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愛犬が血便!?獣医師に聞く、犬の血便の原因とその対処法とは

目次
  1. 血便の状態と特徴
  2. 血便に伴う他の症状
  3. 犬の血便の原因と考えられる病気
  4. すぐに病院に行くべき血便の特徴
  5. 犬の血便の対処法とは
  6. 犬の血便で病院へ行く際の注意点とは
  7. 日常からできる血便予防策
  8. まとめ

 犬の便に血が混ざっていた、いつもと違う便をしたと感じたことはありませんか?

 血便の原因は単なるストレスから重篤な病気まで、さまざまなことが考えられます。普段から愛犬の様子を観察し、いつもと違う便をしたときにすぐに気づけるようにしておくことが大切です。犬の血便の種類と原因、正しい対処法をご紹介します。

監修:白井活光 獣医師
苅谷動物病院グループ総院長。獣医学博士。1998年日本大学大学院卒業。同グループ「三ツ目通り病院」や「葛西橋通り病院」の院長を歴任。2015年から現職。日本臨床獣医学フォーラム副会長。専門分野は総合臨床。

 血便とひと言でいっても、その状態は様々です。まずはどんな状態のものがあるのか知っておきましょう。

下痢便に血が混ざっている

 血便は、下痢状の便に血が混ざっているケースが多く、次のような状態が見られます。

  • ドロッとした粘液状の便に血が混ざっている
  • 完全に水のような状態の便に血が混ざっている
  • 便と一緒にゼリー状のもの(大腸の粘液)が出ていて、そこに血が混ざっている

 混ざっている血が鮮血の場合は、大腸で出血していることが多いです。色だけではなかなか判断はできないものの、肛門(こうもん)から遠い箇所にある小腸などからの出血の場合は黒くなるので、一見して血が出ているとは思えないことが多いでしょう。出血した箇所が肛門に近いところほど、真っ赤な血が便に混ざってきます。

黒色のタール便

 胃および小腸がなんらかの原因で出血していて、その血が便に混ざって出てくると、タール状の便になります。出血している箇所が肛門から遠い場所であるほど、胃酸、消化酵素、腸内細菌などの作用で血が黒っぽくなってタール状の便になります。たいていは下痢を伴っているケースが多いのですが、下痢を伴わず、形は普通の便だけれど、真っ黒になっているということもあります。その場合、普通の便とは違って、少し鉄分の臭いがします。

臭いはいつもと違う?

 便に含まれている血の量によって臭いは変わってきます。いつもどおりのいい便に筋状に血が混ざっているようなときは、それほど臭いに変化はありません。大量に血が混ざっているときは、いつもより生臭く感じたり、鉄分の臭いがすることがあります。

出血が止まらない

 血便をしたあと、ずっとポタポタと血が出続けるということは、ほとんどありません。ただ、血便が出続けることはあります。

 たとえば、高齢になると腸に炎症性のポリープができて粘膜が弱くなることが多く、そこから出血することがあります。それがなくならない限り出血が続くので、血便が続くことになります。

 血便が出たときに、他の症状を伴うことがあります。どんな症状を伴うのか、主な症状について触れます。

下痢

 血便は下痢に混ざって出てくることがほとんどなので、下痢の症状が多くみられます。

嘔吐

 血便が出るときは胃、小腸および大腸の消化管の異常で、消化管の異常は、嘔吐(おうと)を伴うことが多いです。

発熱

 腸が炎症を起こして出血して血便が出ている場合、発熱を伴うことがあります。耳や歯茎、下腹部を触っていつもより熱いと感じたら発熱していると言っていいでしょう。なめられた舌がいつもより熱く感じることでわかることもあります。熱の有無は、普段から触れ合っているご家族だからこそ、わかるものです。ご家族が「今日のわが子は熱っぽい」と感じたら、ほとんどの場合、発熱が認められます。ご自身の感覚を信じましょう。

 血便には様々な状態があることがわかりました。では、血便を出してしまう原因はなんなのでしょうか。また、考えられる病気はなんでしょうか。ここでは原因と病気について触れます。

ウイルスや寄生虫の感染

 1歳になるまでの若い犬の場合は、もともと寄生虫を持っているケースもあるので、寄生虫が原因である場合が多いです。ただ、地域によっては寄生虫が多いところもあり、大人になってからでも寄生虫が原因で血便を出すことがあります。

