山梨県庁にすむ野良猫、保護し不妊・去勢 ボランティア団体
今年1月、甲府市の県議会議事堂前駐車場の脇などに、金属網の捕獲器を設置する人たちがいた。しばらくして、茂みから出てきたのは野良猫たち。捕獲器の餌に興味を示し、おそるおそる中に入る。踏み板をふみ、入り口がガシャンと音を立てて閉まると、暴れ出す猫。すかさず笛吹市のボランティアグループ「NO MORE ALLEY CATS」のメンバーたちが走り寄り、毛布で捕獲器をくるんだ。猫の興奮が収まるのを待ち、車で動物病院へ。不妊・去勢手術を受けるためだ。
団体が取り組むのは「TNR活動」。TNRは〈TRAP=捕獲し、NEUTER=不妊・去勢手術し、RETURN=元の場所に戻す〉の頭文字で、野良猫の殺処分を避け、寿命を全うさせつつ数を減らすことが目的だ。「全てを保護することができないからこそ、次の不幸な命を増やさないようにし、地域が見守る『地域猫』として管理する新しい動物愛護の形」と代表の益田陽子さん。
県庁の野良猫は昨年4月の敷地の一般開放以来、目立つようになり、近隣から汚物などの苦情が寄せられていた。それを知った団体が県に協力を打診。地元自治会の協力もあり、今月までに26匹全ての不妊・去勢手術を終え、元の場所に戻した。このうち報道で活動を知った人たちが、5匹を引き取った。
結成は一昨年7月。益田さんが店長を務める店に「引き取ってもらいたい」と子猫5匹が持ち込まれたことがきっかけだ。店は、処分される動物の引き取り手を探すボランティア団体を手伝っていた。しかしボランティア団体に伝えると、「全てを保護すると破綻(はたん)してしまう。皆さんも何か協力できることを考えて」と問いかけられた。
それまで猫は触ったこともなかったが、車にひかれたりカラスに襲われたりする猫の姿を見て心を痛めてきたこともあった。「私も何かできないか」。調べる中で、TNRの活動を知り、職場の同僚の塩島亜貴さんら3人で会を立ち上げた。
活動は休日をフル活用する。野良猫が集まっている公園などの情報や依頼が寄せられると出向く。月に10件ぐらいはあるという。手術費用は市町村の助成金や寄付などを使うが、移動手段など手弁当の部分も多い。
「戻さないで保護しろ」と言われることもしばしば。しかし連れて行って別のところで放すのは、動物愛護法の遺棄罪にあたるので、近隣の人や自治会に粘り強く理解を求める。「やはり住民、特に行政の理解と力が必要」という。
それだけに、益田さんは「人間によって、全うできる命が遮断されないように、次の世代には、猫と人間の共生が浸透している山梨にしていければ」と思いを話す。
(中沢滋人)
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