老猫ホームとホスピス併設の保護猫カフェを作りたい 新たな居場所作りへ挑戦する理由

老猫ホームとホスピス併設の保護猫カフェを(ちよだニャンとなる会提供)

 東京都千代田区と協働して、20年にわたって飼い主のいない猫の問題に取り組んできた一般社団法人「ちよだニャンとなる会」が、老猫ホームとホスピスを併設した譲渡型保護猫カフェを開きます。その費用にするため、現在クラウドファンディングで支援を呼びかけています。今回のクラウドファンディングに挑戦した経緯を、ちよだニャンとなる会の副代表理事、古川尚美さんに聞きました。

(末尾に写真特集があります) 

譲渡する活動へと変化

――ちよだニャンとなる会は、いつから、どんな活動をしていますか?

 2000年に千代田区が飼い主のいない猫の不妊去勢事業をスタートし、ボランティアを募集しました。その時のボランティアがネットワークを強めて、2001年に会を発足しました。

 当初は、たくさん生まれていた野良猫を捕獲・不妊去勢手術して、元いた場所に戻すTNRで繁殖を抑えることが中心でした。

 千代田区は2011年から、殺処分ゼロを達成しています。この前後から、私たちの活動も猫を元いた場所に戻すのではなく、譲渡する方向へと変わっていきました。

 譲渡しようと強く思ったのは、以前に戻した猫が交通事故に遭い、それを私たちが助けるという場面がどんどん増えてきたためです。千代田区には永田町や東京駅、丸の内があります。交通量が多いだけでなく、大規模な再開発も進み、猫が住める場所が減っているのです。あのとき保護して譲渡しなかったために、けがをして帰ってくる。やっぱり外の猫をゼロにしようと考えるようになりました。

 

外で生きる地域猫たち(ちよだニャンとなる会提供)

――2018年には、秋葉原に譲渡型の保護猫カフェ「ちよだニャンとなるcafé秋葉原 」をオープンしました。

 大人の猫を譲渡する場を作ろうと考えました。そして活動を進めるうち、譲渡先が見つかりにくい高齢の猫や病気の猫が秋葉原の保護猫カフェで暮らすようになったのです。3年入居している猫「フラディ」は、保護した時にはガリガリで、瀕死(ひんし)の状態でした。3回の輸血を乗り越えて元気になりましたが、ここに来た時から目が見えず、耳も聞こえない。最近はぐるぐると歩き回るようになりました。家族を見つけたいですが、引き取りたいという希望者は全くいません。ほかに、高齢で病気を抱えていて、家族が見つからずにこの保護猫カフェで看取(みと)った猫たちもいます。

 

傷病の猫たちをレスキュー(ちよだニャンとなる会提供)

――譲渡先が見つかりにくく、路上にも戻せない猫が出てきたのですね。

 これは千代田区だけでなく、日本全国で起きている、またはこれから起こる問題だと思います。

 野良猫の繁殖が収まっていないところは、積極的に不妊去勢手術をしていくべきです。元いた場所に戻すのが悪いということではありません。繁殖数が多いところですべての猫を保護していたら、ボランティアや行政に無理が出てしまう。どの段階にあるのかで、どういう施策が良いのかは変わってくると思います。

 千代田区に限らず、TNRが進んだところは、元いた場所に戻した猫が高齢になります。TNRの先には、こういうことが出てくるのです。だからこそ、隠すことなく積極的に解決に向けてやっていけば、何かみなさんのヒントになるかもしれないと思っています。

外で暮らす老猫や病気の猫に居場所を(ちよだニャンとなる会提供)

老猫や病気の猫をみんなで支える場を

――新しく千代田区神田神保町に開く、保護猫カフェについて教えてください。

 老猫ホームとホスピスケアを併設した譲渡型保護猫カフェです。秋葉原の保護猫カフェでは、入館するお客様に「触れ合える猫ばかりではないし、高齢で看取りの猫もいます」と説明すると、それでも大丈夫という方と、それじゃあ帰りますという方がいらっしゃいます。だから、そこをもっとはっきりさせたかった。一緒に応援してくれる方に来てもらえればと思ったのです。誰もが猫を飼えるわけではないし、老猫や病気の猫のお世話が出来るわけでもない。でもそういう猫たちを社会みんなで支えていく必要があると思っているので、そうした場を作りたかったのです。

 秋葉原の保護猫カフェは古民家の1階で定員6匹でしたが、神田神保町に新設する保護猫カフェはビルの4階にあり、広さは秋葉原の1.5倍ぐらい。定員は8~10匹に増える見込みです。オフィスが入るような作りなので、リノベーションして作り替えています。クラウドファンディングの支援は、リノベーション費用として活用します。オープン予定日は2022年1月22日です。

 

カフェ完成イメージ(ちよだニャンとなる会提供)

 清潔さを保てるよう、設備に気を配っています。看取りの猫は排泄(はいせつ)がトイレで出来なくなることが多いので、きれいに拭き取れる床材を使いました。猫は高いところが好きなので、高齢の猫でも安心して高い所に乗れるように、猫ステップなどを若い猫向けに比べて低めに作っています。

  クラウドファンディングで応援してくださる方のメッセージを読むと、自分では猫を飼えないけど、一緒に支えていきたいという声が多いです。倒れている猫がそのまま死んでもいいとは多くの人は思っていなくて、だけど動物病院に連れて行くと、その後自分では飼えないので二の足を踏むこともあると思うんです。助けたいという気持ちに応えられる場でありたい。

――神田神保町の保護猫カフェには、どんな猫が入る予定ですか。

 体重が2キロしかなく、子猫だと思って保護したら1歳は超えていると獣医師に言われた猫がいます。成長が出来なかったのだと思います。排泄が出来ず、レントゲンを撮ったら骨盤骨折をしていることが分かりました。この猫は食事のケアが結構難しいのと、成長の度合いによって骨盤の手術をするので、神田神保町のカフェに入ることになると思います。ほかに、秋葉原の保護猫カフェで3年を過ごしているフラディなども入居予定です。

 高齢の猫や病気の猫を実際に保護猫カフェで見ていただくことで、お役に立つことも有るのではないかと思うんです。命あるものは人間と同じで、具合も悪くなります。猫も犬も、今は元気でも、ロボットではないので、この先どうなるかは分かりません。終生飼養責任という意味でも、保護猫カフェに高齢の猫がいるのは良いと思っています。

高齢の猫や病気の猫が安心して暮らせる場を(ちよだニャンとなる会提供)

 ただどうしても、運営コストは課題になります。どうやって多くの方に応援してもらいながらやっていくかを考えていかなければなりません。コロナが落ち着いてからになりますが、学校で見学に来てもらえたらいいですね。

 私は、行政がこういう施設を持つべきだと思っています。区にも働きかけをしていますが、なかなか行政が一気に実現するというわけにもいかない。なので、積極的にやって見せて、行政はどういうことができるか考えてもらえればと思います。千代田区の取り組みは、他の行政の方が視察に来てくださるので、ぜひ神田神保町の施設を見てもらえたらいいなと思っています。 

(磯崎こず恵)

◆ちよだニャンとなる会のクラウドファンディング2022年1月22日午後11時まで。

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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