「私が健康的に生きられているのは犬たちのおかげ。犬がいるから頑張れます」と漫画家のまんきつさん
「私が健康的に生きられているのは犬たちのおかげ。犬がいるから頑張れます」と漫画家のまんきつさん

酒におぼれサウナにハマり その末に見つけたのは犬2匹とのカラフルな日々だった

 アルコール依存症の実体験をコミカルに描いた『アル中ワンダーランド』、サウナを通して起こった心身の変化を描いた『湯遊ワンダーランド』(ともに扶桑社)など、自身の体験や内面を赤裸々につづるエッセイマンガで知られる作者・まんきつさん。3年ぶりとなる新作『犬々(わんわん)ワンダーランド』では、2匹の愛犬とのにぎやかな日常を描いている。

境遇も性格も正反対の2匹

 まんきつさんの愛犬は、保護犬だった雑種の「ポテト」(メス・13歳)と、ペットショップで出会った黒柴の「銀」(オス・4歳)。

「おとなしくて臆病な“箱入り娘”のポテちゃんに対して、銀ちゃんは大胆で、だれにでもフレンドリー。正反対の性格ですね」

2匹の話もふんだんに収録された、まんきつさん3年ぶりの新作『犬々ワンダーランド』(扶桑社)

 ポテトと暮らすようになったきっかけは、息子さんがホームセンターで売られていた犬を飼いたいと言い出したことだった。

「結局、息子が欲しがった犬は、ほかの方に買われてしまって。そのときに、残念だと思うと同時にほっとしたんです」

 それは、まんきつさん自身、子どもの頃から犬や猫を飼っていたが、捨て犬や捨て猫などを保護して飼いはじめた子たちばかりだったため、「お金を出して動物を買うことに違和感があった」からだという。

「それでも息子がどうしても犬を飼いたいと言うので、じゃあどうしようと考えたとき、保護犬が頭に浮かんだんです」

 保護団体に連絡をし、保護活動家のもとを訪ねたまんきつさんは、「一番おとなしい子」を譲ってほしいと願い出た。当時、元野良の猫と暮らしていたため、共存しやすいようにという思いからだった。

 そうして出会ったのがポテトだ。そのとき生後4カ月くらいで、ほかの犬にいじめられてしまうからと、1匹だけ別の場所に隔離されているほど弱々しい子だった。

「一緒に保護されていたきょうだい犬はやんちゃだったので、同じ境遇の子でもこんなにも性格が違うんだなぁと思ったのを覚えています」

 成長して体は大きくなったポテトだが、臆病な性格はいまも変わらない。

まんきつさんの愛犬、雑種のポテト(右)と黒柴の銀(まんきつさん提供)

 一方、銀とは、ポテトのごはんを買いに出かけたペットショップで出会った。

「もともと黒柴に憧れがあったこともあって、店の方に『抱いてみますか?』って言われちゃったら、もう(笑)」

 その際、ほかの犬に比べて成長していた銀だけ、値が下がっていたことも気がかりだったという。

「ペットショップでの生体販売はなくなったほうがいいと思っているのに、そこに加担してしまった負い目はずっと感じていますが、出会った縁を大切に、銀ちゃんを我が家に迎えることにしました」

子犬を迎えて育犬ノイローゼに

 そうして子犬の銀を迎えたまんきつさんの生活は激変した。おとなしくて手のかからなかったポテトを迎えたときとは異なり、銀の世話に悪戦苦闘。かみグセやトイレの失敗、夜泣きや食ふんなどに頭を悩ませる日々が続いた。

「本やインターネットに書いてあることはバラバラだし、とにかくいろいろ試してみても効果はないし。育犬ノイローゼ状態でしたね。とにかくかみグセだけでもなんとかしたいと思って、銀ちゃんを犬の学校に通わせることにしました」

 ほどなくしてかみグセは治まり、トイレの失敗もなくなった。銀の成長を通して、犬同士で遊んだり、多くの人とふれあったりするなかで、犬は社会性を身につけていくのだということを実感したという。

