庭に居ついた野良猫たちとの日々 ボロボロだった老猫に彼女が!
「家で猫と暮らしながら、庭にやって来る野良猫も可愛がりました。でも“扉”の向こうとこちらの世界は大きく違い、考えさせられることも多くありましたね」
東京都町田市のテラスハウスで、夫と雄猫4匹と暮らす秋敦子さん(56)が、庭で世話した外猫たちへの思いを話す。
最初に猫が庭にやって来たのは、10年前の春のことだ。
「茶まだら模様の小柄な雄猫でしたが、片耳が折れて、目やにや鼻が出て。ニャーと鳴いたら歯がほとんどなくて、口内炎も見えたんです」
さらに胸に穴が開き、足が曲がり、後頭部も禿げていた。文字通り、ぼろぼろだった。
「本当に年老いていました。もう長くないんだなと哀れに思い、つい缶詰をあげてしまったんです。そうしたらフードをがぶがぶ丸のみし、もっとよこせとせがんで。その食欲に驚きました」
チャマダロウと名付けたが、人を警戒して体を触らせない。そこで敦子さんは写真を撮って獣医師に見せ、(胸の傷の)抗生物質と(禿げの原因の)疥癬の薬をもらい、ごはんに混ぜて食べさせた。すると毛並みがきれいになり、少し長毛ということもわかってきた。
「触らせてくれないけど、庭に居ついたので、犬小屋を買って猫ベッドを入れて、面倒を見ることにしたんです。あまりに年老いていたので、去勢はしませんでした」
感染症を持つチャマダロウを庭に住まわせると、考えないといけないことがあった。敦子さんの家では、朝のひととき、内猫のストレス発散のために庭に出すことにしていたのだ。病気がうつらないように、内猫にワクチンを打ち、ノミや回虫除けの薬をつけ、縁台は除菌した。
「内猫を庭に出す時、『チャマ、うちの子出すよ』というとチャマダロウは庭から出ていき、『終わったよ』というと庭に戻ってきました。賢く、言葉を理解しているようでした」
チャマダロウがいるせいか、食べ物の匂いがするせいか、野良の子猫も出入りするようになった。その中の一匹が、敦子さんになついたチューチューで、室内に招きいれた。だが、調べるとFIV(猫エイズ)に感染していて、他の内猫とは隔離が必要だった。
「その後、キジと白のブチ模様の猫が庭に来たのですが、去勢する時に調べると、やはりFIVに感染していました。チャマダロウが陽性だったのかもしれません。外の子はごはんや水の器を共有したし、すぐに子猫を引き離さなかったことで、病気がうつってしまったのかもしれません」
サブと名付けたブチ模様の雄猫のため、敦子さんは犬小屋をもうひとつ庭に用意した。そしてその後、子猫を見かけたら、捕獲器ですぐに保護して、もらい手を探すようにしたという。野良の子のチューチューやサブがFIVに感染した反省からだ。
チャマダロウが庭に来て2年後、この老猫にハッピーな出来事が起きた。
内猫にしたチューチューには、チビチビという妹がいた。チビチビは野良のまま近所の家でお世話になっていたが、突如、チャマダロウに近づいたという。
「近所で仲良くしていたオス猫が死んで寂しくなったのか……。チビチビは3歳ですが、若いサブでなく、渋いチャマダロウを彼氏に選んだんです(笑)」
チビチビのその選択が、チャマダロウに若返り効果をもたらした。めっきり老いて庭でほとんど寝て暮らしていたのに、若い彼女と連れだって散歩したり、いちゃいちゃしたり、犬小屋でも一緒に寝るようになったという。
「チャマは去勢していないので、子猫ができては大変だ、と急いでチビチビに避妊手術をしました。でもその後も2匹は仲むつまじく同棲を続けましたよ」
他のオス猫が庭にくると、チャマダロウは大声を張り上げて威嚇し、時にはとっくみ合いまでして追い払い、チビチビを守った。こんなふうに幸せな老後を過ごしたチャマダロウだが、2011年に皮膚がんになった。
食べられなくなって3日めの夜、縁台の上にはい上がってきて敦子さんをじっと見てから小屋にもどり、次の日の朝、庭で一番最初に陽があたる場所で息絶えていたという。
「私を見つめたのは、チャマなりの挨拶だったのでしょうか。苦労の多い外猫の一生でしたが、自由で、恋愛もして、縄張りを守り、最後は自然死。尊厳のある死を通して、猫とはこんな生き物、と教えてくれたような気がします」
チャマダロウが逝って2年後、チビチビが体調を崩した。猫風邪をこじらせたのだ。自宅に保護して動物病院にも連れていったが、5日後、息を引き取った。
庭の外猫で唯一残ったサブは、心細くなったのか、犬小屋ではなく、道路向かいの駐車場の下に隠れるようになり、日が暮れてからひっそり庭にごはんをもらいにくるようになった。そして、昨年秋からあまり食べなくなり、11月、遂に庭にこなくなった。
「サブはたぶん雪の日に亡くなったのだと思います。隠れ家には人が入ることができず、その姿を見つけることはできませんでした」
チャマダロウ、チビチビ、サブ。庭で暮らした外猫は3匹とも、敦子さんに触られるのを嫌がったが、呼ぶと返事をした。人間と距離をとりながら、本能のままに懸命に生きたのだ。
「私にとって外猫は、内猫と同じくらい可愛い子たちでした」
敦子さんの心の中で、外猫たちは今も自由を謳歌している。
(藤村かおり)
◇3匹のメス猫との甘い思い出 結婚生活にずっと寄り添った猫たち
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