身につけよう「ペットの栄養学」 健康長寿のために

 10歳を超えて生きる犬や猫が少なくない今、ペットの健康長寿を考える時代になった。なかでも毎日の食事から将来の健康に備えることが大切で、健康で長生きしてもらうために欠かせないのが、「ペットのための栄養学」だ。


 帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科の大辻一也学科長はこう指摘する。
「ペットの栄養学は欧米を中心に研究されてきました。世界の双璧をなすのが、ヒルズ・コルゲート社のマークモリス研究所(米国)とマース社のウォルサム研究所(英国)です」

 

バランスよいフードを

 そもそも市販のペットフードはどのような基準で作られているのか。日本では、独自のペットフード研究が行われていないため、多くのメーカーがAAFCO(米国飼料検査官協会)の栄養基準を採用している。ただ、獣医師である日本ヒルズ・コルゲート学術部アソシエイトディレクターの坂根弘氏は、これは「最低限の基準」だと説明する。


「定められているのは、たんぱく質(必須アミノ酸)、脂肪(必須脂肪酸)、炭水化物、ビタミン類、ミネラル類の5大栄養成分とその構成成分に関する基準。一部の成分を除いて、どれだけ含まれていればいいかという最低要求量です。AAFCO自体はフードを検査したり、的確か否かの認定を行うこともありません」


 実際にペットフードを製造する際、各栄養素をどれくらい、どんなバランスで配合するか、どの原材料を使うかの大部分は各メーカーの判断に任されている。そのことが飼い主にとって、ペットフード選びの難しさにつながる。


 多くの飼い主は、「よく食べる」=「いいペットフード」と判断する傾向がある。しかし、犬の場合はたんぱく質、脂肪、ナトリウム、水分の、猫はたんぱく質、ナトリウム、脂肪の含有量が高いフードを好む。つまりAAFCOの基準をクリアし、ペットがよく食べるフードであっても、栄養バランスがいいとは言い切れない。


「若い頃は体に予備力があるので高たんぱくで塩分や脂肪過多のフードを食べていても、なかなか問題にならない。しかし中高年になり、腎臓の75%に機能障害が起こると一気に体調は悪くなる。水面下で起きている腎臓障害を食い止めるには『よく食べる』という目安ではなく、年齢に合った体に負担をかけない適切な栄養補給を考えることが大切です」(坂根氏)


 それぞれのメーカーがどのような基準でフードを製造しているのかが、重要になってくる。

 

飼い主としての責任

 ここで、動物病院で獣医師に勧められるフードのブランドを思い出してほしい。一部の大手メーカーに限られているはずだ。それらのメーカーは独自に研究施設を持ち、特定の配合で作ったペットフードを長期的に犬や猫に与え、その試験データから導き出された栄養基準に従ってフードを製造しているからだ。しかも研究データは、欧米の獣医学の学会などで発表され、研究施設を持たないほかのメーカーの参考にされることも多い。


 違いがわかりにくいペットフードだが、よく調べてみれば、各メーカーによって姿勢に差があることが見えてくる。そのうえで、ペットの状況にあった慎重なフード選びを心がける。それが、大切な「家族」の健康寿命を保つことにつながるはずだ。ペットのための栄養学を身につけることが、飼い主の責任の一つになりつつある。

 

 では獣医師が薦めることが多いメーカーでは、どのような体制でフードを開発しているのだろうか。


 例えば日本ヒルズ・コルゲートはこの秋、健康維持食と特別療法食の間のラインに当たる「サイエンス・ダイエット〈プロ〉健康ガードシリーズ」の販売を開始した。動物病院やペットショップで購入できる健康な犬猫の健康寿命を支える総合栄養食だ。


 このシリーズの特徴としてあげられるのが、『脳』や『関節』『活力』のネーミングがついていること。長年、積み重ねてきた研究データを健康な犬や猫の食事に積極的に生かし、将来、予測される健康対策につなげたいという狙いがあるからだと、同社はいう。


 同社のルーツは1939年にまでさかのぼる。


「獣医師のマーク・モーリス博士が腎臓病を患った盲導犬を救うため、食事改善を行ったところ、症状が軽減しました。この経験を基に48年に作られたのが史上初の腎臓病の療法食k/dです。そして療法食の技術を基にして67年に健康な犬と猫が対象の『サイエンス・ダイエット』が誕生したのです」(前出の坂根氏)


 同社は肥満や尿路結石、腎臓病などの療法食を次々に開発し、健康な犬猫対象の総合栄養食でも、年齢を考えたライフステージ別のペットフードを世界で初めて作ったことでも知られる。その研究データを見ていくと、食事がいかにペットの健康に重要かがわかる。


 たとえば、犬用のn/dというがんの療法食は、リンパ腫という血液のがんを対象にしたところ、症状が落ち着く「寛解期」が延長したという結果が出ている。この研究論文は人間が対象のがん学会誌にも掲載された。坂根氏は言う。


「猫甲状腺機能亢進症や柴犬に多い認知症なども栄養成分の調整による食事の改善で治る可能性は高いのです」


 こうした研究開発は、米国カンザス州にある「ヒルズ・グローバル・ペットニュートリションセンター」で行われている。


 広大な敷地に最新の研究設備を備え、150人以上の動物栄養学の専門家と「パートナーとして人間よりも大事にされている」(坂根氏)約900匹の犬や猫たちがいる、世界最大級の研究所だ。そこでは、臨床栄養学に基づいた最先端の研究が、いまも日々重ねられているという。

 

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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