地域猫ががんに かさむ治療費、ネットの支援で救われる

 20代の女性が可愛がっていた地域猫が体調を崩した。あまりの衰弱ぶりに、保護して検査をすると、悪性リンパ腫だった。助けたいけれど、がんの治療費は高額……。悩む彼女を支えたのは、インスタグラムで人気のある友達だった。そして支援の輪が広がった。

(末尾に写真特集があります)

「イケメンでかっこいいねって言われます」

 そう女性が話すのは、彼氏のことではない。「ぎんのすけ」という名前のオスの猫(推定5歳)のことだ。

 東京都東部に住む会社員・佐藤夕香子さん(29)とカフェで待ち合わせ、話を聞いた。差し出されたスマホに映し出された白黒の猫は、大柄で、なびくような長毛やキリッとした目元が確かに美しかった。

「私が145センチと小柄なので、抱きあげたりすると、存在感が半端なくて(笑)」

 朗らかに語るが、実は「ぎんのすけ」はこの春、生死の狭間をさまよっていた。今の姿からは想像できないほどやせ細り、目が腫れ、毛もボサボサになっていたのだという。

「元気になったのは奇跡としかいいようがありません……。感謝、感謝です」

4月から抗がん剤治療を開始した(直前まで目が腫れ、呼吸が辛そうだった)
4月から抗がん剤治療を開始した(直前まで目が腫れ、呼吸が辛そうだった)

公園に住んでいた猫

「ぎんのすけ」は元々、近所の公園を拠点にしていた地域猫の1匹だった。えさを与えるボランティアたちから“あまちゃん”と呼ばれていた。出会うと、夕香子さんのもとにも駆け寄ってくるので、ご近所猫として見守っていたという。ところが昨秋、異変が起きた。

「猫とは思えない変な咳をし始めたので、捕獲して動物病院に連れて行ったんです。うちにはすでに3匹の猫がいて、部屋にスペースもなかったので、持続効果のある一般的な風邪の注射を打ってもらって、リリースしました。でもなぜか、なかなかよくならなくて」

 その後、「ぎんのすけ」はあまり姿を見せなくなった。会えない日々が続いたが、今年2月になって、突然、フラフラと夕香子さんの自宅の前に現れたという。

「『大変、あまちゃがん来てるー』と妹に呼ばれて、慌てて玄関に出ると、ガリガリになって鼻血を出していました。これはヤバいと思って、物置を片づけて、2段ケージを置いて保護しようと決めたんです。この状態でリリースしたら死んでしまうし、自分も後悔すると思いました。何とかしなきゃ、という一心でした」

 夕香子さんはすぐ保護して、病院へ向かった。

最初の抗がん剤の翌日、鼻づまりが改善して気持ちよさそう。首につけているのはザビエル首輪
最初の抗がん剤の翌日、鼻づまりが改善して気持ちよさそう。首につけているのはザビエル首輪

高額の治療が必要に

 獣医師は最初、風邪をこじらせて、蓄膿のようになったのではないかと考え、2週間ごとに薬を変えて処方してくれた。だが、どの薬も合わず、体調は悪化していった。

「両目に瞬膜も出て、顔が変わって……。月一度来る眼科専門の獣医師に診てもらいますかと言われて受診すると、精密検査を勧められ、大きな病院に出向きました」

 CTを撮ると眼窩(がんか、目の穴)に腫瘍があることがわかった。悪性リンパ腫、血液細胞に由来するがんだった。

 この時のCT検査にかかった費用は14万円。その後の治療として、獣医師から放射線か、抗がん剤による治療を提案されたが、夕香子さんは戸惑った。

「私はふつうの会社員ですが、ぎんを保護してからCT検査にこぎつけるまでに、治療費のために飲食店でアルバイトもしていました。麻酔をその都度かける放射線よりは抗がん剤がいいと思ったけど、どうしよう……と、ためらいました。そしたら治療方針の話し合いに付き添ってくれたmaiさんという猫の師匠のような友達が『やるしかないわ』と言ってくれて」

「ぎんちゃまへ」と物資の支援も多く届いた
「ぎんちゃまへ」と物資の支援も多く届いた

思いがけない支援

 maiさんは多くの猫を保護し、「ザビエル首輪」という布製カラーを活動の一環で作っている。ブログ「白猫コトのおちり」が人気で、インスタグラムのフォロワーも13万人を超える存在。保護猫を通じて2人の交流が始まった。

「家も近くて行き来するようになったんです。いつも『ぎんのすけ』を心配してくれました。それで検査後も背中を押してくれて、サポートを申し出てくれたんですよ」

 ザビエル首輪を“ぎんのすけチャリティーグッズ”としてネットで販売するという提案だった。仲間と200個制作し、「ぎんのすけ」の病状を記して売ると、20分以内で完売した。追加で50個作り、見舞金は総額35万円に達した。

 感動しました、と夕香子さんはいう。

「検査と抗がん剤治療の費用の大半をまかなえました。その後も『ぎんちゃまへ』と寄付を申し出てくれる方が複数いらして。お金は少し抵抗がありましたが、ネットで買い物をする形で支援してもらう方法(Amazon ほしい物リスト)もあると猫仲間から教えてもらい、免疫アップのサプリやフードなどを記すと次々に届いて、本当に助かりました」

 抗がん剤治療は想像以上に効果があった。心配していた副作用もなかったという。

寛解したぎんのすけを抱く夕香子さん(9月)
寛解したぎんのすけを抱く夕香子さん(9月)

「初回の抗がん剤が効いて鼻づまりが改善し、翌日には苦しそうな口呼吸がなくなりました。2回、3回とすると、どんどん元気になったんです。多くの方の祈りが通じたのかもしれません。『悪い細胞なくなれ』と私も日々語りかけました。もちろん『ぎんのすけ』自身が“生きたい”気持ちを強く持っていたのでしょう」

 抗がん剤は4月から13回投与する予定だったが、6回目を終えた7月、獣医師から「寛解状態」と告げられ、投与はいったん休止。体重が増えて毛艶が見違えるほど良くなったという。

「今は落ち着いています。穏やかなので、先住の3匹ともうまくやっています」

 子どもの頃から家には(拾ったりシェルターから引き取った)猫がいたが、「ぎんのすけ」の件を通していろいろなこと学んだそうだ。

「ずっと自分に自信がない人生だったけど、助けたい一心でここまできて、こんな自分でもできることがあるんだと思えました。人の温かさに触れて、考え方も変わりました。『ぎんのすけ』に会って以来、積極的に子猫も保護するようにもなって……。保護活動というとベテランの人がやっているイメージがあるかもしれませんが、私のような普通の若手でもできる。困った猫がいるとき、すぐに諦めないで、と多くの方に伝えたい。だからインスタでも思いを綴っているんです」

 そう言って微笑み、「ぎんのすけ」の待つ家へと帰っていった。

佐藤夕香子さんのインスタグラム
@blcmlcln
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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