 寄生虫による感染症にかかると消化管に炎症が起きるために、血便が出ることがあります。鞭虫症やジアルジア感染症、コクシジウム感染症が代表的といえます。また、犬パルボウイルス感染症やジステンパーウイルス感染症といったウイルス性の感染症も血便を伴います。

慣れない食事やストレスで腸炎などを発症する

 慣れないものを食べて腸炎を起こして血便を出すことがあります。血が混ざっていない便を何回も出していると、腸が傷ついて出血することで、血便になります。そのときの血便の量はそれほど多くありません。大腸炎の場合、出血した血が大腸の粘液に混ざり、ゼリー状になって便に付着して出てきます。

 食事だけではなく、人と同じように、引っ越しや家族が増えるといった環境の変化をストレスに感じ、消化器症状を起こす場合があります。それが原因でおなかの調子を崩し、血が混ざった便を出すことも考えられます。

異物誤飲

 本来、食べてはいけないものを食べてしまって消化管の粘膜が傷つくことで血便が出ることがあります。たとえば、針や綿棒、つまようじなど、とがっていて胃から腸に流れてしまいやすいものを食べたことが原因となることが多いです。長いひもを誤飲してしまい、絡み合ったひもが腸を傷つけてしまうこともあるので注意が必要です。

 また、人間用の解熱鎮痛薬を食べると、すぐに胃腸がただれて潰瘍(かいよう)になる可能性があります。それが原因でタール便が出るということもあります。

腫瘍、ポリープ

 小腸や大腸などに腫瘍(しゅよう)やポリープができているのが原因となっていることがあります。とくに中高齢の犬の場合に発症率が高いので、この年齢で血便が見られたときは、腫瘍やポリープを疑う必要があります。

血液凝固異常

 出血が起こりやすく、血が止まりにくくなる病気です。なんらかの原因で血管や血小板に異常があると発症します。フォンビレブランド病や血友病といった先天性の場合と、他の病気の影響で発症する後天性の場合とがあります。

免疫反応の異常

 上記の血液凝固異常の後天性の病気のひとつに「免疫介在性血小板減少症」があります。これは、免疫異常によって自身の免疫が血小板を壊してしまう病気です。そのため、血が止まりにくくなり、血便になることがあります。

便秘

 一生懸命、便を出そうとしていきんで大腸の粘膜を傷つけてしまい、出血して血便になることがあります。便秘になると粘液しか出ない場合が多く、この粘液に、量は多くありませんが血が混ざっているのが見られます。

肛門付近の異常

 犬の肛門の左右に「肛門嚢」という袋があり、この袋の中に「肛門嚢液」と呼ばれる分泌液が入っています。通常であれば、排便の際にこの分泌液は自然と排泄(はいせつ)されますが、なんらかの原因で排泄されずに溜まってしまうことがあります。たまりすぎると、肛門嚢が破裂し、膿(うみ)が出たり、出血したりします。この血が便に付着して血便になることが考えられます。

 愛犬が血便をしていたら、誰しも驚き、あわてふためいてしまいます。もちろん、病院へ連れていくことは当然ですが、様子見をすることなく一刻も早く病院へ連れていくべき血便はどんな状態のものか、解説します。

いちごジャムのような血便やタール便を出したらすぐに病院へ

 真っ赤ないちごジャムのような血便が出た場合は、腸の粘膜が剝がれていたり傷ついていることが考えられます。また、胃や小腸から出血している場合は、黒いタール便となって出てきます。この場合、嘔吐や脱水症状を伴うなど重症なことが多く、ぐったりしていて全身状態も悪くなっているはずです。このような場合は、ちゅうちょせず、すぐに病院へ連れていきましょう。

心配のいらない血便

 嘔吐や下痢などの症状がなく、いつもどおりの便に少し付着しているくらいの状態の場合は、少し様子を見てもよいでしょう。また、いつもは食べない、慣れていないものを食べて、下痢をしたときに血が混ざっていた、という場合も、自然に治ることがあるので少しの間、愛犬の様子を観察しましょう。

