映画『少年と犬』の裏舞台 そこには人と犬の温かな心の交流があった

(2025映画「少年と犬」製作委員会提供)

 さまざまな背景を抱えた人々と、犬の「多聞(たもん)」の心の交流を、6つのストーリーで描いた馳星周さんによる短編小説『少年と犬』(文春文庫)。第 163 回直木賞を受賞した当作品を原作とする映画『少年と犬』が、3月20日(木・祝)全国東宝系にて公開となります。

「本作は犬が主人公でもあります。馳先生が書かれているように『人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にいない』と僕も思います」とは、プロデューサーの平野隆さんの言葉。映画の撮影中も、犬と人の温かな交流や、犬が起こす「奇跡」としか言いようのないエピソードがたくさんありました。

 公開に先立ち、そんな撮影の舞台裏を紹介します。

多聞を演じた犬のさくら

 多聞を演じたのは、ジャーマン・シェパード・ドッグの「さくら」です。

 これまでも犬の映画をたくさん撮ってきた瀬々敬久監督が「ダントツで利口な犬でした。動物映画につきものの、苦労らしい苦労はほぼなかったです」と話すさくらは、元警察犬で、引退後も警察犬の委託を続けています。そして撮影中、キャストやスタッフたちも驚くほどに、澄んだ瞳ですべてを見通すような、素晴らしい表情や演技を見せていました。

「本当にすごかった。当たり前ですが僕が演出したものではありませんからね(笑)。特に柄本明さん演じる猟師・弥一が亡くなる時の多聞のカットは、すさまじいものがありました。いつくしみというか、ちゃんと人を看取(みと)る時の顔をしているんです。あれには感動しました」(瀬々監督)

猟師・弥一を演じる柄本明さん(2025映画「少年と犬」製作委員会提供)

 また、瀬々監督のなかで印象に残るのが、海辺でのラストシーン。撮影を中止にしようか迷うほどのものすごい強風が吹き荒れていましたが、撮影の30分間だけピタッと風がやみました。さまざまなことがあった撮影時、瀬々監督は「多聞の存在含め、今振り返れば奇跡のようなことがたくさんありました」と話します。

「実はさくらに決まるまではバタバタといろんなことがありまして、クランクインの2週間前にさくらの出演が正式に決まったのですが、それも含めて本当に奇跡のような犬でした。ちなみに湖に入っていく美羽を和正が止めるシーンは、琵琶湖でロケをしたのですが、多聞(さくら)は水が大好きなので本当は一緒に入りたくてたまらなかったと思います(笑)」(瀬々監督)

優しい現場は、皆が犬の素晴らしさを知っているからこそ

 映画『少年と犬』は、高橋文哉さんと西野七瀬さんのW 主演。高橋文哉さんは多聞と共に旅をする青年・和正を、西野七瀬さんは多聞に救われる女性・美羽を演じています。

 高橋文哉さんは、生まれた時から実家に犬がいて、犬と共に生きてきたと言っても過言ではないほどの犬好きです。撮影でコミュニケーションを円滑にとれるよう、2人には撮影前に何日か、さくらと触れ合う時間が設けられていました。

和正を演じた高橋文哉さんと、多聞(2025映画「少年と犬」製作委員会提供)

 その時のことを、「わんちゃんにしか出せない生のお芝居、 そこに中垣和正としてリアルに向き合う楽しさを感じることができました」と振り返る高橋さん。さくらとあっという間にツーカーの仲になる姿は、瀬々監督も驚くほどだったと言います。

「(さくらの)トレーナーさんも太鼓判を押してくれるくらい、すぐに通じ合っていました。さくらは実際は女子なので(※多聞はオスの設定)、高橋さんのような美男子が好きなのかもしれません(笑)。一方西野さんは最初の頃、『私とは目も合わせてくれない』とおっしゃっていましたね。ただいざ撮影が始まるとすぐに打ち解けて仲良くやってくれたので、さすがだなと」(瀬々監督)

 じっとしていなければならない芝居も多々ありましたが、さくらはじっとしていることが得意で、横になる芝居も難なくこなしてくれました。しかし、目を閉じることだけはできませんでした。そんな時はさくらを優しくなで続け、実際に、心地よさそうにスヤスヤと寝入った姿を撮影するようにしていたと瀬々監督は言います。

美羽役の西野七瀬さんと、多聞(2025映画「少年と犬」製作委員会提供)

 平野さんは、さくらのことをこう振り返ります。

「50人以上のスタッフに囲まれ、日本中を移動しながら本当に大変だったと思います。撮影を重ねるうちに芝居の安定感も増して、何を求められているのかわかっている印象でしたね。役者に懐いてくれたことも大きい。高橋くんも、西野(七瀬)さんも犬の扱いに慣れていましたから」

 映画化のきっかけは、馳さんの『少年と犬』を単行本で読んだ平野さんが、犬が人間に希望を橋渡しする光になればと思い、動き出したことでした。そして映画『少年と犬』の原作者である馳さんは、自身も愛犬家です。作品は近年、人間を自然や動物と対比して描くものも多く、特に犬に対する愛情と表現力は、多くの読者の心の奥深くを揺さぶってきました。

「多聞は多くを聞くと書く。犬は人の言葉に耳を傾け、寄り添ってくれるのだ。犬に語りかけることで心を救われた者がどれほどいることだろう。犬は無条件の愛の手本として、神様が人間に遣わしてくれた生き物だと心から信じている。この映画を通じて多くの人がそのことに共感してくれることを切に願う」(馳さん)

 犬との交流を通してその素晴らしさを知る馳さんが生み出した作品に、平野さんが感銘を受けたことから始まった映画『少年と犬』。完成までの間、たくさんのキャストやスタッフが、さくらと共にかけ抜けました。スクリーンに映し出される物語からは、ずっと昔から続いてきた犬と人の心の交流という、普遍的なものとしてそこにあり続ける素晴らしさを、改めて感じることができるはずです。

映画『少年と犬』(2025映画「少年と犬」製作委員会提供)

あらすじ

 震災から半年後の宮城県仙台。職を失った青年・和正(高橋文哉)は、同じく震災で飼い主を亡くした1匹の犬・多聞と出会う。聡明な多聞は、和正とその家族に瞬く間に懐き、一家にとって無くてはならない存在となるが、多聞は常に<西の方角>を気にしていた。そんな中、家族を助けるため、危険な仕事に手を染めてしまった和正は、やがて事件に巻き込まれ、その混乱の最中に多聞は姿を消してしまう——。時は流れ、多聞は滋賀で悲しい秘密を抱えた女性・美羽(西野七瀬)の下で過ごしていた。多聞と過ごすことで、徐々に平和な日常を取り戻していく美羽の前に、多聞の後を追ってきた和正が現れる。こうして2人と1匹の新たな生活が始まるが、やせ細った身体で傷ついた人々に寄り添いながらも、たった1匹で<西の方角>に向かって歩いていく多聞には、一人の少年と誓った約束があった——。

原作:馳星周『少年と犬』(文春文庫)
監督:瀬々敬久
企画・プロデュース:平野隆
脚本:林 民夫
出演:高橋文哉 西野七瀬
伊藤健太郎 伊原六花 宮内ひとみ
柄本明 / 斎藤工
©2025 映画「少年と犬」製作委員会
映画『少年と犬』公式サイト

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