血液1滴で犬のがんを早期発見する検査、4月に事業化へ 獣医師が企業設立

手術をする獣医師
手術をする伊藤獣医師(伊藤獣医師提供)

 「血液1滴」で犬のがんを早期に発見できる――そんな検査サービスの事業化を、獣医師が立ち上げた企業が目指している。サービスの開始予定は今年4月。犬のがんは早期発見が難しく、気付いた時にはすでに手の施しようがないケースも少なくないという。がんを早く見つけることができれば、愛犬と飼い主とが、より多くの時間を健やかに過ごせそうだ。

がんの根治は早期発見がカギ

 検査サービスを手がけるのは「株式会社メディカル・アーク」(東京都)。代表取締役の伊藤博獣医師は、東京農工大付属動物医療センター(東京都)の専任教授や動物先端医療センター(静岡県)の院長などを経て、2021年に同社を立ち上げた。

 伊藤獣医師によると、犬の死因の50%以上はがんが占める。犬は人間の5~7倍の早さで成長するため病状の進行も早く、飼い主が犬の異変に気づいて病院に連れて行った時には、かなり進んでいることが少なくないという。

手術をする獣医師
愛犬の肝臓がんの摘出手術をする伊藤獣医師(伊藤獣医師提供)

 だが決して、犬のがんは治せない病気ではない。「早期発見こそがカギ。早く見つけさえすれば、根治につなげることもできる」と伊藤獣医師は言う。

 とは言え、がんの早期発見はまだまだ難しい。なぜなら、早期の段階では犬にそれほど症状は見られず、飼い主が異変に気づきにくいからだ。がんが大きくなると、発生した臓器の機能が失われて犬の体に様々な症状が出てくる。食欲をなくす、痩せる、うずくまることが多い――こうした症状が出てから飼い主は異変に気づき、動物病院に連れて行く。しかし、その段階では、ほとんどが末期がんだという。

 現在でも、犬のがんを見つけるための方法はある。ただ、触診や従来の血液検査といった簡易な診断では、正確な結果を得ることは難しいという。CTやMRIによる検査もあるが全身麻酔が必要で、犬の体への負担が大きい。費用も高額だ。

がん細胞が分泌する物質を調べる

 同社が実用化を目指すのは、がん細胞が血液中に分泌する物質である「エクソソーム」の中にある「マイクロRNA」という分子を解析することで、がんを見つけるという方法だ(リキッドバイオプシー)。この手法は人間の医療分野でも研究が進んでおり、それを伴侶動物向けに応用する。

 早期段階で小さながんを見つけるのは、既存の検査方法ではなかなか難しいという。だがリキッドバイオプシーはがん細胞自体を調べるのではなく、その分泌物を調べるため、早期段階でも見つけやすい。例えば、犬がフィラリア検査やワクチン接種、健康診断を受けた際、一緒に採血して検査することを習慣づければ、早期がんに気づくことができるようになる。

 伊藤獣医師らは全国の大学や動物病院の協力を得て、犬に多い上位5種類のがんにかかった犬と、健康な犬とで、血液の中にあるマイクロRNAを比較。それぞれのがんの場合で、どのマイクロRNAに変化が現れるかを解析した。その成果もあって、これら5種類のがんであれば95%の精度で測定できるようになったという。4月から予定している事業化では、この5種類のがんを対象とする。今後、さらに7、8種類のがんについても解析し、7月ごろには計12、13種類のがんについて測定できるようにする予定だ。リキッドバイオプシーは1度の検査で、これらのがんを同時に調べられる。また猫のがんも、2024年に早期診断の事業化を目指している。

飼い主さんと犬の楽しい時間を増やすために

 4月以降、同社が指定する動物病院などで、このリキッドバイオプシー検査を受けられる予定だ。検査できる施設は同社のホームページで公開する。検査費用は2万円を予定しており、別途、動物病院の初診料や再診料なども必要となる。リキッドバイオプシーは補助診断のため、検査でがんの可能性が高いことが分かれば、既存の病理診断や検査へと進むことになる。

獣医師と犬
伊藤獣医師と、血管肉腫の治療をしていたゴールデン・レトリーバーの「フィリップ」ちゃん(伊藤獣医師提供)

 がんを早期に見つけると、既存の治療法が有効に使えるメリットもあるという。伊藤獣医師によると、がんの治療法で最初に考えるのは外科手術で、適用できなければ放射線治療を検討する。ただ、局所療法である放射線治療は全身に転移した場合は使えず、抗がん剤治療を選ぶしかなくなるという。「がんを早く見つけられたら外科治療も放射線治療もできて、一気にたたみかけることが可能だ」と話す。

 40年以上にわたる犬や猫のがん研究・臨床の中で、部位によっては苦しみながら亡くなるケースも多く見てきた伊藤獣医師。「大事にされていた飼い主さんほど『なぜ早く気づかなかったのか』と悔やまれる。ただ、飼い主さんが早期がんに気づくことは難しい。定期的に犬の血液を調べて、症状がないうちからがんを見つけ出していくことが必要。がんで命を落とす犬を減らし、飼い主さんと犬の楽しい時間を増やすことにつなげたい」

(磯崎こず恵)

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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