【獣医師監修】犬はどこの歯が汚れやすい? 犬の歯について知っておこう
6歳以上の犬の80%以上が歯周病にかかっていると言われます。歯周病を予防するためには、原因である歯垢(しこう・プラーク)を毎日の歯みがきで除去することが大切。それでは、特に汚れやすく、注意してケアする必要があるのはどの歯なのでしょうか?
特に気をつけてケアしたい、犬の汚れやすい歯はどれ?
通常、犬の口の中には永久歯が42本あります。小型犬は特に、歯の数が少ない「欠歯」(けっし)や、歯肉(しにく)や顎骨(がっこつ)の中に埋まっていて生えていない「埋伏歯」(まいふくし)があることも多いです。
犬の歯は、部位によってそれぞれ役割があります。役割を知ることで、歯の汚れやすさやみがき方のポイントがわかります。
もっとも汚れやすいのはいちばん大きい奥歯
犬の歯の中でもっとも汚れやすいのは、上顎のいちばん大きい奥歯、第4前臼歯(ぜんきゅうし)。次に、下顎のいちばん大きい奥歯、第1後臼歯(こうきゅうし)。「裂肉歯」(れつにくし)とも言い、食べ物を噛み切るときに使います。
次に汚れやすいのは犬歯の根元
次に汚れやすいのが、犬歯の根元あたり。犬歯はケンカや発情期に犬同士噛むときに使われます。
前歯も汚れやすい歯の一つ
切歯(せっし ※前歯のこと)の根元あたりも、汚れやすい部分の一つです。犬の切歯は主に、食べ物を口の中に引っ張り込むときに使います。切歯が抜けてしまうと、常に舌が口の外へ出て、口の中が乾いてしまいます。切歯の間に隙間があって被毛などが挟まってしまう子は、そこに歯垢がたまりやすくなるので、特に注意が必要です。
それでは、犬の歯が汚れるとどんなデメリットがあるのでしょうか?
歯は汚れていなくても歯周病が進行している可能性も
飼い主の目に見えやすい犬の歯の汚れは、歯の表面で固まった歯石です。ところが、歯石がついていなければよいというわけでもありません。
歯周病の原因は、目に見えやすい歯石ではなく歯垢
愛犬の歯のケアには歯石を取り除けばよいと思っている飼い主さんは多いですが、犬がなりやすい歯周病の原因は歯垢。ネバネバした歯垢は細菌の集まりで、1mgの中におよそ1億個以上の細菌がいると言われています。細菌の種類は人間と犬とで違い、犬の歯垢の中には虫歯を起こす細菌はあまりいませんが、歯周病を起こす細菌が多いと考えられています。
この歯垢の中の細菌は、唾液中のカルシウムによって石灰化され、24〜72時間ほどで歯石になります。歯石になってしまうと歯ブラシでは除去できず、また歯石のついた歯の表面はデコボコしていて歯垢がつきやすく、細菌の温床になりやすいのです。
歯垢を取り除き、歯石を作らないために、1日に1回はタイミングを決めて忘れずに愛犬の歯をみがくようにしましょう。とはいえ、最初からすべての歯をみがくのは難しいことも多いので、その場合は上に書いた汚れやすい歯から始めて、少しずつみがける歯を増やしましょう。最終的には、すべての歯の表と裏を磨けるようになるのが理想です。
歯周病菌はさまざまな内臓の病気を引き起こす可能性もある
犬が歯周病になると、口が臭くなったり、歯ぐきから血や膿が出たりするだけでなく、ひどくなると顎の骨が溶けたり、皮膚に穴が開いたりすることもあります。歯だけの問題ではなく、歯周病になると歯やその周囲が痛い、食べにくくおいしく食べられない、栄養が低下する、精神状態にも影響するなど、愛犬の生活の質に大きく影響します。
さらに、人間では、歯周病になると血管の中に歯周病菌が入って全身をめぐる「菌血症」になり、関節炎や肝炎、心内膜炎などの病気を引き起こすことがわかっています。犬では立証されていませんが、同様のことが起きていると考えられます。
すでに歯が汚れてしまっているなら、まずは治療を
愛犬の歯に歯石がついてしまったり、息が臭かったり、痛くて歯みがきを嫌がったりする場合は、すでに歯周病が進行してしまっている可能性が高いです。まずは動物病院で歯の診察・治療をしてもらいましょう。
病院での歯の治療は、表面の歯石を取るスケーリングだけではありません。適切な治療をすれば、歯と歯ぐきの間に歯周ポケットができていても、だんだん歯ぐきが引き締まって、グラついている歯を温存できる可能性もあります。
とはいえ、犬は突然歯みがきをさせてはくれないので、歯ブラシや口に触ることに慣れさせる練習から始めておきましょう。これらのトレーニングはいずれ、口の中の診察にも役立ち、口腔(こうくう)内の病気にいち早く気付ける可能性もでてきます。
さらに、愛犬に歯みがきをしていても、うまくみがけていない部分に歯垢や歯石がついてしまうことがあるので、定期的に動物病院で歯のメンテナンスをするのが理想です。
歯の汚れ=歯石だけでなく、毎日の歯みがきで歯垢を取り除きましょう
愛犬の歯の汚れは、見た目でわかりやすい歯石ばかりが気になってしまいがちですが、大切なのは歯垢を取り除いて歯周病を予防することです。人間同様、愛犬も歯垢を溜めないように、日々の歯みがきでしっかりケアしてあげましょう。
- [監修]獣医師 林一彦
- はやしかずひこ 歯学博士。『動物歯科クリニック 花小金井動物病院』歯科診療責任者。日本大学獣医学研究科修士課程修了後、同大学松戸歯学部病理学教室専任講師、英国ブリストル大学歯学部での客員講師、日本大学松戸歯学部社会歯科学講座教授を経て、2013年、動物歯科クリニック花小金井動物病院を開院し、無麻酔での歯石取りや極力抜歯しない治療を行う。著書に『歯をめぐる生物学~動物とヒトの歯~』(アドスリー刊)などがある。
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