東日本大震災から5年 やっと同居、老いた被災ペットたち
震災と原発事故によって、運命を狂わされた飼い主とペットたち。やっと、幸せな時間を取り戻したペットがいる一方で、一緒の生活をもうあきらめざるをえない飼い主も出てきた。犬猫たちに残された時間は、そう長くはない。
文・写真/太田匡彦
愛犬と暮らすため自宅を建てた直後
福島県郡山市内に住む今野富枝さん(67)は2月28日の朝、居間で寝ているはずの愛犬にいつも通りそっと声をかけた。
「ちび太。おはよう」
反応がない。寒くないようにとクレートの上にかけてあげていた毛布をめくって中を確かめると、ちび太(オス)は既に息を引き取っていた。なでると、少しぬくもりが残っていた。
今野さんはいう。
「ようやく家を建てて、一緒に暮らせるようになって、暖かくなったら散歩をするのを楽しみしていたのに……。ダメだったねえ」
今野さんとちび太は5年前まで、同県浪江町で暮らしていた。今野家で飼っていた雑種のユーロが産んだ4匹のうちの1匹。3匹は知人に譲渡し、一番小さかった1匹を「ちび太」と名付け、飼うことにした。
ユーロは、ちび太たちを産んですぐに死んでしまった。夫(故人)が、夜も3時間おきに起きてミルクをあげるなどしながら、育て上げた。
2011年3月11日、東日本大震災が発生。東京電力福島第一原発事故によって、今野さんは何もわからないまま避難を余儀なくされた。それから、親戚の家や借り上げ住宅など4カ所を転々とすることになった。
ちび太を飼い続けるのは不可能だった。途方にくれていたとき、友人から、被災したペットを保護している「SORAアニマルシェルター」(福島市)を紹介された。すぐに電話をし、ちび太を預かってもらった。
それから4年あまりがたった昨秋、今野さんはなんとかいまの自宅を建てた。ちび太を引き取るために、庭付きの戸建てにこだわった。南側の、日当たりのいい場所に、専用のサークルも作った。そうして昨年11月、ようやくちび太を引き取ることができた。
だが今年に入り、ちび太の足腰が立たなくなった。もともと脳にあった疾患が悪化したようだった。起き上がることができなくなり、排泄も寝たままするようになった。クレート内に低反発クッションを敷き、湯たんぽで温め、排泄するたびにお尻をふき、お湯で絞ったタオルで全身をなでてあげた。そんな生活が1カ月続いたが、ちび太が回復することはなかった。11歳だった。
「石を投げると、それを喜んで取りに行く。遊ぶのが大好きな、元気な子でした。お骨は、生まれ育った浪江町の自宅に埋葬してあげました」
東日本大震災から5年あまりが経った。福島第一原発事故のために「20キロ圏内」にペットの犬や猫が取り残され、一部が餓死するなどの悲劇が起きた福島県。飼い主とペットとの生活再建は、思うように進んでいない。
(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年4月発行)掲載)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。