「もう産めないから」 繁殖業者が手放した白く大きな犬
柴犬やプードル、ゴールデン・レトリーバーなど、特定の犬種だけを専門に繁殖させるブリーダーがいる。善良なブリーダーは犬を大切に終生飼養するが、そうではない業者もいる。そんな業者から「もう産めないから」という理由で手放されたのが、白く大きな犬「グレート・ピレニーズ」のポーラだった。
出産後すぐに手放された繁殖犬
ポーラは、推定8歳。保護団体Ley-Line(レイライン)が別の団体から引き受け、今年2月に、大阪の一時預かりボランティアの鳥飼さん宅にやって来た。ブリーダーが「もう高齢で、これ以上出産できないのでいらない」と言って手放した犬だという。
鳥飼さんは言う。「うちに来た時は、まだ悪露(おろ)がポタポタ出ている状態で、出産後3~4週間しか経っていなかったと思います」。悪露とは、出産後に子宮から出てくる胎盤や子宮内膜などが混ざったものをいう。
つまり、ポーラは出産後すぐに手放されたことになる。ブリーダーは手元に置いて、えさ代など経費をかけることを嫌った。だが、不幸はポーラだけでなく、ポーラが産んだ子犬たちにも及ぶ。母犬の乳を飲まず、愛情も受けず、免疫力をつけて健康に育つことなく、子犬に必要不可欠な社会化の機会も失ったのだ。
出会いを待つ日々
鳥飼さんは、ポーラを預かった時のことをこう振り返る。
「出産直後だったためか、体重はまあまあありました。でも、筋肉があまりなく、歩くのもしんどそうでした。首や脇、お尻の毛もはげていましたし。当時、うちは小型犬の子を数匹預かっていたのですが、ポーラは他の犬を踏まないように気をつけていました。優しい子なんです」
高齢の域に差しかかった超大型犬のため、譲渡先を探すのは難しそうだ。それでも幸いフィラリアは陰性で、差し迫った病気もないようだった。人とのコミュニケーションもできる。自宅でトリマーをしている鳥飼さんは、里親をみつけやすいようにポーラの毛の手入れをして、その時が来るのを待っている。鳥飼さんはLey-Lineの譲渡会にポーラを連れて参加したが、譲渡希望者はいまだ現れない。
保護団体のジレンマ
鳥飼さんは、ポーラのほかに2匹の柴犬も預かった。四国のブリーダーが事業を続けるのが難しくなったと手放した元繁殖犬だ。レイラインがこの柴犬を引き取った時、すでに他の若い柴犬は誰かに引き取られていた。
「おそらく、まだ繁殖に使える犬は、ほかの繁殖業者が引き取ったのだと思います」と、レイライン代表の金本さんは言う。
保護団体にはジレンマがある。子犬を産ませるだけ産ませて金を儲け、いらなくなったらボランティアに引き渡すブリーダーがいる。非常に残酷で無責任な話だが、保護団体からすれば、その犬たちの殺処分は回避したい。ブリーダーとの繋がりをたち切ってしまうと、助けられる犬も助けられなくなる可能性がある。善良なブリーダーだけが生き残れる法整備やペット産業全体の改革を求めているのはそのためだ。
柴犬たちの譲渡先はみつかり、1匹取り残されたポーラは寂しそうだという。ポーラのファンは多いが、引き取りとなると超大型犬なので少し難しいのだ。しかし、ポーラは、繁殖犬として生きてきた何年もの月日をものともせず、無邪気に生きている。
鳥飼さんは、ポーラと出会った時、自分でポーラを引き取りたいとも思ったそうだ。しかし、夫が犬アレルギーということもあって諦めた。
「経済的にもうちで引き取るのは厳しい。ポーラには、うちよりもっと幸せにしてくれる里親を探してあげたいと思っています」
- Ley-Line(レイライン)
- 現在は主に繁殖場への交渉・引き取りをしています。これから動物を迎えようと思っている人に、ペット産業の裏側を知ってもらえたらと思い、「癒しを求めるなら彼らに平和を返そう」というコンセプトで活動しています。
HP:http://ley-line.info
Mail : saco@ley-line.info

sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。