17の実話でつづる人と猫との素敵な約束 ともに暮らす覚悟と責任「幸せにするよ」
sippoで連載「猫のいる風景」が大人気のフリーライター佐竹茉莉子さんの新刊「猫との約束」(辰巳出版)が出版されました。「猫のいる風景」をもとにした10話、フェリシモ猫部のブログ「道ばた猫日記」をもとにした3話に、新たな記事4話を加えた計17の実話がつづられています。遊ぼうよ、一緒にいよう、ずっと守るから、穏やかに暮らそうね……“約束”をテーマにした数々のドラマが、再取材、加筆などを経て魅力を増した一冊となりました。
命のバトンを受け取り、幸せに生きる約束
登場する猫の、生まれた背景、個性はそれぞれです。捨てられたり、さまよったり、ハンデがあったり。人との巡り合い方も様々で、保護猫サイトで出会ったり、道で偶然に出くわしたり。
たとえば、保育園児ユイトくんの場合は、お母さんと一緒に行った譲渡会で、黒キジの子猫みーちゃんと出会いました。
ケージの中から手を出して、猛アピールしてきた天真爛漫(らんまん)な姿を気に入ったのです。仮についていた名は「きせき」。
おかあさんは息子が選んだ子猫に異論なくトライアルを申し込みますが、その時に保護猫シェルター「またたび家」の代表塩沢さんから子猫の過去をきいて、「大事にしたい」と言って涙を流しました。一方、塩沢さんはその涙をみた瞬間、きせきが幸せになる未来を確信したそうです。
じつは、きせきは生まれて2週間の時に、瀕死(ひんし)状態で保健所に収容された子。職員が「またたび家」に知らせ、届けました。
塩沢さんが病院に運び持ち直すようにみえましたが、その後、危篤状態に。でも塩沢さんは、生きよう!生きて幸せになろう!と願い、徹夜で5つの手当を施します。点滴、ブドウ糖投与、熱いくらいの保温、少しずつの強制給餌(きゅうじ)、そして、あきらめないこと。
生きようとしていた子猫はその手当のすべてを受け入れ、やがて奇跡を起こします。そして、ユイトくんの家族と会い、みーちゃんとして第二の猫生を歩み始めたのです。
ユイトくんのおかあさんは、自分に言い聞かせました。
「命のバトンを最後に受け取った私たち家族も、みーちゃんのように全力でしあわせに生きていかなきゃ」
猫のために自分も全力で幸せに生きる。それこそが、猫との約束でした。
こうした猫と人、人と人の数々の約束のドラマが、本書の中で優しく描かれ、命の重みと輝きが、心に訴えかけてくるようです。
猫たちみんなへの約束
雄猫「次郎」が家族を見つけるまでのエピソードも、絶望から希望へと向かう物語です。
東京郊外に暮らす夫婦が、飼い猫ミーナのために相棒を迎えようとします。
ミーナを譲渡してもらった保護団体「ねこけん」のサイトをのぞき、ふつうっぽい可愛さが気に入ったのはサバ白猫の次郎。
じつはその次郎は、新聞記事にもなった虐待・遺棄事件の被害猫でした。
金づちで殴られ心身に傷を負った次郎は、治療を受けた後、ねこけんのシェルターで、「優しい手だってあるんだよ」とスタッフたちになでられ、さらに人になれさせるべく、預かりボランティアの市來さんの家に行きます。
次郎が人への恐怖心を克服して譲渡先探しが始まったのは、事件から5年近く経ってからでした。
次郎はいま、ふつうの甘えん坊の猫となり、夫妻とミーナと幸せに暮らしています。
譲渡が決まった時、市來さんはうれし泣きをし、「卒業おめでとう」とブログで次郎に言葉を贈りました。本編にはその思いがつづられます。
「私たちは、あたりまえの愛を示しただけ。恐怖の記憶が消えていったように、あなたの中の私の記憶はやがてすっかり消えるでしょう。でも、次郎の代わりに、私が覚えている。それで十分。
あなたのような思いをする猫がいなくなるよう、これからも、みんなでしっかり手を繋いでいくよ」
それは、次郎だけでなく、“猫たちみんな”への約束でした。
佐竹さんは、まえがきで、こうつづっています。
「猫は自分で運命を選べない。野生で生きてはいけない。苦しみ哀しみを訴えるすべがない。だからこそ、人は猫たちと、しっかりと『しあわせにするよ』という覚悟と責任を持って向き合っていかなければ。
