犬、猫、ウサギ・・・命の大切さ学ぶ教育、動物にも配慮を
犬や猫といった動物を通じて子どもたちに「命の大切さ」を学んでもらうため、小学校などで行われる「動物介在教育」と呼ばれる授業で、動物たちに負担をかけないやり方を模索する動きが広がりつつある。見知らぬ子どもたちに触られることが、ストレスになる動物がいるためだ。
奈良県宇陀市の県営施設「うだ・アニマルパーク」にある動物学習館に11月8日、県内の小学1年生26人がやってきた。動物介在教育の一環だが、本物の動物はいない。犬や猫、ウサギ、熊、鹿などの張り子20体を前に、先生を務める職員の巽(たつみ)憲文さんが「命を持っているのは人間だけ?」と問いかけると、子どもたちは「動物も生きている!」と元気に返した。
次に、家族だんらんの横で犬だけがケージに入れられている絵を見せる。子どもたちは「寂しそう」「外に出してほしい」などと犬の気持ちを想像して言葉にしてみた。
このプログラムは全3回。張り子の動物はそれぞれペットか野生、家畜かを判断してもらい、決められた所に運んでもらうことなどに使う。巽さんは「動物も喜びや悲しみを感じる心があるということだけでなく、人間には動物を適切に世話する責任があることまで学ばせます」と話す。
2012年度に導入し、参加する小学校は年々増えて15年度は県内45校の約2600人が参加した。導入前は小学校に犬を連れて行き、ふれあってもらう定番の授業だった。やめたのは犬の心身の健康を考えたためだ。主任調整員の松村かのさんは「授業を終えて連れ帰るとぐったり疲れていたり、下痢になったりしていた」と振り返る。
動物は我慢させる対象で、気持ちに配慮する必要はないといった誤った情報が子どもたちに伝わりかねない、とも考えた。そこで、実際の動物を使わない授業を行う先進国である英国などを参考に、独自のプログラムをつくった。
プログラム実施前と後に子どもたちに行ったアンケートでは、動物福祉への理解度が高まったとの結果が出たという。この取り組みは全国の自治体からも注目され、関係者らへの研修会をこれまでに計12回開催。研修を受けた約10の自治体で、同様のプログラムが導入されたという。
連れていく動物のストレス軽減に力を入れる団体もある。児童施設でのふれあい活動をしている日本動物病院協会は、犬であれば落ち着き具合など40項目の確認事項を設け、参加の可否を判定している。5~10匹に1匹は「不向き」と判定されるという。
活動当日も獣医師らが精神状態を調べる。同会理事で獣医師の吉田尚子さんは「幸せな状態の動物でないと、子どもに命の大切さを効果的に伝えられない」と言う。
日本の動物介在教育に詳しい公益社団法人・日本動物福祉協会の山口千津子特別顧問は、「自治体関係者が動物に触らせる教育のあり方に問題意識を持ち始めている。動物に負担をかけない手法が広がってほしい」と話す。
(太田匡彦)
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