猫も人も幸せな社会を目指して 保護猫カフェからスタート、新たな挑戦へ

2匹の猫
「保護ねこカフェもりねこ」の猫たち

 認定NPO法人「もりねこ」は、2014年から盛岡市を拠点に猫の保護活動に取り組んできた。これまでに保護した猫は約800匹以上、譲渡した猫は約700匹にのぼる。目指すのは、猫も人も幸せな社会だ。

(末尾に写真特集があります)

公開出来る場所をつくりたかった

 JR盛岡駅(盛岡市)から10分ほど歩いたビルの2階に、同法人が運営する「保護ねこカフェもりねこ」がある。カフェ店内は明るく、壁にはキャットステップ、部屋の中央にはキャットタワーが置かれている。猫は思い思いに過ごし、訪れた人は猫たちと触れ合うことができる。

 もりねこは、理事長を務める工藤幸枝さんが立ち上げた。猫好きだった工藤さんは、札幌市に住んでいた時に猫の保護活動について知り、札幌市内の保護団体でスタッフも務めた。2011年に盛岡市に引っ越し、その3年後に保護猫カフェを開いた。

工藤さんと猫
認定NPO法人「もりねこ」理事長の工藤幸枝さん

 保護猫カフェにやってくる猫たちは、保健所からの引き取りが半分。ほかには一般からの相談で保護したり、もりねこがレスキューしたりした猫たちだという。

 工藤さんは「社会の問題は、多くの人に知ってもらわないと変わらないと思う。だから、保護猫カフェという『公開できる場所』をつくりたかったんです」と話す。

普通の猫として

 もりねこの活動は、これだけにとどまらない。2017年には、猫免疫不全ウイルス感染症(通称猫エイズ)陽性だったり、ハンディキャップがあったりする猫たちと触れ合えるシェルター「もりねこプラス」を開設。このシェルターは保護猫カフェと同じビルの5階にあり、訪れた人は猫たちと触れ合い、遊ぶことができる。

くつろぐ猫
「もりねこプラス」でくつろぐ猫

 もりねこプラスを作った背景には、今から6、7年前に保健所から保護した猫「菊蔵」の存在があった。菊蔵は当時10歳という高齢で、猫エイズ陽性だった。このため、譲渡先が見つからないことも考えられた。だが保護猫カフェで菊蔵と触れ合った小学生の女の子が「この子がいい」と希望し、菊蔵を家族に迎え入れてくれたという。

「このとき、猫エイズ陽性の猫と触れ合ってもらうことが大事だと思ったのです。実際に触れ合ってもらえたら、可愛い普通の猫です。病気を理解してもらえる人には、普通の猫として一緒に暮らしてほしい。病気への偏見も無くしたいと思い、『もりねこプラス』を始めました」と工藤さん。

「スペシャリティーキャット」への思い

 また同じ2017年には、行政と協働して「もりおかニャンとも幸せプロジェクト」をスタートさせた。盛岡市には、保健所に来た犬や猫を保護するための十分な施設がない。そこで市民から一時預かりボランティアを募り、新しい飼い主が見つかるまでの間、預かってもらっている。

 さらに2021年には、終生飼養施設「しっぽのおうち」を設立。高齢だったり病気だったりしてケアが必要な猫や、終末期の看取(みと)りを迎えた猫のための施設で、現在15匹が暮らしている。

白黒猫
「保護ねこカフェもりねこ」の猫

 こうしたケアが必要な猫を、もりねこでは特別な存在という思いで「スペシャリティーキャット」と呼んでいる。「若い猫を保護して譲渡していくことも必要だし、一方でスペシャリティーな子たちも大事にしたい。けれどもスタッフがお世話に費やせる時間は限られているので、終末期の猫の最期の時に一緒に居てあげられないこともあった。それが本当につらくて、こうした施設をつくりたいと思ったんです」(工藤さん)

 2014年の団体立ち上げ以来、もりねこの活動はどんどん広がっている。工藤さんは「必要なことが次々に変わるし、やってくる。対応しなくてはとやってきて今に至ります」と、これまでを振り返る。

新たな挑戦へ

 そして今、新たな挑戦が始まっている。保護猫レスキューシェルターと、不妊去勢手術病院の開設だ。9月26日まで、クラウドファンディングで1200万円の資金を募っている。

 猫の感染症リスクを軽減するため、シェルター整備は急務だ。2020年には緊急で受け入れた猫がパルボウイルスに感染しており、拡散を防ぐ対策などのために1カ月間休業せざるを得なかった。未検疫の猫を隔離してお世話すれば、感染症リスクを軽減できる。近年では多頭飼育崩壊からのレスキューが増えており、急ぎで複数の猫を受け入れてほしいという相談も寄せられていて、シェルターの重要性は増している。

 不妊去勢手術病院の設立を目指すのは、「問題の根本に切り込みたい」との思いからだ。もりねこには、多い日では3,4件のレスキュー相談が寄せられる。不妊去勢手術をしてもらってから受け入れるため、これまでどうしても断らざるをえないケースもあった。

猫
「もりねこプラス」ですごす猫

 この病院が完成すれば低価格で手術できるようになり、多頭飼育崩壊を未然に防ぐことにつながる。将来的には寄付金などを活用し、経済的に苦しい飼い主さん向けに無料で手術をしたり、出張手術をしたりすることも考えている。「この病院ができれば、ただ断るだけでなく、ここで手術できると案内できるようになります。保護や譲渡は、お金も時間もかかる。根本は増やさないことなんです」と工藤さんは力を込める。

 猫の問題は、そのもとに人間の問題があるといい、福祉や行政との連携がますます必要だと考えているという。「目指すのは、猫も人も幸せな社会です。もりねこの施設を活用して行政と連携していきたいし、一緒に啓発もして、動物への意識も変えていきたいです」

もりねこの「保護ねこレスキューシェルター&スペイクリニック開設 クラウドファンディング
目標金額1200万円
9月26日(月)まで
詳細や寄付はこちらから

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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