吉田眞澄弁護士が寄稿 「猫カフェ」夜間営業の是非

筆者/ペット法学会副理事長・元帯広畜産大学副学長 吉田眞澄


猫ブームと猫カフェ

 空前の猫ブームの中、顧客が猫と触れあえる「猫カフェ」が注目され、メディアでも頻繁に取り上げられている。動物取扱業の中では比較的新しい事業形態で、店舗数も約300と多くはないが、今後、特に都市部で増加する可能性もある。

 主要な利用者と推定される猫飼育禁止の集合住宅や賃貸住宅に独居する愛猫家がリピーターになる可能性が高く、また、業者側にも、平成24年に改正されて翌25年9月1日から施行されている動物愛護管理法により、販売困難となった犬猫の終生飼養確保が求められたことに対する経済効果を伴う有効な対処事業になるとの期待が持てるからである。


猫の習性と猫カフェ

 しかし、人の側の事情はともかく、猫の側からすると問題は多い。成猫は、縄張りを持ち、それを中心に単独で生きる。また、生態系の頂点に立たないので用心深く、所在を隠し、自分より強い動物が近付けば逃げる。猫にとって、他の動物との距離は非常に大切で、他の動物が近づき過ぎるとストレスの原因になる。

 猫の感受性には個体差があり、また、学習効果の差もあるので一概には言えないが、猫カフェは、顧客が猫の縄張りと逃走距離内に入り込むのが常態になっているので、店と顧客の双方が注意をして対応しても、猫にとっての不快な生活環境を除去することは困難で、ストレスが溜まり易い施設であることは否定できない。


今回の対応の特徴

 犬と猫の夜間展示規制が始められたのは平成24年6月1日で、議論の出発はペットショップにおける幼齢犬猫の処遇改善であったが、規制本体の本則では年齢に関係なく犬猫について一律に午後8時~翌朝8時までの夜間展示を禁止し、本則を円滑に実施する役割を持つ附則で生後1年以上の成猫が休息できる設備に自由に移動できる状態で展示を行う場合には午後10時までの展示を認める2年限りの例外措置を設ける形がとられた。

 この例外措置は平成26年に更に2年間延長され、本年5月末にその延長期限も切れることになっていたので対応方法が議論された結果、所定の条件を満たす「特定成猫」について午後10時までの展示を認めることを本則の中に入れて認めることになった。附則による期限付き延長と異なり、規定改正手続きに依らなければ例外措置は変えられないとの重要な変更である。

 なお、「休息できる」、「自由に移動できる」と言う曖昧な用語はそのまま残されたので、具体的対応は環境省に白紙委任された形だ。


猫カフェの猫のストレス検査

 午後10時までの夜間展示を認める根拠は、糞便中コルチゾール検査で「猫カフェにいる猫のストレスは懸念されるほど大きくない」との検査結果が得られたことにあるとされている。脳とコルチゾール分泌の役割を担う副腎皮質の中央皮質層(束状帯)の発達はヒトの大きな特徴であり、人のストレス測定にはコルチゾールの分泌量測定が非常に有力な方法と考えられている。

 また、検査方法も、目的によって、唾液、血液、尿、便と4種類の検査対象を選択できるので、益々役割が大きくなる。これに対し動物の場合は、唾液や血液検査は動物にストレスを与えるとして回避されがちで、糞便検査が多く用いられる。

 1日1回の排泄物に依存するので、一日のストレス量測定には適するが、猫カフェの猫のストレス検査と検査結果に基づく対処法の唯一ないし重要な判断としては、課題の多い検査方法で、「科学的証明」の方法としては課題がある。加えて、検査を含めた調査対象や調査手法に関する問題もあり、「科学的合理性」の質と言う点での課題を残している。


環境省の姿勢の変化

 昨年度末に札幌市が全国に先駆けて8週齢規制導入を進めようとしたところ、環境省から8週齢規制の「科学的根拠」を示すよう求められたという情報がある。8週齢規制は既に動物愛護管理法の本則に入れられており、所管官庁である環境省は、迅速且つ円滑に制度導入する環境の整備を行う立場にある。その環境省が、それとは逆の行動を取ることなど考えられず、情報は信じがたい。

 しかし、猫カフェ等の特定成猫展示時間制限に対する例外措置が恒常化された現状を踏まえると、環境省が従来の動物愛護政策の方向を転換し、業者規制に関し規制緩和に向かって舵を切ったと見るのが的外れと言えない状況がでてきた。その道具として科学的根拠や科学的合理性が使われるとなると、今回のコルチゾール分泌量検査がそれに当たるのであろう。

 しかし、今回の調査は、政策決定に関し必要とされる情報の多様さ、結論を出すについての対処の微妙さ等、どの要素を見ても、対象業者と対象猫の数の少なさ、業者性善説に立ち非常に重要な部分を業者の手に委ねたと思われる調査手法上の問題、先に指摘した調査方法の適正に関する問題、判断材料にすべき周辺の問題についての調査検討不足、動物愛護との関係で多様な課題を含む複雑な要素を持つ業態の実態調査の不足等、多くの課題が残されている。

 また、動物愛護管理法についても、科学的根拠が重要であることは言うまでもないが、社会通念を含む社会状況、人・社会・自然との共生に関する理解、弱い立場に立つものへの慈しみの気持ちの涵養などにも特徴があり、猫カフェについても、それらの要素を考慮した対応方法を策定しなければならない。時間と回数さえ増やせばよいわけでないが、詳細な議事録の内容からすると、動物愛護部会の議論には不十分さも見られる。


猫カフェの当面の改善策

 猫カフェに関する自治体へのアンケート調査の結果を見ると、12時間以上の営業は314業者中の2業者にとどまり、午前10時前の開店も12業者と少ないが、閉店時間が午後8時以降の業者は9時までが36業者、10時までが50業者で合計86業者、全体の27%強である。これに対しては、全体の営業時間規制、午後8時以降の営業時間の段階的短縮、展示動物のストレス軽減に配慮して店舗や展示施設設計の促進などの総合的な対処が必要である。

よしだ・ますみ/1945年、京都市生まれ。弁護士(京都弁護士会医療協議会プロジェクトチーム委員)。同志社大学大学院法学研究科修士課程修了後、帯広畜産大学副学長などを歴任。ペット法学会設立に中心的な役割を果たし、現在は同会副理事長。著作に『21世紀の法と社会』『ペットの法律全書』など。

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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