うさぎの医療過誤裁判について

 今回は、先月行われたうさぎの医療過誤訴訟の判決について取り上げます。2011年にペットのうさぎが動物病院で受けた治療中に起きた事故が理由で食欲不振となり、死亡に至ったとして、2013年、動物病院に対して、飼い主さんが約134万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。6月16日に東京地方裁判所は、動物病院に約43万円の支払いを命じる判決を下しました。ペットの医療過誤訴訟は増えていますが、うさぎの医療ミスについて賠償責任を認めた判決は極めて珍しいケースです。(うさぎと暮らす編集部)


原告代理人の指宿昭一弁護士
原告代理人の指宿昭一弁護士

歯牙(しが)疾患の治療中に起きた事故

 原告代理人の弁護士によれば、原告は2011年12月に過長臼歯に対する処置を被告病院に依頼し、その際に麻酔を施しての処置を希望しましたが、病院側は説明をせずに無麻酔でうさぎの口を開口器で開口して処置を行いました。


 処置後、うさぎがよだれを流し、食欲不振が続き、自力採食が困難になりました。他の病院でX線撮影をしたところ、左右の下顎(あご)を骨折していることが判明。その後もたびたび食欲不振で入院して治療が必要となりました。


 献身的なケアで、翌年1月には食欲が回復し、骨折部の癒合が確認されるなど、回復傾向にあったようです。しかし、事故直後からうさぎは水分摂取量が激減しており、既往症だった尿中の炭酸カルシウム濃度が上昇。カルシウム泥が貯留する症状が悪化してしまい、3月30日、急性腎不全を発症して死亡しました。


 原告は2013年、家族として大切にしていたうさぎが、獣医師の不適切な処置によって左右下顎を骨折して、その後に死亡したこと、問診・説明に関する注意義務違反、過長臼歯に対する処置上の注意義務違反があるなどと主張し、損害賠償金を請求する訴訟を、東京簡易裁判所に提訴しました。


 裁判長は判決理由で、うさぎの骨は軽く繊細で、骨折しやすく、無麻酔の処置はリスクが高いため、多くの動物病院では麻酔下で行っていて、無麻酔で処置するにはうさぎの安定的な保定が困難である上、速やかな検査及び処置が必要であること。開口器を使用した治療は開口させる速度や幅など慎重に使用すべきで、十分な注意が尽くされないまま処置をおこなったとして注意義務違反によるものと認めました。


 しかしながら、骨折は回復傾向にあって摂食障害があったとはいえないことや既往症があったことから、左右下顎骨折が理由で死亡にいたったという因果関係は認められないと結論づけました。


 原告代理人弁護士によると、「ペットの医療過誤訴訟は増えているが、うさぎの医療ミスについて賠償責任を認めた判決は極めて珍しく、この43万円という金額は高い方ではないか」と話します。


 原告は「当時5歳のうさぎが歯の治療を受けるために動物病院へ行き、処置中に両顎を骨折するという医療過誤にあい、泣き寝入りも考えましたが、家族同然だったうさぎのために裁判で2年以上にわたり闘ってきました。一審判決で、病院での処置に起因して骨折したことは認められましたが、死亡との因果関係まで認められなかったことは不本意です。このような痛ましい事故が二度と起こらないよう獣医療の質の向上を願います。骨折しなければ今も元気に生きていた気がします。今でもかわいいうさぎの姿は忘れられません」とのコメントを出しました。

 

 

歯牙疾患のあるうさぎは少なくない

 2011年に原告が東京簡易裁判所へ提訴してから判決まで5年の歳月がかかったのは、裁判所から和解案の提示をするも被告が拒絶し、審理を東京地裁の医療集中部という医療過誤訴訟の専門部への移送申し立てを行い、2012年2月に東京簡裁が決定をしたため、東京地裁民事第14部で審理されるなどの経過がありました。


 私たちは裁判の傍聴と司法記者クラブで行われた原告の代理人弁護士の記者会見に出席しました。原告のうさぎが暮らしていたケージの写真を見ると、とても熱心にお世話をしていた様子がわかります。


 うさぎは、主食である牧草の摂取が不可欠です。それは体内に牧草の繊維質を取り込むことで胃腸の健康維持(ぜんどう運動を促し、フンを排出)ができ、また、歯をすり合わせて摩耗させながら食べることで、常生歯(一生伸び続ける歯)の長さを一定に保っています。


 しかし、遺伝上の不正咬合(こうごう)や老齢になって牧草が食べられない、もともと牧草を好んで食べないなどの理由から歯が伸びてしまった場合、病院に行って歯を削ってもらうことが必要になります。これはうさぎの食習慣など根本が変わらない限り、うさぎにとって一生必要となる治療です。


 この治療を受けなければ、歯が異常な形に伸びたり、とがって伸びた奥歯が舌を傷つけたりして、うさぎは咀嚼(そしゃく)ができなくなったり、痛みから、ご飯が食べられなくなったりします。


 そして、このような歯牙(しが)疾患の症状を抱えるうさぎは決してまれではありません。ですからうさぎを飼育している飼い主さんにとって、この裁判の行方はひとごとではないと思われます。


 近年は、少なくなっているとはいえ、診察台からの落下事故や麻酔による事故例も報告されています。もともと緊張しやすい性質を持つうさぎは、診察に配慮することが多すぎることから獣医師に敬遠されてしまい、うさぎ人口が多い割に積極的に診ている病院が少ないのが現実です。


 うさぎの診療に知見が深い獣医師の臨床例や技術が一刻も早く獣医師の間で広まってほしいのはもちろんですが、今回のような悲しいケースをできるだけ防ぐために、「うさぎと暮らす」では常々うさぎの飼い主さんにお願いしていることがあります。それが、身近なかかりつけの動物病院を健康診断などで元気な時に2~3カ所通っておき、信頼性が高い病院とコミュニケーションをとっておいてください、ということです。

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