友だちの輪を広げてくれた保護犬「あさり」 ずっと一緒だよ
千葉県八街(やちまた)市の小学6年生だった森田千浬(せんり)さん(12)は昨年9月、放課後の校舎を一人で歩いていた。
「一緒に帰ろう」
その言葉を、今日も言い出せなかった。「断られたらどうしよう」。言いたい、でも……。考え、顔を上げると、友だちはもう教室からいなくなっていた。
家に着くとランドセルを床に投げつけ、部屋にこもった。「何かあったの?」。母の玲子さん(40)に聞かれても、涙が出て、枕に顔を押しつけた。
軽度の知的障害がある千浬さんは、自分の気持ちを伝えるのが苦手だ。学校に行きたくない朝が多かった。そんな日は決まって、玲子さんが車で送り迎えをしてくれた。
ある日、千浬さんの家に、犬が来た。愛護団体に保護された秋田犬で、審査の結果、森田家が引き取り先に選ばれた。姉の海里(かいり)さん(15)と話し合って、「あさり」と名付けた。
初めての夜、ケージに鍵をかけようとすると、あさりはかすれ声で鳴いた。「大丈夫だよ、大丈夫だよ」。千浬さんは夜遅くまで、あさりをなで続けた。
1週間ほどたったころ。
千浬さんが学校から帰ろうと校舎を出ると、校門に人だかりができているのが見えた。駆け寄ると、輪の中心に犬がいた。
「わぁ、あさりが来た」。千浬さんの声に気づいて、飛びついてきた。
母に連れられて、迎えに来てくれていた。
「あさりっていうの?」
「お利口だね」
「超かわいい」
同級生たちの質問に、千浬さんは少し恥ずかしくなったけど、一言ずつ、笑ってうなずいた。
「いくつ?」
「えっとね……、あれ、ママ、何カ月だっけ?」
話をしながら、同級生たちと一緒に帰り道を歩いた。別れ際、千浬さんは大きく手を振って言った。
「バイバイ、またあしたね」
今春、千浬さんは中学生になった。初めての自転車通学の朝、千浬さんは真新しいセーラー服に、リュックを背負って、勢いよく自転車をこぎ出した。
「行ってきます」
そのあとを、しばらくあさりが追いかけてきた。
(野城千穂)
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