犬や猫とふれあって人も動物も幸せに 35年目を迎えたJAHAの取り組み
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)が行っている人と動物のふれあい活動「CAPP」が、今年35年目を迎えました。
CAPPは、「コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム」の略で、「人とどうぶつの絆」を大切にしながら、活動参加基準に達した犬や猫と飼い主が福祉施設や医療施設、学校などを訪問して行うふれあいのボランティア活動の名称です。読書教育を支援する「犬への読み聞かせプログラム」や、傷ついた子どもの心に寄り添う「付添犬」にも取り組んでいます。
1986年にこの活動を立ち上げ、現在は同協会相談役を務める赤坂動物病院名誉院長の柴内裕子先生に、犬や猫と人の関係についてお伺いました。
2万2千回超え、無事故の訪問活動
――CAPPは、飼い主と動物が施設や病院、学校などを訪れて、入居者や患者さん、生徒たちとふれあう活動とお聞きしています。活動を始めたいきさつについて教えてください。
「34年前、私がJAHAの第4代会長に就任し、CAPP活動をスタートさせました。世界ですでに行われていた活動を学んで、“獣医学と医学を通して社会に貢献するボランティア活動”をJAHAのプログラムとして始めたのです。JAHAの会員の獣医師を中心に多くのボランティアとその動物たちの協力を得て行っています」
「1986年5月3日に特別養護老人ホームさくら苑(横浜市)に招いて頂いたのを皮切りに、今年3月までに全国で訪問活動を2万2千回以上行いました。コロナで3月以降の活動をストップしていますが、一度も事故やアレルギーが起きていないのは、素晴らしい飼い主と、家族としての動物たちのお陰です」
――訪問する動物は、犬が中心ですか?
「参加できるのは、家族(伴侶動物)です。猫やうさぎさんも参加することがありますが、犬が多いですね。家族として健康で幸せに暮らし、ほえない、かまない、排泄のマナーができている、人が大好きで知らない場でも落ち着いているなど適性が必要です。世界の基準に合わせたテストを飼い主さんと動物に受けていただき、トレーニングもしてもらいます。猫は単独動物なので犬以上に適性が必要になりますが、人のひざに乗るのが好きで、そうした猫に会うのを楽しみにする方もたくさんおられますよ」
「忘れてならないのは、人と動物との歴史的な絆です。背景に、何万年ものつきあいで築いてきた人類と犬や猫との信頼関係があり、この活動も“愛情の交流”が基本です。動物たちは自然に人の心を開き、明るくする名手です。それをいい形で活用しているのがこのCAPPの活動です」
犬と人の幸せホルモンが上昇した
――動物とのふれあいが人に与える効果を、訪問活動先の病院で検証されたそうですね。思っていた通りの結果でしたか?
「2017年に、多くの方の協力のもと、千葉県こども病院の血液・腫瘍科病棟で唾液による効果の検証を行いました。入院中の子どもと、セラピー犬、飼い主であるボランティアを対象に、“活動前30分”と“ふれあい10分後”の唾液を採取し、オキシトシンと、コルチゾールの変化を検証しました。すると、犬とふれあった68人中57人の子どものオキシトシンが増加、子どもとふれあった113頭中80頭の犬、ボランティアも34人中20人にオキシトシンの増加がありました。子どもとセラピー犬のコルチゾール値は全体的に低下しました」
(※オキシトシンは脳下垂体後葉より分泌される物質。中枢神経系では神経伝達物質としてストレスを緩和して幸せな気分をもたらす幸せホルモンと呼ばれる。コルチゾールは副腎皮質より分泌される物質。強いストレスを受けると増加するのでストレスホルモン等と呼ばれ、心拍や血圧を上昇させる)
「小児科学会や海外の学会でもふれあい効果の発表をしましたが、今年、高齢者の施設でも心拍数などの検証をはじめた矢先にコロナが発症したので、いずれ検証の追跡をしたいと思います。こども病院で得られたエビデンスで強調したいのは、人だけでなく、動物たちの幸せホルモンも上がったこと。ふれあってお互いが幸せになるのは素晴らしいですね」
「本当のわんちゃんと遊びたい」
――小児病棟への訪問で忘れられない出来事などはありますか。
「小児病棟は、2003年に聖路加国際病院を訪れたのが最初です。0歳児から小児がんと闘ってきた7歳の渚沙ちゃんという女の子の『本当の犬と遊びたい』という願いをかなえるため、担当の松藤凡先生(現聖路加国際病院副院長・小児総合医療センター長)がJAHAに訪問の依頼を下さったのです。ベッドにたくさんの犬のぬいぐるみを乗せた渚沙ちゃんは、セラピー犬のちろまをなでて満足そうでした……特に小児がん病棟の子どもは心を閉ざしがちで、高学齢で治療に反発していた子が、訪問活動を見て、『自分も子どもの治療を助ける仕事がしたい』と、ボランティアに感謝状を渡してくれたこともありました」
――子どもだけでなく、お年寄りの変化も多く目にされてきましたか?
