別れの時までペットの世話ができますか? CMが問う、犬や猫を売る側と買う側の責任

CM『一目惚れ』より(ACジャパン提供)

 ACジャパンが日本動物愛護協会の活動を支援するキャンペーンCM「一目惚れが、7月1日よりスタートしました。「にゃんぱく宣言」「犯罪者のセリフ」に続く第三弾で、ペットショップを訪れた人と店員とのやりとりを通し、“命を託す責任と命を預かる責任”を問うという踏み込んだ内容です。

 CMは、テレビとラジオの2種類があります。ラジオCMは、「その日、僕はペットショップで運命の出会いをした」という男性の声で始まります。

「よかったら、ワンちゃん抱っこしてみません?」。ペットショップで店員に声をかけられて胸に抱いたとたん、男性は運命を感じます。

〈飼いたい!飼いたい!今すぐ飼いたいぃぃ!〉

 その時、ナレーションが響きます。

「その一目惚れ、迷惑です。たとえ運命を感じてもしっかり確認しましょう、命の大切さを」

動物たちの命を衝動買いなどしないように

 日本動物愛護協会の常任理事で事務局長の廣瀬章宏さんに、CMに込めた思いを聞きました。

――今回の舞台はペットショップ。CMが誕生した背景を教えて下さい。

「動物を家族に迎える場合、保護犬や保護猫を迎える方が増えてきていますが、ペットショップからという方も多いと思います。犬や猫に限らず動物たちが商品として小さなケージに入って売られていることに、違和感を覚えることもあるのではないでしょうか。『動物の愛護及び管理に関する法律』も改正されるたびに厳しくなっています。しかし販売する側の人間、購入する側の人間の心に届かなければ意味がありません」

――心に届くよう、切り込んだのですね。

「これまで飼育放棄などについて、主に飼い主の責任が問題視されてきました。
はたして本当に飼い主だけの責任なのでしょうか? 売った側には何の問題もないのでしょうか?本協会では動物を家族に迎える際に『飼い主に必要な10の条件』を提唱しています。動物たちの命を衝動買いなどしないように、一度冷静になって考えてほしいと思っていました。まず飼う側は、一時の感情ではなく終生飼養、適正飼養が絶対条件です」

〈飼い主に必要な10の条件〉

  • お住まいはペットを飼える環境ですか?
  • 家族全員、ペットを飼うことに賛成していますか?
  • 家族に動物アレルギーの人はいませんか?
  • 寿命が来るその日まで、お世話をしてくれますか?
  • ペットのお世話は365日お休みなしです。その時間と体力と覚悟はありますか?
  • 年をとったペットのお世話ができますか?
  • ペットの一生にかかるお金をご存じですか?
  • 近隣に迷惑をかけないようにルールを教えることができますか?
  • 転勤や引っ越しが決まっても、一緒に連れて行けますか?
  • 緊急時、代わりに飼ってくれる人がいますか?

親犬、親猫のことも考えてほしい

――売る側が子犬や子猫を客に抱かせ、「この子は飼いやすい」と言うこともあるそうです。

「仕事柄、私自身、『飼いやすい動物は?』と質問されることがあります。私も幼少の頃から多くの動物たちと共に暮らし、ペットショップの人に『この子は飼いやすいですよ』と勧められたこともあります。でも、カメ、熱帯魚、昆虫……どんな小さな動物でもいざ飼育するとなれば、なるべく自然に近い状況に飼育環境を整えなければなりません。少なくとも“飼いやすい”ということは、簡単には口にできない。何をもって“飼いやすい”と言うのか、いまだに答えることができません」

――託す側への訴えも必要だと。

「そうです。売る側には動物を商品ではなく、一つの命として向き合い、購入者が終生飼養、適正飼養が本当にできるのかどうか考えてほしいと思います。職員の一人は、ブリーダーが放棄した保護犬と暮らしています。目の見えない老犬です。お店に並ぶ子犬や子猫たちの背後には、道具のように扱われ、病気を抱え、痩せ細り、心を閉ざす親犬や親猫たちもいます。職員が一緒に暮らすのは、そんな親犬の中の1匹です。自分の犬や猫たちが“どこから来たのか”考えるきっかけにもなってほしい。今回の『一目惚れ』はそんなペットショップでの安易な動物の販売と購入に対して警鐘を鳴らし、命を託す責任、命を預かる責任を考えてもらう、ということが目的です」

