生後4日で託された子犬 哺乳瓶と先住犬に助けられて成長

 子犬はわずか生後4日目で、母犬から離され、愛犬家に託された。「人の無知」から生まれた不幸な子犬だった。哺乳瓶のミルクで育てられ、今年9歳になった。

(末尾に写真特集があります)

 大阪府堺市。一人暮らしの老人が、息子にもらったというメスのジャックラッセルテリアを飼っていた。近所に勤めていたAさんが会社の犬を散歩させていたところ、そのジャックラッセルテリアを目当てに、盛りのついた野良犬がうろうろしているのを見かけたという。

成り行き任せの妊娠出産

 犬はぬいぐるみではない。生理もあれば、発情や妊娠もする。しかし、ジャックラッセルテリアの飼い主である老人は、そんなことを意に介さず、不妊手術していない犬を屋外で日向ぼっこさせていた。それをオスの野良犬たちが放っておくはずもなく、やがてジャックラッセルテリアは妊娠してしまった。

 Aさんはそのことを指摘したが、老人は「お金がない」ことを理由に、動物病院に連れて行くことなく自然にまかせていた。

 結局、9匹の子犬が産まれて、4匹は死んだという。Aさんはその間、ずっと成り行きを見守り、老人に助言し続けた。本来なら母犬の乳で育てるほうがいいのだが、老人が子犬を無事に育てることは期待できなかった。Aさんは、生き残った子犬1匹を友人の巽さんを託した。その犬が「鉄人(てつと)」くんだった。

「みんなと一緒で楽しいな」
「みんなと一緒で楽しいな」

人間のお母さんと2匹の先住犬

 巽さん宅に、鉄人くんがやって来たのは、生後4日目だった。巽さんは、文字通り我が子のように、温めた脱脂粉乳を哺乳瓶に入れて鉄人くんに飲ませて育てた。

 普通の子犬は母乳を飲むことで免疫力をつけ、母犬のぬくもりを知っていく。幸い鉄人くんは、母犬がいなくても、なんとか無事にすくすくと育った。

 鉄人くんを迎えた当時、巽さん宅には、雑種の保護犬とマルチーズを飼っていた。鉄人くんは2匹の先住犬に囲まれて育ち、他の犬とのコミュニケーションも十分に取れるようになった。

 子犬は母犬のもとで兄弟姉妹と一緒に育つ時に社会性を学ぶものだが、鉄人くんにはその機会がなかった。だが、先住犬との触れ合いを通じて、それを学んだことになる。

 産まれた時から、哺乳瓶でミルクを飲んで育ったため、いまも上手に哺乳瓶からミルクを飲む。毎年、誕生日には哺乳瓶からミルクを飲んでお祝いするのだという。

 今年、鉄人くんは無事、9歳の誕生日を迎えることができた。くったくなく笑い、ドッグランを駆け回っている。

渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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