妹猫を守って瀕死の重傷を負った兄猫 見守るみんなは「生きろ」と願い、奇跡が起きた
sippoの人気連載「猫のいる風景」の著者であり、幼い頃から猫と暮らし、精力的に猫の物語を書き続けるフリーライターの佐竹茉莉子さんが丁寧に取材した、猫と人の物語が17話収録された書籍『猫は奇跡』が、2024年9月に発売されました。過酷な状況から救いだされた猫たちが幸せに生きる姿や、ひょんなことから一躍有名になった猫の数奇な運命など、それぞれの「奇跡」が共感と感動を呼ぶ、心打たれる一冊となっています。
今回はこの書籍『猫は奇跡』から、Instagramで話題になり、テレビにも取り上げられたTMK建設の「のりしお」の物語をご紹介します。
建設現場男子たちが「生きろ」と願った子猫
建設会社の資材置き場に倒れていた子猫は、妹猫を守り、ズタズタの重傷を負っていた。病院の診断は「明日までもつかどうか」。せめて暖かい場所で看取ってやりたいと、会社は兄妹を事務所に迎え入れる。妹猫は兄のそばを離れず、見守るみんなはただただ「生きろ」と願った。
虫の息の子猫
「子猫が資材置き場に倒れている!」
そんな緊急連絡が、由香さんのもとに入ったのは、会社が休みの日曜日のことだった。由香さんは、三重県にあるTMK 建設の事務所で広報を担当している。「事務所の中で温めておいて」と伝えて駆けつけると、最近敷地内で見かけるようになった幼い兄妹猫がそこにいた。いつも妹をかばっていた兄猫がうつろな目をして横たわり、ブルブルと震えている。妹は不安げにくっついている。ひと目見て、これは助からないかもと思った。体に無数の咬み痕があったのだ。
休日でも診てくれる病院を必死で探し、担ぎ込んだ。
「治る見込みは非常に薄く、今日明日で息を引きとる可能性が高いから、入院はすすめない」と言われる。「せめて最期は、暖かい場所で兄妹一緒に過ごさせたい」との思いを、由香さんは奥地(おくじ)社長に伝え、了解を得た。
後から人に聞いた話では、兄妹は大きな猫に追いかけられていて、妹を守った兄猫が咬まれていたという。
左前脚だけで歩いた!
とにかく名前を付けてやらねばと、兄妹には「のりしお」「うすしお」という名が付いた。会社には、事務所猫が2匹いた。社員の親睦のために迎えた「かつお」と「たまこ」の兄妹だ。性格ハナマルの2匹は、動けないのりしおを遠くからそっと見守る態勢でいてくれた。ぐったりと横たわるのりしおだったが、「生きたい!」という必死な気持ちは全身から伝わってくる。建設作業の現場男子たちは交替で事務所に泊まり込み、お世話をする。
2日目、のりしおは首をもたげて、ご飯を食べた。3日目、生気が出てきた。その夜、体を起こそうとするのりしおを、「がんばれ、がんばれ」と、みんなで応援する。4日目、上半身を起こした。近くにいたうすしおが「お兄ちゃん!」とばかり駆け寄った。立とうとがんばるのりしおのために、現場男子たちが、ラオウ人形やらの応援グッズを買ってきて置いてやる。
5日目、オムツで、ケージから外へ。大声で「お腹すいた!」の催促も。
のりしおは、体じゅうを咬まれたため、両後ろ脚と右前脚が麻痺していた。6日目、使える左前脚だけで這うように歩いた。うすしおがうれしそうに付き添う。
妹が兄を支える
「奇跡よ、起これ」の思いが、ふだんから仲のいい社長や社員たちをいっそう結束させた。毎日マッサージをした効果もあって、10日目ののりしおは、両後ろ脚が少し動かせるようになり、自力で座れた。オムツを外して、トイレにも行き、「できたよ~」と鳴いて知らせる。
ノラ時代は、のりしおにいつも守ってもらっていたうすしおの体格がいつしか兄を超え、あれやこれや兄のお世話を引き受けている。兄が転べばすぐに駆け寄り、かいがいしく毛づくろいをする。妹のプロレス特訓によるリハビリ効果もあって、のりしおの回復は獣医さんも驚かせた。
「くっついて一緒に寝とるわ、兄妹やのう」「オレも隣に寝ていいか」と、現場男子たちの可愛がり方も半端ない。
4週目になると、のりしおはよちよちと歩き出した。「おお、歩いとる、歩いとる!」と男たちの歓喜の声が包む。インスタのコメント欄は、見守ってくれているフォロワーからの「愛の力ですね!」という祝福にあふれた。
猫にやさしい新事務所
猫たちにとって安全で楽しい新事務所を敷地内に建てよう。奥地社長はそう決めた。年末にプロジェクトは動き出す。建設会社だから、みんなで力を合わせれば、あっという間だ。
