「気軽に来てほしいし聞いてほしい」 動物病院専任カウンセラーに聞いた獣医師の本音

今年2月に発売された『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』(日東書院本社刊)の著者、宮下ひろ子先生にお話しを伺った

 ペットと暮らす人にとって、動物病院は欠かせない存在だが、特に猫の場合は連れて行くだけでも至難の業。「こんなことで動物病院に行っていいの?」「医療費はいくらなんだろう」などの理由も相まって、何となく行きづらさを感じている飼い主さんにも、「もっと気軽に動物病院に行って欲しい」と語るのは、獣医師であり、動物病院専任カウンセラーでもある宮下ひろこ先生だ。

 宮下先生は、臨床現場での経験をいかし、動物病院の院長先生はじめ獣医師や看護師など約2700人へのコーチングや心理カウンセリングの実績があり、また診察やカウンセリングなど、これまで約6200人の飼い主とかかわってきた。

宮下ひろこ先生。元保護猫の飼い猫「もっち」ちゃんと

 獣医師、カウンセラー、飼い主、3つの視点から飼い主の疑問や質問に応えた新刊『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』(日東書院本社)を上梓した宮下先生に、よい動物病院の見つけ方からペットロスまで、お話を伺った。

動物病院は「もっと聞いてほしい」と思っている

――動物病院で「聞きづらい」と感じている飼い主さんが多いとわかったきっかけがあったそうですね。

 そうですね。動物病院で勤務医をしていたころ、ペットの余命がわずかとなってしまった場合や、ペットを亡くされた方に対して、治療以外でも何かできないかと「ペットカウンセラー」の養成講座を受けました。その時一緒に勉強していたメンバーと「HAAC」(ハーク/現在は「HAACエデュケーション」)という団体を作り、飼い主さんのご相談、カウンセリングをボランティアで行うようになったんです。そのときに「なぜ、その相談を動物病院で聞かないのだろう……」という飼い主さんが何人かいらしたんです。飼い主さんからお聞きしたのは、こういった理由でした。

  • 聞きづらい雰囲気
  • 先生本位で進んでいく診察スタイル
  • 忙しそうなので、聞くのが申し訳ない
  • 混んでいるときに先生に時間をとらせられない
  • こんなこと聞いて大丈夫かな……

 またよくあるのが、一度聞いた診断の結果や治療方法を、もう一度聞くのも勇気がいるという理由。私は獣医師でもありますし、動物病院は「気軽に聞いてほしい」と思っているはずなんです。なのでおそらく、飼い主さん側が遠慮されているのかなと感じました。

――動物病院で処方された薬を猫に飲ませられなかったときや、長毛の飼い猫の毛玉がひどいときなどは、病院に行きづらくなってしまうという飼い主さんもいます。

「もらった薬を全然飲ませられない」と言っていただければ、たとえば錠剤以外の負担の少ない方法や、薬を包む猫用のおやつなどの提案もできます。出来ていないことも言ってもらった方が治療しやすいですし、薬を飲ませているか飲ませていないかは、治療の効果を見るためには必要な情報です。嫌がる猫さんに上手に投薬できる飼い主さんの方が少ないと獣医師はわかっていますから、きちんと薬を飲ませることができないからダメな飼い主さん、などと判断するようなことはないと思います。

宮下先生の愛猫、1歳のもっちちゃん

 毛玉のことも、日常的にケアしていれば毛玉にならないけれど、ブラッシング嫌いの猫さんもいますし、私でも過去、飼い猫に毛玉を作ってしまい、スタッフに手伝ってもらってバリカンで刈ったことがありました。ブラシを嫌がる猫さんは難しいですよね。毛玉だらけになったことを隠したくなるかもしれませんが、むしろ早めに毛玉も取りに来てほしいですね。

コミュニケーションのとれる病院選びを

――気軽に動物病院に行ったほうがいいのでしょうか。

 そうですね。爪切り、歯みがき、体重を測るだけでもいいですし、病院に慣れる意味でも気軽に来ていただいている飼い主さんもいらっしゃいます。健康なときに何か検査を勧められた場合は、その必要性を十分に獣医師に確認して、もし納得すれば行えばいいですし、まだ若いから、持ち合わせがないから、時間がないとかで断っても大丈夫です。そういった率直なやりとりができる先生と出会えたら、動物病院にも行きやすくなると思います。

『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』より。猫の飼い主とって嬉しい情報が満載

 常に獣医師は「飼い主さんの考えはどうなのかな?」と思っているはずです。治療について最善の提示はするけれど、全ての選択肢を行うことが必ずしも猫にとって正解なわけではないということもわかっていて、その部分でコミュニケーションを取りたいと思っているんです。

――いい動物病院の選び方はありますか?

