繁殖猫から“猫神様”へ スコティッシュフォールドのこまおを迎えて幸せに気づけた
丸々としたボディーに堂々たる佇まい。見ているだけで心が和む、この子の名前はこまお。ブリーダーのもとで、子猫を産ませるための繁殖猫として働いていたオスのスコティッシュフォールドで、今年6歳を迎えました。
「保護団体からこまおを迎え入れてから、私の性格、生活、すべてが変わりました。動物に愛を注ぐことで、私自身がたっぷりと満たされていく。『ああ、私に足りないものはこれだったんだ……』と、何ものにも変えがたい幸せを感じています」
そう語るのは、ヴィンテージショップ「oz」を営む鈴木さん。根っからの動物好きなだけに、最初は動物と暮らすことのハードルを高く高く設定していたのだそう。そんな彼女は、どのようなステップを踏んで、この幸せを手に入れたのでしょうか。保護猫を迎え入れることを迷っていたり、不安を感じていたり……そんな人々にぜひ読んでほしい物語です。
動物と暮らすことのハードルを上げていた日々
「迎え入れるなら動物保護団体から、それももらい手が少ないとされる成猫を。ずっとそう考えていました。小さい頃から動物と暮らしてきたけれど、どの子も捨てられていた子たちでした。大人になって生体販売について疑問を抱くようになり、動物を迎える家庭が保護動物を選択すれば、殺処分や行き場のない動物がなくなるという統計もあると知りました。だからもし迎え入れるなら保護動物一択だったんです」
とはいえ鈴木さん自身は自営業。家を空ける時間も長く、動物を飼うのは「絶対に無理」と思っていたそう。また独立して家を出たことで、実家で飼っていた犬の面倒をしっかり見られなかったという後悔も。「“いい飼い主”でなければ飼ってはいけない」そう自分にブレーキをかけていたのです。ただ、幼少期から率先して飼育委員を務めるほどの動物好き。夜な夜な保護団体のサイトやSNSをのぞいては、「飼いたい……」「でも無理……」を繰り返す日々が続いていました。
そんな鈴木さんの心境に変化をもたらしたのは、コロナウイルスのパンデミックでした。コロナ禍により、仕事に明け暮れていた生活スタイルは一変。家で過ごす時間が増えるなか、「やっぱり動物と暮らしたい」という思いが募るようになったのです。
「以前から動物保護団体に寄付や物資の支援を行っていたのですが、そのスタッフの方から、一度受け入れてもすぐに手放してしまう、残念な譲渡先の人がいること。だからこそハードルを上げているけれど、大切なのは動物への愛情と信頼関係だと考えていること。だからこそ確かな関係性があれば、条件すべてがそろわなくても譲渡することはあること。などなど多くのアドバイスをもらったのです。
何より保護団体のサイトを見ているとわかるのは、狭いかごの中で一生を終える動物たちの数の多さ。いい飼い主になれるかどうかよりも、1匹でも多くその劣悪な環境から出してあげたい。そう考えるようになっていきました」
さらに、ちょうどその頃、動物と暮らす友人の声が、鈴木さんの背中を押したと言います。
「もともと仕事が大好きだった私は、ずっと家と仕事場を往復する日々を送っていました。自分のお店が我が子のような存在で、すごく楽しかったし、誇らしくもあった。ただコロナになり、世の中の動きがピタッと止まって、異常なほどの不安に襲われるようになりました。それでも仕事しかないと働き続ける私を、友人は心から心配してくれたのですよね。『やっぱり動物を飼ってみたら? 生活が変わるよ』そう助言してくれたのです」
初対面の第一印象は「え? でかっ(笑)」
「保護猫と暮らそう」。そう決心した鈴木さんが運命の猫と出会うまで、そう時間はかかりませんでした。
「一緒に暮らすなら種類も性別もどんな子でもよかったのですが、保護猫サイトではスコティッシュフォールドのページをよくのぞいていました。一時期から寝てる耳が可愛いとすごく人気が出た猫種ですが、耳が寝るのは掛け合わせによるもので、成長するにつれ骨の異常で歩けなくなることも多く、海外では禁止になっています。犬であればトイプードルやチワワにも当てはまるのですが、人気により増えすぎたブリーディングから行き場のない子が非常に多くなっていることが想像できました」
そんなとき、偶然目に飛び込んできたのが「こまお」でした。丸々とした体つきがユーモラスな一方、ものすごく卑屈な顔つきをしていたのだそう。
「飼育環境はもちろん、おそらく流れ作業で写真を撮られているから、おびえや不満が表情に出ていたのでしょうね。もう目が離せなくなって、すぐに問い合わせをしました。熱い思いを長文のエントリーシートにしたためたり、信用を得るため個人のSNSアカウントを伝えたりして、猛アピール。そうやってやり取りをするうちに『譲渡したい』という申し出が。自分でハードルを上げすぎていたのか、どこか拍子抜けする気持ちと、安堵(あんど)の思いを抱えながら、保護団体が指定した都内の病院にこまおを迎えに行きました」
