「ふれあい展示」、実は「虐待」? 動物園での不適切飼育
動物園で展示されている動物たちを巡るトラブルが近年、各地で起きています。背景には、動物の展示・飼育施設にまつわる規制のゆるさがあるようです。普段なにげなく目にする動物園の動物たち。その展示や飼育のあり方について考えてみませんか?
琵琶湖のほとり、滋賀県守山市内に立つ複合商業施設「ピエリ守山」のなかに、「めっちゃさわれる動物園」はある。
ハシビロコウやネコ科のサーバル、テンジクネズミ科のマーラなど約100種類の動物たちが、来園者らがふれあいやすいように飼育されている。2014年12月の開園以来、ピエリ守山の目玉施設のひとつだ。
一方で、園の飼育・展示方法は問題視もされてきた。滋賀県は動物愛護法に基づき、開園当初から「ふれあいが虐待とならないよう十分配慮すること」などと指導。立ち入り調査で、バックヤードや飼育施設、展示方法について「臭気がひどい」「人が通ると体をびくつかせている動物がいる」などと繰り返し改善を求めてきた。
経営母体の「堀井動物園」が所有する他施設も合わせると、県による調査は記録が残っている12年度から16年度で計71回。この間32回の口頭指導と18回の文書指導が行われている。
こうした状態について堀井動物園の橋内邦明営業主任は「資金がなくて施設の改善が進まなかったり、動物の管理に手が行き届かなかったりしていたのは確かだが、県の指導のたびに少しずつ対応はしてきている。私たちなりに一生懸命、世話をしている」と話す。
指導にあたってきた滋賀県動物保護管理センターは、園に展示マニュアルの作成などを求めてきた。だが、飼育施設や展示のあり方そのものについては「(動愛法に飼育施設の)面積などに関する明確な基準がなく、具体的な指導方法に苦慮する」などと指導の難しさをにじませる。
動物愛護団体「PEACE」の東さちこ代表は、「動愛法には、こうした業者を営業停止にできる明確な数値基準が必要だ。展示業は犬猫等販売業ほど規制強化が進んでおらず、置き去りになっている」と話す。
■専門家「監視強化を」
熊本県阿蘇市内の動物園「阿蘇カドリー・ドミニオン」については、同園で生まれたチンパンジーの展示方法を巡り、国際的な学識経験者らのグループ「アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い(SAGA)」が15年と16年の2度、非難声明を出した。
SAGAが問題視するのは同園が、15年9月に生まれたチンパンジー「プリン」を人工保育で育てたり、ショーに出演させたりしていることだ。SAGA創設者の松沢哲郎・京都大特別教授は「日本テレビ系列の『天才!志村どうぶつ園』の放送を見ると、母親は正常にプリンの面倒を見ており、プリンは順調に発育していた。そのような状態で、人工保育に移行すべきではない。今からでも一刻も早く母親に戻さなければ、チンパンジー同士のあいさつの仕方もわからないような障害をもたらすことになる」と指摘する。
朝日新聞では同園に取材を申し込んだが、「お受けできません」(営業・広報チーム)との返答だった。
また、北海道内の公立動物園では動物が死ぬ事故が相次ぎ、東北ではヒグマの脱走事故が起きるなど他施設でも飼育のあり方は問われている。
公益社団法人「日本動物園水族館協会」は昨年6月、めっちゃさわれる動物園と阿蘇カドリー・ドミニオンについて、「快適な環境にくらす動物を見ることで来園者は動物のことを正しく理解する」などの意見を表明した。同協会の成島悦雄専務理事は「展示の仕方に問題があるところは、ほかにもある。だが動愛法をはじめ、国内の法律ではその状態を規制できていない。まず動愛法で細かく規制し、定期的に状況をチェックする体制を整えてほしい」と指摘している。
(太田匡彦)
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