犬を飼う、育む思いやり 「動物介在教育」の効果とは

立教女学院小の初代学校犬バディと子どもたち=立教女学院小提供
立教女学院小の初代学校犬バディと子どもたち=立教女学院小提供

 子どもが生まれたら犬を飼いなさい――。英国の格言として、出典不明のまま広まっているこんな言葉があります。幼い頃から犬とかかわることで思いやりの心や命に対する敬意を育む「動物介在教育」を、家庭で実践する大切さをうたったものとされています。実際にどんな効果があるのか、探ってみました。


 東京都杉並区の立教女学院小学校には、毎朝4匹の犬たちが登校してくる。吉田太郎教頭の飼い犬で、「学校犬」として児童たちとともに学校生活を送る。


 授業中は吉田さんが担当する教室にいて、休み時間になると児童たちと校庭を走り回る。犬たちの世話係は6年生が当番制で務め、散歩やトイレの後始末をする。


「イベント的に触れ合うのではなく、日常的に犬と過ごせる環境を作りたかった」と吉田さん。こうした取り組みは2003年から始め、今年で15年目。児童たちは初代学校犬の老いと死も見守った。吉田さんは「他者への思いやりや命の大切さを、犬たちが身をもって教えてくれている」とし、その効果を実感している。


 動物介在教育に取り組む一般財団法人「J―HANBS」理事長で獣医師の加藤元(げん)さんは、小学4年生になるまでに人間との信頼関係ができている犬や猫と暮らすことの大切さを説く。人間の脳が様々なことに慣れる能力を会得する「社会化期」は、10歳くらいまでに終わってしまうためだという。


 この年頃までに犬や猫と一緒に過ごすことで、「脳の成長に多大な影響を与え、他者への思いやりが育まれたり、結果としていじめがなくなったりという研究結果がある」と指摘する。

 

立教女学院小の子どもたちに他者への思いやりなどを教えた初代学校犬のバディ=立教女学院小提供
立教女学院小の子どもたちに他者への思いやりなどを教えた初代学校犬のバディ=立教女学院小提供

 動物を飼うことが子どもの知能や社会性の発達に影響を与えることは、1960年代に欧米の研究者らを中心に数多く報告され始めた。80年代以降は、動物の中でも特に犬が効果的だとわかってきた。広島大大学院生物圏科学研究科の谷田創教授(人間動物関係学)は「非言語によるコミュニケーションが可能だから絆を築け、一緒に遊んだり運動できたりする犬が、子どもの心の発達に最も適しているようだ」と分析する。


 動物介在教育の重要さが広まる一方、教育目的で動物を飼うという「矛盾」を指摘する研究者も出始めた。親や教師が犬などを教育のための道具として扱えば、子どもに他者への思いやりなどが育まれるはずがない――というものだ。


 谷田教授は言う。


「動物介在教育のカギは動物に対する愛着だ。犬が好きなら飼い始めればいいし、犬にとって幸せな環境を提供しなければいけない。そのうえで結果として、子どもに教育効果があればいい」

 

 

■重大事故の危険も

 また、子どもが犬と接することは、重大な事故につながる危険もある。今年3月には、生後10カ月の女児が祖父母の飼い犬にかまれて死亡する事故があった。米ペンシルベニア大獣医学部のジェームス・サーペル教授(動物行動学)らの研究ではポメラニアン、ヨークシャー・テリアや、ミニチュアシュナウザーなどが特に「子どもにかみかかる傾向が相対的に強い」犬種だとしている。


 帝京科学大こども学部の花園誠教授(動物介在教育)は「子どもの年齢が下がるほど致命的な事故が起こりうる。特に乳児と犬が触れ合うときには、必ず親が見ている必要がある」と話す。

 

■子どもにかみかかる傾向が相対的に強い犬種

スコティッシュ・テリア
ミニチュアシュナウザー
ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
チャウチャウ
ヨークシャー・テリア
ポメラニアン

(ジェームス・サーペル編「ドメスティック・ドッグ」から)

(太田匡彦)

朝日新聞
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