「ある施設での高齢者男性のケースです。いつもぼんやりと天井を見て横たわって、食事は全面介助で食べさせてもらっていました。ところがボランティアさんが小型犬を連れていき、「触ってみてください、可愛いですよ」と言った何度目かに、手を伸ばして犬をなでたんです。そばにいた私と施設長は『(男性の)手が動いている!』と驚きました。その後から食事の時にスプーンを持って頂き、食事を口に運ぶための手伝いがはじまり、そのうちに上手ではありませんが自分で食べられるようになりました。この変化は大きいですね」
「他にも、周りに“手が動かない”と思われていた高齢女性が犬にブラシをかけたり、ツンツンとして孤立していた女性が、猫を抱きながら『昔、飼ってたの』と明るく話しはじめて、お友達を作ったこともあります。発語を促して、自立や行動意欲を引き出す。動物は人を能動的にする“きっかけ作り”の名手でもあるんですよ」
高齢者とペットが住みやすい世の中が理想
――柴内先生ご自身、犬や猫に支えられてきたという実感がおありですか?
「もちろんです。私は先日85歳になりましたが、今も週3日ほど病院に勤務し、家に帰れば犬のピーター(9歳)と猫のカキポ(17歳)が待っています。コロナの自粛期間は、この子たちにずっと話しかけていましたよ(笑)。世話をする相手がいるのは大事なことです。そういえば、たくさんの子どもやお年寄りとふれあってきた訪問活動のパートナーちろまが、昨年末に19歳4カ月で旅立ちました。病名なしの老齢死なんです。たくさん働いたけどストレスは受けていない、そのことを証明してくれたのではないでしょうか。感謝です」
――最後に、高齢化社会におけるペットとの関係を教えてください。
「高齢化がどんどん進みますが、極端にいえば、ペットは高齢者の最後の家族、大事な介護者です。米国ミズーリ州立大学では教育、医療、獣医療、民間の機関が連携してペットと最後まで共に過ごせる高齢者施設(タイガープレイス)を作りました。日本にもほしいですね。また、たとえばデイケアのような場で保護犬を育てられれば、訪れる人に楽しみができて、保護動物たちも幸せになれるのではないでしょうか……人と動物、双方の幸せのために、高齢社会の施策としてそんなことが実行できれば、(JAHAも)協会として支援できることが増えると思います」
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- 柴内裕子先生
- 赤坂動物病院名誉院長。1959年日本大学農獣医学部卒業後、1963年に赤坂動物病院開業。臨床分野では日本で最初の女性獣医師。1986年に日本動物病院協会(現・公益社団法人日本動物病院協会)の第4代会長として人と動物のふれあい活動(CAPP)をスタートさせる。現在、同協会相談役。
- JAHA 市民公開講座 (録画配信コンテンツ)
- 11月3日から3つの講座を配信、受講には事前予約が必要。申し込みはJAHAのホームページ から。
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