 今回の本のテーマでもある、コミュニケーションがとれる病院というのが一番大きいかなと思っています。

 もちろん、猫さんに対して優しく思いやりを感じられる病院であることが大前提です。

 治療内容や技術の質や高さも大切なポイントですが、その判断をどこでするかは難しいですよね。自分がしてほしいことや考え、今の状況を含めて、何でも話せるのが第一ですし、会話のキャッチボールがしっかりできて、信頼できる先生やスタッフがいるところがよい病院だと思います。質問や相談がしやすく、丁寧に答えてくれて、安心して猫さんを任せられる病院を探してもらいたいですね。

どうしたら獣医師と上手にコミュニケーションがとれる?『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』より

 病院に対する印象って、それぞれの飼い主さんによって違います。同じ先生であっても話しやすいと思う人、話しにくいと思う人がいますよね。だから口コミや噂はあまり信用できないかもしれません。猫さんは敏感ですし、猫さんと病院の相性も含めて、まずはワクチン接種などで病院に行くことですよね。その他、飼い方の相談、爪切り、何でもいいので、まずは病院に足を運んでいただけたらと思います。

――動物病院によって料金が違いますが、事前に聞いても良いのでしょうか。

 診察料、ワクチン代、避妊手術代など、決まった治療に関しては事前に聞いても問題ないです。複雑な処置や手術が必要な場合は、診察前には判断がつかないので、ハッキリ応えるのは難しいかもしれません。手術の時などに見積を出してくれる病院も増えてきているので、口頭だけでは心配なようであれば、事前にお願いすることも可能です。

『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』より。お金のことや猫のこと、医療のこと、獣医師のことなどが一冊にまとめられている

生きている今、その瞬間を大切に

――ペットロスの相談も多いのでしょうか。

 そうですね。動物病院でペットを亡くした飼い主さんが、「獣医さんとしての意見が聞きたい」ということでカウンセリングを申し込まれることが多いです。「この治療を選択してよかったのか」「家に連れて帰ったほうがよかったんじゃないか」といったお話ですよね。

 亡くした悲しみの中で、ずっとあったその子との絆や感謝のような気持ちを、一時的に悲しみが深すぎて思い出せなくなってしまうこともあります。ご自身の中で、そのときできる最善のことをしたという気持ちになれたら、多少後悔があったとしても、その子のことを愛せていたし、愛してもらっていたと思えるはずなんです。どんな方でもペットロスは起こるので、今生きている目の前の猫さんとの時間、その瞬間を当たり前と思わず大事にすることが大切だと思います。

窓の外を見るもっちちゃん。愛猫との日々を大切に

――猫と暮らす方々へメッセージをお願いします。

 縁あって迎え入れた猫さんのことを、一瞬一瞬、大事にしてほしいですね。猫にとってはそのおうちに来たことが一番の幸せです。人間は一日せわしなく動いているけれど、猫には猫特有の、“猫時間”みたいなものがあると思うので、猫時間を一緒に楽しんで、豊かな人生を過ごしてもらえたらなと思います。その中で、動物病院を役に立てていただきたいですし、今回の本『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』や、身近な獣医さんとの関係を、猫さんのためにうまく活用していただけたらなと思います。

安田有希子
2015年からsippoにて「猫アレルギーですけど」の連載開始。2匹の元保護猫と暮らして4年目に猫アレルギーが発覚するも、平和に暮らす。猫の好きなパーツは、小さく並んだ門歯。幼少の頃「うちのタマ知りませんか?」のすごろくに大ハマりした年代。栃木県出身。

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