲渡が不適切と判断した場合」に譲渡先団体の登録を取り消せるとの規約がある。だが、男性が刑事告発された昨年末以降も犬6匹を渡していた。告発や動画について、「男性が書類送検された8月に知った」と釈明している。その一方で、虐待の可能性については昨年ごろから把握していたという。
説明によると昨年10月、男性が運営する団体で「動物が虐待されている」との情報が複数寄せられた。これを受けて職員が水戸市内の施設に抜き打ち調査を実施。だが、虐待を疑わせる証拠は確認できず、譲渡先団体の登録を取り消すことはしなかったという。
「殺処分、減らさないといけない責任感あった」
虐待の可能性が分かった時点で引き渡しを止められなかったのか。センターの関係者はその背景を「殺処分ゼロを掲げる県全体の目標があり、殺処分を減らさないといけないという責任感があった」と語る。
県内の犬の殺処分数は05年度から8年連続で全国最多。その後もワースト2位が続いた。これを受けて県議会は16年12月、「県犬猫殺処分ゼロを目指す条例」案を全会一致で可決。センターも殺処分を減らす手段として、保護した犬や猫を民間団体に譲り渡す活動に力を入れた。センターに登録する譲渡先団体は約65団体(8月末現在)に及ぶ。
その結果、譲渡数は増えた。17年度は約2100匹で08年度に比べて約1100匹増えた。一方、17年度の殺処分数は約710匹と08年度比で約8500匹も減った。センター関係者は「多くの譲渡先団体は身銭を切りながら慈善行為で協力してくれている。元理事長の団体も、虐待が確認できない中、一方的に引き渡しを拒むことはできなかった」と打ち明ける。
殺処分をなくす機運が高まる一方で、協力してきたはずの動物愛護団体のモラルが問われる問題は他県でも起きている。6月には、犬の殺処分ゼロを目指して保護犬を引き取っている広島県の団体に対し、「一部の犬に狂犬病の予防注射をしていなかった疑いがある」として広島県警が家宅捜索した。
今後の再発防止策について、センターは「事前通知なしの立ち入り調査を増やしたり、警察との連携を深めたり、虐待への抑止力を高めていく対策を検討したい」と説明している。(笹山大志)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。