「もともとの性格もあるとは思いますが、学校にも通った銀ちゃんは、我が家で社会性が一番高い(笑)。だれとでもすぐ仲よくなれます」

人懐っこく、愛嬌がある銀は、近所の人気者(まんきつさん提供)

 一方、保護犬だったポテトはいまだに警戒心が強く、家族以外の人が苦手。

「そう考えると、ポテちゃんも幼少期にほかの犬ともっとふれあわせてあげたらよかったなぁと後悔しています。ポテちゃんは臆病すぎて、迎えた当初は散歩に行くこともできなかったですし、人が苦手だからというのを理由に、本当に“箱入り娘”として育てちゃったので」

「息子を育てるより、犬を育てるほうが神経を使った」とまんきつさん。人間は成長すれば言葉でコミュニケーションをとれるが、犬は何年経っても言葉を話さない。その分、微妙な表情の変化やしぐさに敏感になり、それが愛おしさにつながっている。

犬の存在が心身の支え

 息子さんが成人したいま、まんきつさんの生活は犬を中心に回っている。

「犬2匹の世話をしながら仕事と家事をすると、それで一日が終わっちゃうんですよね(笑)」

 雨が降っても、雪が降っても、台風がきても散歩は365日休みなし。大型犬に間違われることもあるほど、体の大きな銀の相手をするのは体力勝負。お金だってかかる。

「でも犬がいるからこそ頑張れる」と、まんきつさんは言う。2匹との日々の暮らしでふとした瞬間に感じる小さな幸せ、そして2匹の存在そのものが心の支えになっている。

「ポテちゃんと銀ちゃんは、私にとってかけがえのない家族。毎日のいろいろな瞬間で、ふたりがいてよかったなぁって感じています。それに、私がいないと生きていけないんだから『死ねない!』とも思うんですよね(笑)。そうすると食べるものをはじめ、自分の健康にも気を使うようになりました」

頭の片隅に『犬々ワンダーランド』を

『犬々ワンダーランド』には、2匹との暮らしを描いた日常回と、ポテトを譲り受けた保護活動家や、銀を通わせた犬の学校のトレーナーなどにインタビューをし、ペット業界の現場の声、現状をまとめた取材回がある。

「保護活動家の萩原さんは、30年にわたって活動を続けていらっしゃいます。お話を聞いて、相当な覚悟がなければできるものじゃないと痛感しましたし、悪質な保護団体や業者の現状にショックを受けました」

 そもそも、まんきつさんが今回、犬のまんがを描こうと思ったのは、サウナ室のテレビで見た悪質なペット業者のニュースがきっかけだった。

「その悪徳業者は、ペットショップで売れ残って値段が下がった犬を買い取って、劣悪な環境で飼育・交配させ、生まれた子犬を販売していました」

『犬々ワンダーランド』の表紙モデル、ポテト。そっくり!(まんきつさん提供)

 まんきつさんは、不幸な犬や猫をなくすために、自分にできることはなにかないかと考えた。

「日本はペット後進国といわれていますよね。私自身も最初はそうだったんですけど、犬や猫を飼っている人でも、ペット業界の裏側を知らない人ってたくさんいると思うんです。だから、まず知ってもらうことが大切だと思いました。私には、萩原さんのような保護活動はできないけれど、まんがを通してペットを取り巻く現状を伝えることはできるんじゃないかと思ったんです」

 また、いまは飼っていない人でも、いつの日か犬や猫を迎えることを決めたとき、「『犬々ワンダーランド』を読んだことを思い出してもらえたら」とまんきつさんは言う。

「『犬々ワンダーランド』を頭の片隅に残しておいて、いつか犬と縁があったときに思い出してもらうことで、犬と飼い主さんの役に立てたらうれしいですね。そして、犬や猫をどこから迎えるか、いろいろな意見はあると思いますが、『犬々ワンダーランド』を読んだことで、保護犬や保護猫を迎えることが選択肢のひとつになったらいいなと思います」

まんきつ
1975年埼玉県生まれ。2012年、ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目され、2015年に初単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)刊行。その他著書に『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)などがある。

『犬々(わんわん)ワンダーランド』
著者:まんきつ
発行:扶桑社
本体価格:1,300円+税(96ページ/オールカラー)

(文・成田美友)

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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