動物は法律上「モノ」なの?
ペットや動物に関する事件が頻繁に報じられています。業者による犬の大量遺棄事件、ボウガンの矢が突き刺さったコハクチョウが死んだ事件、高校の教師が生徒に指示をして子猫を生き埋めにした事件……。記憶に新しいところだけでも、これだけあります。
こういう事件が起きると、しばしば、法律上の動物の位置づけが枕詞のように語られます。
「動物は(ペットは)法律上『モノ』だから……」
そして、だからこうした問題が起きるのだ、なくならないのだ――というようにネガティブな方向に話が展開することが多いように感じられます。
しかし本当にそうでしょうか? 法律上「モノ」でなくなれば、こうした悲しい事件はなくなるのでしょうか。
確かに、皆さんにもなじみ深い法律である「民法」では、動物は有体物として「動産」に含まれています。また、他人が所有する動物を故意に殺傷すれば、「刑法」の「器物損壊罪」に問われることになります。
だからといって法律は、動物を椅子やテーブルなどの「モノ」と同一の扱いをしているわけではありません。動物には命や感受性があるのですから。
動物愛護法では、動物は「命あるものである」と記されています。自分の所有する「モノ」をわざと壊しても「もったいない!」と怒られるくらいで済みますが、ペットである犬や猫を理由もなく殺傷すれば、「愛護動物殺傷罪」として刑事責任を問われることになります。
また器物損壊罪についても、その条文では「他人の物を損壊し、又は傷害した」と定めています。後半の「傷害した」は動物を傷つける行為を想定しており、動物と「モノ」とを明確に区別しています。
法律の条文だけではなく、裁判所でも、動物は「モノ」とは違うと考えられています。損害賠償の一般的な考え方として、「モノ」が壊されたときはその物の価値を賠償すれば足り、原則として慰謝料などの請求は認められません。
例えば、交通事故の被害に遭い、あなたの愛車が大破してスクラップになってしまったとしましょう。この場合、同一車種、同一年式の車の中古車相場を調べ、その相場程度の金額しか賠償されません。「愛車と別れさせられた」ことによる慰謝料は認められません。
これに対して、「家族の一員であった愛犬」が車にひかれてしまった場合、裁判では、愛犬の命を突然奪われてしまった飼い主の精神的苦痛に対する慰謝料が認められているのです。
そろそろ「動物は法律上『モノ』である」という言い方はやめませんか?
「法律では命あるものとされている」
という枕詞が当たり前のように使われる世の中になってほしいと、心から願っています。
将来的にはドイツのように、民法に「動物は物ではない」と明記され、憲法に「動物の保護」がうたわれるようになるといいかもしれません。ただ、一足飛びで到達できるものでは決してありません。また、法律や憲法にこうしたことが明記されることで、ただちに動物をとりまく状況がバラ色になるわけでもないと思います。
いつの時代でも、動物が適切に取り扱われるように関係者が努力を重ねること、動物や他者にやさしい社会をつくることが大切であると、強く思います。
私はどこにでもいる普通の弁護士ですが、仕事とは別のライフワークとして、今の法律を使ったり、ときには法律改正に向けた働きかけをしたりしながら、ペットをはじめとする動物の問題を解決、改善することに取り組んでいます。これから、動物関連の事件や出来事などについて、法律家の視点から、できる限りわかりやすい言葉で書いてまいりたいと思いますので、よろしくお願いします。
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