 ただし、いずれにしても何回か続く場合は病院に連れていくことをおすすめします。

 愛犬が血便をしてしまったとき、飼い主としてはどうしたらいいのでしょうか。ここでは対処法について解説します。

対処法1 まずは犬の状態を観察する

 まず大切なのは、犬の状態を見ることです。いつもと変りなくケロッとしていれば、とくに対処せずにしばらく様子見をしてもよいでしょう。そうではなく、水をがぶ飲みしていたり、おなかを冷たい床につけていたり、普段とは違う様子が見られる場合は、その様子をメモにとるなどして、病院に連れていきましょう。

対処法2 異物誤飲の可能性がないか調べる

 異物を食べてしまった可能性がないか、改めて振り返ってみましょう。部屋の中を見渡して、何かを誤飲してしまったと思われる場合は、血便の原因となっていることが考えられるので、病院に行った際、その旨を獣医師に伝えましょう。

対処法3 絶食させる

 たとえば、朝ごはんを食べたあとに血便が出た場合は、3~6時間はおやつなどをあげず、夕ごはんまで絶食させます。絶食させている間に、下痢もなくあきらかに悪化していないとわかったら、夕ごはんは、いつもの量の三分の一くらいに抑えて与えます。そして、しばらくは固いおやつや脂っぽいものなど消化しにくい食べ物は与えずに、改善するか様子を見ましょう。

対処法4 お散歩は控える

 いつもの習慣だからといっても、お散歩に行くのは控えたほうがよいでしょう。血便が出たら、元気な様子であっても、しばらく様子見のために安静にしているようにしましょう。

 いざ病院へ行くとなったとき、よりスムーズに治療を進めてもらうために、飼い主として注意すべき点について触れます。

注意点1 便を持っていく

 病院に行く直前に出た便は、持っていくようにしましょう。その際に注意したいのは、寄生虫がいる可能性があるので、必ず手袋をして採ることです。また、ティッシュのように水を吸ってしまうものではなく、サランラップやビニール袋などに入れて持っていきましょう。

 排便してから時間が経ってしまった便は、寄生虫の有無を調べることが困難になるので、診断に向かないことがあります。その場合は、持参する必要はありません。

注意点2 写真を撮っておく

 最初に血便を出したときの便から、少し様子見をしている間の便の状態の変化がわかる写真を撮っておくと、治療に役立ちます。嘔吐を伴っている場合は、吐いたものを撮っておくとよいでしょう。

注意点3 排便の回数や状態の経過を伝える

 普段は排便を1日に何回するか、下痢をしたのはいつか、便の状態はどう変化してきているかなど、それまでの排便の経過を振り返って、獣医師に話せる準備をしておきましょう。たとえば、「最近、便が細くなってきた」といったことがある場合、大腸に腫瘍ができている可能性があります。いつも一緒にいるご家族の観察眼は、診察の際に役立ちます。

 愛犬には、できれば血便をすることなく、健康に過ごしてほしいもの。そこで、ここでは予防策について解説します。

対策1 慣れない食べ物は与えない

 食べ慣れていないものは与えないようにしましょう。人が食べているものを欲しがることがよくあると思いますが、可愛いからといってなんでも与えることはおすすめしません。おなかを壊す原因となり、消化器官の炎症につながります。愛犬の体質を知っておくことも大切です。何を食べると下痢をするのか、ご家族が把握しておき、下痢の原因となるものは与えないことです。

対策2 定期的な検便

 定期的に検便をしましょう。年に3~4回程度の頻度がおすすめです。とくにお散歩をよくする子は、寄生虫から感染症になる可能性が高いので、検便は必須と言っていいでしょう。

対策3 普段から便チェックをする

 腫瘍や免疫系の病気を予防することは難しいことでが、早期発見することは可能です。便の色や状態、排便の際の愛犬の様子(きばっているがなかなか出ないなど)を、日常から観察するようにしましょう。いつもと違う様子が見られて、それが続くようだったら、病院へ連れていきましょう。

 血便の原因は単なるストレスから重篤な病気まで、さまざまなことが考えられます。普段から愛犬の様子を観察し、いつもと違う便をしたときにすぐに気づけるようにしておくことが大切です。血便が見られたときは、できうる対処法をした上で、病院へ連れていくようにしましょう。

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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