こまおの第一印象は「え? でかっ(笑)」だったとか。想像はしていたものの、体はもちろん、顔も丸々。ずっしりとした重みに、心の中でうれしい悲鳴をあげながら帰宅。そして家に到着していちばん、こまおがしたこととは……。
「うちの床に、もりもりっとうんちをしてくれたのです(笑)。保護猫を迎え入れた諸先輩方から、初日は絶対にケージから出てこないと聞いていたので、驚くやらうれしいやら。そのにおいをクンクンと嗅いで、ようやくケージにおこもり。3日目ぐらいから足元に匂いを嗅ぎにきて、その後は、おもちゃを見てはびっくりしたり、猫用YouTubeに釘付けになったり。臆病ではあるけれど好奇心たっぷりの様子が伺えて、少しずつ距離を縮めていきました」
それからは少しずつ、階段が一段ずつ登れるようになり、とうとう上階の寝室で眠る鈴木さんを起こしにくるまでに。それらひとつひとつの成長が「泣くほどうれしかった」と言います。
「もちろんハプニングもありました。数カ月経つ頃には私の後をついて回るようになり、特にお風呂に入っていると外でニャーニャーと鳴くので、湯船につかるときはドアを開けるようにしていたんです。仲が深まったなぁなんて感慨深く感じていたある日、なんとこまおが湯船の中の私めがけてダイブ!
お湯が張ってあるなんて知らないこまおは大パニック。すぐに救い出しましたが、ずぶぬれのまま部屋を駆け回り、タオルで拭こうとする全裸の私に爪を立てたりして、あれはお互い大惨事でしたね」
「トラウマになったらどうしよう」と心配したものの、その後、ごはんをあげると、こまおはわりとけろりとした様子だったのだそう。鈴木さんの腕にまだ残る、そのときの傷を見せてくれながら、「何かあったらまずはごはん。何もなくてもとにかくごはん。単純な子でよかったなと思います(笑)」と、幸せそうな笑顔で教えてくれました。
保護犬や保護猫を迎え入れる選択肢を、多くの人に知ってほしい
もうひとつ大変だったのが、こまおの去勢でした。暮らし始めたのは2021年9月。手術は年内のどこかでと考えていたものの、こまおのおなかに虫がいることがわかり、完全に排除するまで待たざるを得ない状況に。そうするうちに年を越し、こまおが発情期を迎えてしまったのだそう。
「ずっと興奮していて、誰かがそばにいてなだめなければいけない状態でした。それが夜通し続くので、私か、一緒に暮らすパートナーか、どちらかがこまおのそばでつきあうことに。ふたりともろくに眠れず、部屋もぐちゃぐちゃで、全員が限界を迎えようとしていました。ようやく去勢できたのは、その生活が始まって1カ月が経った頃。本人がいちばんつらかったのではないかな。今思い出しても、お互いよく乗り切ったなと印象に残る出来事でした」
こまおを迎えて1年と半年が経ち、鈴木さんはもう1匹迎え入れることを検討しているとか。
「動物と暮らすことを考えたとき、保護猫や保護犬を選択することがもっとメジャーになってもらいたいと思っているんです。こまおと一緒に暮らし始めたことで、私は動物のために何ができるのか、さらに真剣に考えるようになりました。こまおを受け入れたことを知った友人や、こまおとの日常をつづったSNSを通じて知り合った人々が、保護動物に興味を持ってくれているのがすごくうれしい。こまおは寂しがりやなところもあるし、この子さえよければもう1匹どうかな、と考えているところです」
いい飼い主でなければ、一緒に暮らすべきではない。迎え入れる前は、そう自分に言い聞かせてきた鈴木さん。飼うかどうするか、悩んでいた時間は無駄ではないけれど、抱えていた不安はすべて吹き飛ぶほどの幸せを手に入れていると言います。
「いい飼い主かどうかって動物たちに聞いてみなければわからないですよね。保護動物に関して言えば、受け入れることで前よりいい環境を用意してあげられることは確かです。情報がたっぷりある今こそ、それらを精査しながら、できる限りのことをすることが大切なのではないかと考えるようになりました」
さて、鈴木さんにとって、こまおはどんな存在ですか?
「神様、ですね(笑)。犬は相棒やパートナーなどに例えられるけれど、猫はもう少し距離感があって、自立している気がする。私にとってこまおは、ただそこにいてくれればいいという尊い存在。極端なことを言うと、この子が来る前はその日その日が全力投球で、いつ死んでもいいと思っていました。でも今はこまおと一緒にいたいから、1日でも長く生きていたい。そこまで思わせてくれるこまおに、心から感謝しているんです」
鈴木さんが営むヴィンテージショップ「oz」のインスタグラムはこちら @oz.vintage こまおのインスタグラムはこちら @komakomakomao
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