新事務所には、もう1匹迎えたい猫がいた。のりしおたちのお母さんである。「ぽち」と名付けたその猫は、保護されたわが子たちをガラス戸越しに見に、事務所に毎日通ってきていた。だが、バリバリのノラで、手なずけるのに四苦八苦していたのだった。引っ越し直前に、大暴れするぽちをようやく保護し、「みんなで暮らそうね」と言い含めた。
3月に完成した新事務所には、あたりを見渡せる大きな窓があって、キャットウォークやキャットタワーも充実。猫たちは1階と2階を自由に行き来できる。その新事務所に引っ越し間もない朝、思いもかけぬドラマが社員たちを待ち受けていた。ぽちが2匹の子を産み、しあわせそうに授乳していたのである。
近く手術予定だったのだが、保護時にすでに身ごもっていたのだ。「長毛だったので、まるきり誰も気づかず、『最近、ぽち、太ったね』なんて話していたんです」と由香さん。「こうなったら、譲渡先は探さず、しっかり面倒を見よう」と社長は腹を決める。「おう、猫のためにバンバン稼ぎましょう!」と現場男子の意気も上がる一方だ。
今日も、みんなでしあわせ
今、のりしおは、ファミリーややさしい先住猫たちと共に穏やかに元気に暮らしている。麻痺の後遺症といえば、歩くときにややスローモーションということと、左目が小さめで瞬きがしにくいことくらいだ。パッと見たら、うすしおとの区別はつかない。階段もキャットタワーもタタタタタと上る。ぽち母さんは、小さな弟たちと分け隔てなく甘えさせてくれるし、かつお・たまこ先輩もやさしい。
夕暮れどき、仕事を終えた男たちが今日も事務所に集まってくる。みんなの第一声は猫たちへの「ただいま~」だ。翔貴(しょうき)さんは「猫も増えて、最高の会社」と目尻を下げる。マナトさんは、のりしおの顔を覗き込んでいる。「いつも『うい~(ただいま)』『うい~(お疲れ)』って語りあってます。それで、オレら、通じるんで」とデレデレだ。
大ベテランの「とっちゃん」こと平野さんは、ぽちの子育てケージの前に座り込んで話しかけている。「ええのう、ようけ食って、親子みんなで暮らせてのう」
7匹の大ファミリーとなった猫たちのトイレの交換は平野さんが率先してやっている。休日のお世話は社長も含むみんなで持ち回りだ。じつは社長は猫アレルギーだったのだが、気がつくと治っていた。由香さんは、せっせとしあわせ動画をSNSでアップしている。直幸さんがよく事務所に泊るのは、猫と一緒にいたいからだ。マナトさんの猫絵を原画としたTシャツ販売など、猫たちのためのチャリティー活動もみんなで始めた。
のりしおの奇跡は起きた。「生きる」というのりしおの思いと、「生きろ」というみんなの思いが熱く呼応してこその、愛の奇跡だった。
- <のりしおSNS>
- Instagram:tmk_kensetsu
TikTok:tmk_kensetsu
Facebook:株式会社TMK建設
YouTube:ほな行くでぇチャンネル
- <著者プロフィール>
- 佐竹茉莉子(さたけ・まりこ)
フリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。フェリシモ「猫部」のWEBサイト創設時からのブログ『道ばた猫日記』は連載15年目。朝日新聞系ペット情報サイトsippo の連載『猫のいる風景』はYahooニュースなどでも度々取り上げられ、反響を呼ぶ。季刊の猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)や女性誌での取材記事は、温かい目線に定評がある。

- 『猫は奇跡』
- 著者:佐竹茉莉子
定価:本体1,500円+税
サイズ:四六判(188×128mm)
発売日:2024年9月24日
発行:辰巳出版株式会社
交通事故から救い出された猫、障害をものともせずたくましく生きる猫、難病を抱えながらも家族の愛に包まれて暮らす猫、街の人気者になった迷い猫、認知症の犬を献身的に支えた猫、人間なら128歳の年齢まで生きた猫……奇跡みたいな“ふつうの猫”たちの、感動の実話を集めた書籍です。本書には大の猫好きとして知られる小山慶一郎さんや、『25歳のみけちゃん』(主婦の友社)の著者で児童文学作家の村上しいこさんから推薦コメントも寄せられています。
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