盲導犬と事故死したリーダーに捧げる阿波踊り 視覚障害者ら
街が踊り一色に染まる徳島市の阿波踊りに毎年、視覚障害者や盲導犬、介助人らがつくる「ハーネス連」が参加している。一昨年、連のリーダーが交通事故に遭い、一緒にいた盲導犬とともに命を落とした。その遺志を継いだ連のメンバーら約100人は、12日に開幕する今年の阿波踊りでも力強く踊りを披露する。
8日夜、徳島文理大学(徳島市)内の路上で、「徳島の盲導犬を育てる会」らでつくるハーネス連の練習があった。ハーネスとは盲導犬が体につける胴輪。鉦(かね)や太鼓が響く中、盲導犬を連れた視覚障害者が先頭で踊り、介助人や仲間の学生らが後に続く。
「ヤットサー、ヤットサー、踊りはハーネス!」。道の中央でマッサージ師の鶴野克子さん(52)がハーネスを持ち、右手を上げて笑顔で踊った。2歳の盲導犬ディアは今年が初挑戦。道路の端を歩くように訓練されており、端に寄りたがる。それでも鶴野さんのそばで、少しずつまっすぐ進めるようになった。
ハーネス連の誕生は2001年。視覚障害者の山橋衛二さんが「自分たちの連を作ろう」と「育てる会」に提案した。県外の視覚障害者や支援者も参加し、06年からは徳島文理大の学生連も加わった。
山橋さんは毎年、盲導犬とともに先頭で声を張り上げた。「育てる会」事務局長の杉井ひとみさん(58)によると、阿波踊りなどを通じて盲導犬の理解を広げる活動に力を入れていた。結成10年の会報には「目が不自由でも、体全体を使って阿波踊りを楽しめる、このうれしさを盲導犬仲間と分かち合いたい」と記していた。
しかし、15年10月3日朝、マッサージの職場に向かう途中、後退するダンプにはねられ、一緒にいた盲導犬ヴァルデスとともに50歳で亡くなった。ヴァルデスはこの日が10歳の誕生日だった。
ハーネス連はかじ取り役を失ったが、残った人々がその遺志を受け継いだ。山橋さんが踊っていた前列左側には、山橋さんとヴァルデスの写真入りの大うちわを持ったメンバーが立つ。踊り手たちは腰にヴァルデスをイメージした手作りのマスコットを下げる。
今、中心となって連を盛り上げている鶴野さんは「山橋さんやヴァルちゃんら、空から見てくれている先輩方やワンちゃんたちに、よくやったなと言ってもらえる踊りをしたい」と言う。杉井さんは「山橋さんには『あなたの場所はここにあるよ。思いを継承しているから安心して』と伝えたい」と話す。
(鈴木智之)
山橋さんと盲導犬ヴァルデスの事故は2015年10月3日朝、徳島市新浜町1丁目の市道で起きた。はねたダンプは後退時の警報ブザーが作動しない状態で、徳島地裁は判決で「安全に対する配慮が十分とは言い難かった」と指摘した。事故を受け、徳島県では15年、後退時の警報ブザーが付いた車に使用を義務づける国内初の条例が制定された。
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