――動物を飼うこと自体を否定しているわけではないのですね。

「このCMは動物を飼うことを否定しているわけではありません。命を商売道具としか考えない業者は淘汰(とうた)されるべきだと考えますが、すべてのペットショップ、ブリーダーを悪としているわけではありません。ペットショップ、ブリーダーが飼い主の良き相談相手になっている場合があることも知っています。ただ、今は様々な動物たちがお金さえ出せば簡単に買うことできて、飼うことができます。

迎え入れられた動物たちがすべて幸せに暮らしていると言えるでしょうか? 一部には飽きられ、遺棄まではいかないまでも、飼われているだけ、生かされているだけで幸せではない動物たちもいます」

飼育放棄が増えることを懸念

――コロナ禍でペットに癒やしを求める人が増えて、「店で安易にペットを迎え、安易に手放す人」も多いと聞きます。それによる保護団体の負担などもあるのでしょうか。

「例えば保護犬、保護猫はどこから来たのでしょう、もともと犬は狩りの仲間として、猫はネズミを捕るために人間社会に取り込んだ動物で、野生動物ではありません。人が捨てた犬や猫が繁殖したり、飼育を放棄(ペットショップ、ブリーダー崩壊からレスキューされる場合も)されたものです。今や多くの人や団体がそんな犬や猫の殺処分を無くすために、保護して譲渡する活動をしてくれています。そのおかげで多くの犬や猫が幸せになっています」

「しかし、このコロナ禍で犬や猫、その他の動物に癒やしを求め、『飼えなくなったら保護団体が引き取ってくれるだろう』などと安易に考えて店で購入する人もいます。不幸な犬や猫が増えれば永遠にこの活動は終わりません。

現在は在宅時間が増えてお世話ができていても、以前の生活に戻った時に、『忙しくてお世話ができない』『思ったようになつかない』『うるさい、臭い』など飼育放棄される動物が今後増えてしまうのではないかと懸念しています。

私たちは日頃より行き場を失う動物や、ただ飼育されているだけの幸せでない動物を作らないようにするための啓発=蛇口を閉める活動をしていますが、このCMもその一つです」

CM『一目惚れ』より(ACジャパン提供)

――前回のCM「犯罪者のセリフ」はアニメでしたが、今回は生きた犬が登場します。撮影時に気を付けたことや、印象的な出来事はありましたか。

「生体を使うかどうかは最後まで悩みました。しかし、ぬいぐるみやアニメーションでは伝える力が弱くなると考えて、実際の犬に登場してもらいました。登場いただいた犬たちは法令を遵守し、撮影当日に生後90日を超え、かつ2回のワクチン接種を経た元気な犬たちです。さらに時間管理を厳しく行い、犬たちの健康や安全を最優先に考えました。そのため、うんちやおしっこ、何かあれば即、撮影を中断しました」

――制作者は皆さん、動物好きとお聞きしました。

「今回のCM撮影について株式会社ADKクリエイティブ・ワンの皆さまに担当していただいたのですが、ACジャパンの担当者を含め、皆さまが動物好きで、安心してお任せすることが出来ました。また、コロナ禍での撮影だったため、JAC(一般社団法人日本アド・コンテンツ制作協会)策定の「withコロナ制作業務 実施ガイドブック」に基づいて撮影を実施しました。そんな限られた時間の中、撮影されたポスターの写真は、まさに奇跡の1枚と言えるでしょう」

――反響はいかがですか。

「7月にスタートしたばかりですが、『攻めている!』というご意見をいただくことが多いです。これまでの『にゃんぱく宣言』、『犯罪者のセリフ』そして『一目惚れ』と、すべてがあれをしてはいけない、これをしてはいけないと、否定から入っています。いずれはこんなCMをしなくても、“人と動物が幸せに暮らせる世の中”にしなければなりませんね」

【関連記事】犬を捨てて「親切な人に見つけてもらってね」は「犯罪者のセリフ」 CMに込めた思い

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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