「犬が左・飼い主は右」が散歩の基本? ルーツは西洋の軍隊
犬の散歩は飼い主の左側につけて歩かせるのが基本。訓練士にそう教わりましたが、「歩行者は道の右側を歩くから、車道側になる犬が危険ではないか」と読者からお便りがきました。どう考えたらいいのでしょうか。
■なぜ犬は左? ルーツは西洋
飼い主が自分の左側に犬をつけて歩くと、犬が車道側にならないよう、自然と道路の左に寄って散歩することになる。実際、街中ではそんな姿が目立つ。でも一方で、歩行者は右側を歩くという道路交通法上の規定がある。
つまり、寄せられた疑問は、突き詰めれば「犬は左側」と「歩行者は右側通行」という二つの原則は並び立ちにくいのでは、ということだ。
そもそも、犬を基本的に左側につけて歩くよう指導されるのはなぜなのだろうか。犬の訓練士を育てる「日本訓練士養成学校」(埼玉県ふじみ野市)を訪ねた。
教頭の藤井聡さん(62)がそのルーツを説明してくれた。「犬は西洋で警察犬や軍用犬として使われてきました。そのとき、人は右側に銃を持って行動するので、犬は左。左横にぴったりついて歩く訓練が徹底しておこなわれてきたんです」
西洋のこの訓練法が日本に伝わり、日本でも警察犬などは左側について歩く訓練をしてきた。
また、血統書を発行する愛犬団体「一般社団法人ジャパンケネルクラブ」などの訓練競技会には、犬が人に従って左側を歩くという課目があり、その訓練を重ねる。訓練士はこれに沿って一般の飼い主にも教えることが多く、「犬は人の左」が広まった。
ただ、飼い犬の多くは競技会に出ることのない家庭犬。「散歩するときは飼い主の右でも左でも、状況に応じて安全に歩ければいいのです」と藤井さん。小さいときから、どちらでも歩けるようにしておくのが理想的だ。そうすれば、向こうから来る歩行者とすれ違うとき、迷惑にならない方を歩ける。
ジャパンケネルクラブの広報、金井康枝さん(51)は「車道とは反対側に犬を歩かせ、リードを短く持ってうろうろさせないよう配慮するといい」とアドバイスする。
■原則「人は右」 左OKの時も
「道路の右側を歩きなさい」と、物心つくころから教えられてきた人は多いかもしれない。その根拠は、道路交通法第10条第1項=キーワード=に書かれている。
それによると、どんな道でも必ず右側通行というわけではなく、歩道や歩行者が通れる十分な幅の路側帯がない道の場合ということがわかる。つまり、歩道や路側帯があればそこを通ればいい。
また、右側通行が「危険であるとき」「その他やむを得ないとき」は左側通行ができると明記されている。これはどういうケースだろうか。
警察庁交通局長の井上剛志さんが答えてくれた。「道路の右端が損壊していたり、そこに障害物があったりするとき。やむを得ない場合とは、交通量がとても多く道路を横断できないときなどです」。このような場合を除くと、「歩道などと車道の区別のない道路で犬の散歩をするときは、右端を通行するのが道交法上のルールです」と、原則を念押しする。
盲導犬を連れている目の見えない人は「やむを得ない場合」にあたり、状況に応じて左端を通行することができると解釈されている。「ハーネス(胴輪)を左手でもって訓練することが多いからです」と井上さん。
このほか、道交法の第13条で、構造上車が入ることができない道路は右側通行の適用外となっている。地下道や、出入り口に柵があって車が入れないところだそうだ。
■昔は人も左側
ちなみに、大阪府警のホームページにある「子どもしつもんコーナー」によると、日本で「人は右側通行、車は左側通行」になったのは1950年ごろ。「それまでは人も車も左側通行でしたが、交通安全のために、車は従来のまま左側通行とし、人は右側通行とする対面交通を取り入れた」と説明している。確かに、歩行者と車が向き合う形だと、車の接近に備えやすい。
「人も車も左側通行」の制度が採用されたのは1900年。なぜ人が左側通行だったのかといえば、武士は左腰に刀をさしていたので自然に左側を歩く習慣がついたからともいわれる。右側を歩くと、すれ違うとき刀のさやがふれあうからだったなどとしている。
(河合真美江)
<道路交通法第10条第1項>
歩行者は、歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯(次項及び次条において「歩道等」という)と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄って通行しなければならない。ただし、道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは、道路の左側端に寄って通行することができる。
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