小さないのちを守り抜くその約束は、個別の約束を超えて、『人間と猫』『社会的強者と弱者』という大きな共生社会の中でも、大切な土台のはずです」
この、強く優しく揺るがない猫への目線が、読む人に深い共感を呼び覚ますのでしょう。
別れの時に聞かせたラブソング
猫との出会いがあれば、別れもあります。その時に猫と交わす約束はある意味で究極なのかもしれません。
21年前に、家の庭をつと横切った器量よしの雌猫ねぎは、いっとくさんが「一緒に鍋でも食うか」と言うと、スッと入ってきた猫。野良だったのに、大きいものは食いちぎれず、皿からはみ出たものは絶対食べない。
ご飯をあげても、好きなブラッシングをしてもねぎが鳴きやまない時、いっとくさんはわがままなねぎ様を抱っこして、玉置浩二さんの名曲「メロディー」を歌ったのだとか。
この曲名は再取材時に佐竹さんが聞き出したそうです。子守歌でなくラブソングだったことに、佐竹さんは驚き、いっとくさんのネギに対する思いの深さを知ったといいます。
ねぎが23歳で旅立つ際、いっとくさんは、「ねぎと出会ったのも、ずっと前からの約束だったのかもしれない。きっとまた生まれ変わったねぎに会える」と考えます。気づかない場合に備え、ふたりだけの秘密のサインも別れの時に決めました。
桜の季節に分骨をした時には、納骨に向かう車の中で、最後の「メロディー」を歌ってあげたのだそうです。
猫との約束は自分自身への決意
佐竹さんの猫本シリーズは今回で5冊目。2冊目から編集を担当してきた辰巳出版の永沢真琴さんが、次のようにお話をしてくれました。
「佐竹さんが、いままで一貫して発信してきたのが“猫と人との共生”についてです。猫のしあわせとは?人と猫のしあわせのかたちとはいったい何かを、エピソードを通して訴えてきました。今回の本を作るにあたり、佐竹さんが『愛することは責任。家に迎え愛すると決めた時、人は必ず、小さくても大きくても、言葉に出ださなくても約束をする。それは、ときに相手だけでなく自分自身との決めごとだったりもします。そうして日々、何かしらの約束を重ねて私たちは生きている』とおっしゃったことがとても印象に残っています」
「猫をうちに迎え、ともに暮らしていくということは責任が伴うこと。そしてそれは猫に限らず、犬や他の生き物たちに対しても同じことが言え、社会的により弱き者という観点でいえば、子どもや老人、さまざまなハンデを抱えた人たちに対しても同じ目線が広がります。佐竹さんが紡いだエピソードには、さまざまな猫生を歩んだ猫たちと、それを自然に受け入れ、しあわせを共有する人々が登場します。彼らもそれぞれに誠実な約束を交わして暮らしています。自分だったらどのような約束を交わすのかと考えながら、読んでいただけたらうれしいです」
もうひとつの約束の物語
ところで今回の表紙を飾るのは、幼いサビ猫です。
このサビ猫は佐竹さんが2年前の夏の夕方、房総の小さな漁港で出会い、「また会おうね。元気でいるんだよ」と約束していた子です。
佐竹さんは今春サビ猫と再会。猫は約束を覚えていたのか、フレンドリーに近寄ってきて、船べりでひととき、いっしょに潮風に吹かれたのだとか。
それで佐竹さんは家を出る前に愛猫と交わした「今日は暗くならないうちに帰ってくるからね」という約束をうっかり忘れそうになり、サビと別れる時に、「またね、元気でいるんだよ」と新たな約束を交わしたといいます。
猫との距離が自然で、ウィットにとんだところも、佐竹さんの魅力でしょう。
巻末に掲載されている、漫画『夜廻り猫』の作者、深谷かほるさんとの往復書簡も、猫への思いとセンスがあふれています。
深谷さんへの便りの中で、佐竹さんが記した言葉にもはっとさせられます。
「猫って、ちゃんと約束を信じてる!だから、私たちはけっして裏ぎっちゃいけない」
猫の幸せのため、私たちはこの言葉を守りたい。そんな約束をしたくなります。
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