花見猫ハイジ、飼い主と患者を癒やして17年 地震も乗り越え

10年前、ハイジ6歳の時のお花見=熊本市内の公園で、田中明子さん撮影
10年前、ハイジ6歳の時のお花見=熊本市内の公園で、田中明子さん撮影

 今年も桜前線が日本列島を北上中だ。桜といえば、最近は、猫と取り合わせて写真を撮る「花見猫」を楽しむ人が多い。そんななか、元祖「花見猫」とも言えるにゃんこが九州・熊本にいる。17年前から飼い主の女性とともに、毎年、桜を楽しんでいる。今年も熊本地震の前、平穏ななかで花見を楽しんだ。

 (文末に花見猫ハイジの思い出アルバムがあります)

  熊本市帯山4丁目にある小さな公園は、地元の人たちの花見スポットだ。地震前の4月2日、少し曇っていたものの、満開となった桜を見に、何組ものグループが集まっていた。その中でひときわ目立つ集団が、犬猫を伴った女性たち。ことに、瞳をキラキラと輝かせて桜を見つめていたのが、ヒマラヤン種の猫、ハイジ(雌・17歳)だ。はらはら舞っては積もる花びらの行方を、じっと見ていた。

 「ハイジ、きれいね。今年も一緒にお花を見ることができて、よかったね」

  飼い主の看護師、田中明子さんがハイジに話しかけた。ハイジの誕生日は3月17日。毎年、ちょうど桜の開花時期と重なり、「ダブルでハッピーな気分になる」。ハイジの1歳の誕生日から一緒に花見を続けてきて、毎年、桜の前で写真を撮ってきた。「休みの日が晴れになれ、って願うんです。特に今年はハイジがセブンティーンになったので(笑い)、感慨深かったな」

  ハイジは、見た目はふんわりしたお嬢様猫。でも人間なら約84歳にあたる、おばあちゃまだ。数年前に腎臓の数値が少し悪くなり、療法食に変えて今は落ち着いた。幸いほかに病気はなく、花見を休んだことはない。「ハイジがずっと健康だったから、花見ができたのね」

 

桜とハイジ。今年のお花見=4月2日、熊本市内、田中明子さん提供
桜とハイジ。今年のお花見=4月2日、熊本市内、田中明子さん提供

 田中さんの職場は、帯山公園からほど近い大腸肛門病センター高野病院。外来主任(がん化学療法看護認定看護師)として勤務する。

  じつは、ハイジも同じ病院で働く。月に1度は田中さんと一緒に出勤する。患者さんを「励ますボランティア」、つまりアニマルセラピーのセラピー猫なのだ。人の痛みを軽減するなど治療を目的とした「動物介在療法」で、0歳だった1999年から参加している。この活動はいま、病院職員7人とボランティア4人、犬8頭と猫4匹で実施している。

  花見は、このセラピー仲間たちと毎年している。今年一緒だったのも、ウェルシュコーギー犬の2代目クララ(雄、8歳)や、ヒマラヤン猫のホタル(雌、17歳)たちだった。

 

今年の花見の様子。ハイジのほか、病院のアニマルセラピー仲間と=熊本市内、田中明子さん提供
今年の花見の様子。ハイジのほか、病院のアニマルセラピー仲間と=熊本市内、田中明子さん提供

 田中さんの元にハイジが訪れたのは17年前。きっかけは、別の猫だった。

  田中さんの働く高野病院は1994年に動物介在療法を始め、院内に「ふれあいハウス」という部屋を設けた。ここで患者は、スタッフの連れてきた犬や猫と触れ合える。あるとき、田中さんは「猫と会いたい」という終末期の患者さんを、車椅子を押してハウスに連れて行った。そこに当時の院長秘書(現・会長秘書)が連れてきていたのが、ヒマラヤンのアイちゃん。

 「初めて会ったとき、目が澄んでいて、なんて美しいの?と感動したの」。一目ぼれした。アイちゃんの親戚が生まれると聞いて、もらうことにした。それがハイジだった。クララという名のコーギー種のセラピー犬(先代)がいたことから、アニメ「アルプスの少女ハイジ」にちなんで、ハイジと名付けた。

  自宅マンションにハイジを迎えたのは生後2カ月過ぎ。以来、17年間、女一人、猫一匹の静かな生活がずっと続いてきた。熊本地震も二人で寄り添って過ごした。「桜を見ると思いが巡るのよ。すてきな思い出や、少し切ないことも」

  二人はこの間、パートナーとしていろいろなことを経験してきた。たとえばかつて、ハイジが訪問するのを病室で待ち望んでいた、高齢の女性患者がいた。ハイジは2~3歳のころ、彼女とすごく気が合った。ハイジはその女性のベッドに進んで入ってくつろいだ。「その方も頭をなでながら『生き物は悪いことをしないからいいわねえ』なんてほほ笑んで」。時にはハイジが、彼女の足の間に入りこみ、自宅にいるかのように安心して眠ることもあった。

 

ふれあい活動中のハイジ=熊本市、田中明子さん提供
ふれあい活動中のハイジ=熊本市、田中明子さん提供

 大事なセラピー仲間との別れもあった。一緒にふれあい活動をしていた初代のクララは、病気で9年前に14歳で亡くなった。「犬と猫だけど、ハイジはクララと仲良しだった」。昨年も、ミニチュアシュナウザーのアール君と急なお別れをした。

 この17年、桜が咲いては散るように、ハイジも多くの出会いと別れを繰り返してきた。一方でハイジは、桜の花のような癒やしの存在として、患者さんの心に花を咲かせてきた。田中さんが言う。

「かつて私がアイちゃんの瞳に引かれたように、今、ハイジに触れ合う患者さんやご家族が何人も『なんて澄んだ瞳なの?』と言ってくれる。そういう瞬間をこれからもできるだけ大事にしていきたい。ハイジ、来年も一緒に桜を見よう!」

 桜の中のハイジは、田中さんをも支えている。

(藤村かおり)

 

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