元フーテン猫「ゴンちゃん」、今は穏やかに高層マンション暮らし
高層マンションで仲間たちと暮らすゴンちゃんは、1年前まで、木の下で寝るフーテン暮らしをしていました。ケンカも強い大猫なのに、ここでは新入り。とくに美猫の月ちゃんには頭があがりません。
写真・文 佐竹茉莉子
(末尾に写真特集があります)
お気楽外暮らし
一匹の特大のオス猫がふらっとこの町にやってきて、スーパーの入り口の小公園で暮らし始めたのは、一昨年の夏の初めだった。図体に似合わぬ可愛らしい声で「にゃあん」とおねだりをし、スーパーに出入りする猫好きたちから「ゴンちゃん」と呼ばれ、カリカリだの、唐揚げだの、ちくわだのもらって、ますます猫離れした大きさに。誰かがベンチに座れば、「にゃあん(おじゃましますよ)」と、その膝の上にドンと巨体を乗せてくる。ベッド代わりの草むらはいつも大きく凹んでいた。ケンカは強く、他のオス猫がテリトリーに侵入すると、猛然と追い散らす。
そんなゴンちゃんのことを「放っておけないね」と相談し始めたのは、隣接の高層マンションに暮らす、ルイさん、チセさん、美佐子さん、裕子さんの猫好き仲間。フーテン生活はお気楽そうだが、やがて寒い季節がやってくる。濃い味の食べ物をもらい続けていたら、体を壊すだろう。猫嫌いの住人たちからも苦情が出始めた。何かあってからでは遅い。
さらばフーテンのゴン
人懐こいから、すぐにケージに入ると思ったが、保護は困難を極めた。大型犬のように踏ん張って、てこでも入らない。膝の上でくつろいでいるのを、そのままケージに移そうとすると、大暴れする。賢くて、踏み板式の餌トラップにも近寄らなかった。
そんなゴンちゃんがあっけなく保護されたのは、クリスマスも間近な頃。長いことかけて、膝の上でバスタオルをかぶせては外し、「いないいないばあ」に慣れさせたのだ。その日は、ダメもとで、バスタオルをかぶせて包み込み、頭から特大洗濯ネットにねじ込んでみた。なぜか、その時のゴンちゃんは力を抜いていた。フーテン生活から足を洗う潮時を見はからっていたかのようだった。
獣医さんでは、健康そのものという診断。犬歯がグラグラしていて、口もくさかったので、美佐子さんたちは「けっこう年いってるかもね」と話していたのだが、まだ4歳くらいと判明。去勢手術を終えて、美佐子さんの家に迎えられた。
ケージの中で大暴れ
美佐子さんの家には、先住の月ちゃん(3歳♀)、花ちゃん(3歳♀)、宙くん(2歳♂)がいる。みんなワケアリの保護猫たちだ。家に馴れるまで、大きなケージに閉じ込められたゴンちゃんは「ここから出せー」と、ケージにドスンドスン体当たりして大暴れ。その大迫力は猫とも思えなかったのか、先住3匹は、何日も遠巻きに見物していたそうな。
いざ、ケージから出されると、ゴンちゃん、床にソファーにところ構わず、ウンチやおしっこ。猫トイレが小さすぎたのだ。特大トイレが届いて、一件落着。ひと月もする頃には、すんなり家猫におさまっていた。
住めば都
ゴンちゃんは、自分の立場をよくわきまえたオトコだった。ケンカはめっぽう強いというのに、見るからにか弱い先住猫たちに威張るどころか、年長猫らしい気配りを見せた。
大食漢なのに、ごはんの横取りなどしない。キャットタワーのてっぺん取りも、月ちゃんと争わない。隣に誰かがいると、やさしく舐めてやる。月ちゃん花ちゃんのお年頃コンビに、「ゴンおじさん、お口くさーい」と逃げられてしまっても、めげることなく繰り返す。掃除機がみんな怖くて逃げ惑うのだが、ゴンちゃんは自分も掃除機は苦手なのに、「俺がやっつけてやる」と勇敢に戦うのだ。「ここまで性格のいい猫とは」と、美佐子さんも可愛くてたまらない。
獣医さんにダイエットを勧められて、ゴンちゃんの体重は7キロ台から6キロ台に。あり余っていた頬の肉が落ちて、シュッとした風貌になった。それでも、まだまだ重い。毎晩、仲良しのパパの肩にあごを乗せて胸の上で眠るのだが、恰幅のいいパパはこうこぼす。「重いのなんの。ひと晩じゅうプロレスの固め技をされているような」。
フーテン時代はもう昔のこと。「郷に入らば郷に従え」の理を知り抜いたゴンちゃんは、潔い、オトコの中のオトコなのである。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。