チワワに3階下の“別宅” 高齢のマンション住民が保育ママに
西国分寺駅(東京都)から徒歩10分。5階建てのマンションの一番上が、チワワのすみれ(メス3歳)の住まい。3年前から飼い主の石原直之さん(51歳)・寿子さん(43歳)夫妻と暮らしている。でも今年に入って、すみれの生活のリズムが変わった。日中だけ、別の階で過ごすようになったのだ。
(末尾に写真特集があります)
朝7時半、石原さん夫妻さんが仕事に出かける準備をして、「いこうか」と、すみれに声をかける。フードとおやつを持って行く先は、3つ下の階の2階。ペットシッターを頼むのではなく、犬好きの女性Iさん宅に、保育所のようにして預けている。
「夫婦そろって忙しく、10時間以上家を空ける。その間、すみれはIさんの家で過ごすんです。可愛がってくださるので、すみれも楽しそう」
今年2月、すみれの兄貴分だったオスのチワワ「ココ」が突然、病気で旅立った。10歳だった。直之さんが独身時代から飼い、夫妻が結婚する時には、キューピッド役も果たした小さな家族だった。
相棒を失い、がっくり肩を落とす夫。ぽつんとたたずむ妹分のすみれ。寿子さんもどうしていいかわからない。それでも日常は変わらずやってくる。仕事も休むわけにはいかない……そんな時、マンションの総会に寿子さんは出席した。すると、たまたま後ろのほうの席に座っていた住人のIさんの声が聞こえてきた。
「このマンションはペットと暮らせるから、部屋を買って愛犬と引っ越してきたのに、1年もたたずに死んでしまったの。1人になって寂しいわ」
〈亡くなったの? うちと同じだ〉。寿子さんは思わず振り向いた。
自分はココを失って悲しいが、夫とすみれがいる。でもIさんは、犬を失って本当に一人ぼっちなんだ。どんなにつらいだろう。
その時、寿子さんの心の中に、ある考えが浮かんだ。
〈すみれとIさんが、昼間に一緒に過ごせないかしら。仕事中にお預けする形で……〉
部屋に戻って、夫の直之さんにアイデアを話すと、最初は反対された。
「好意で預かってもらって、もし何かあったら、あちらの負担になるんじゃないかな」
それでも聞くだけ、聞いてみることにして、数日後、寿子さんはすみれを抱いて、Ⅰさん宅のインターホンを押してみた。
「上の階の石原ですが、相談があります。わんちゃん亡くなったんですよね、うちも1匹亡くしたばかりで……この子の面倒を見て頂けませんか」
当然、Iさんは目をパチクリさせて驚いた。
「そりゃあそうですね、不審がられたかも(笑)。考えますと言って、その日はドアを閉められました」
しばらくして、寿子さんが再びIさん宅を訪ねると、今度はにこやかに、部屋に招き入れてくれた。お互い愛犬を失った心境が重なり、また朝から晩まで仕事で長時間家を空ける寿子さんの悩みや思いを、Iさんはわかってくれたのだという。
「お部屋にあがると、わんちゃんの写真が飾ってあり、きれいなお花が供えてありました。こんなに愛情深い方なら間違いないなって」
70歳近いはずだけれど、Iさんはてきぱきして、そして明るい。すみれは会うや否や、尾を振って女性に近寄っていった。
〈あっ、あんなにシッポを振って。自分が結婚前に初めて(彼の家で)ココに会った時みたい! すみれはIさんと気が合う。きっとうまくいく……〉
それ以降、夫妻の“休み以外”の日の大半をすみれはIさんと過ごすようになり、新たな繋がりを深めていった。今ではIさん宅は、すみれの第二の生活空間。Iさんによくなついている。
「すみれは主人の布団には入らないのに、Iさんのお布団にはずんずん入ってく(笑)。この前、はじめてお泊りもしました。高齢になると、自分ではなかなか飼えないけど、Iさんもまた犬と生活を共にできて良かったと言ってくださって。すばらしい、保育ママです」
ココから始まった犬の輪が、すみれを通してまた広がった。
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