手放され収容された老犬たち 殺処分が迫る「老犬たちの涙」
「人と動物との共生」をテーマに、取材活動を続けているフォトジャーナリストの児玉小枝(こだま・さえ)さん。写真ルポルタージュ「老犬たちの涙―“いのち”と“こころ”を守る14の方法」(KADOKAWA)が昨年9月に刊行された。介護放棄などで行政施設(動物愛護センターなど)に持ち込まれたり、あるいは放浪していて捕獲されたり、多くが殺処分されることになる老犬たちを取り上げている。声なき声の代弁者として、児玉さんが訴えたいことについて聞いた。
悲しい目をした行政施設の老犬たち
本書の表紙は老犬が鉄格子の向こうからじっとこちらを見つめる写真。瞳は悲しみに満ちていて、見る者の心をえぐるように迫ってくる。「どうして、どうして、ぼくはここにいないといけないの?」「怖いよ、不安だよ」と訴えかけてくるようだ。
ページをめくると、「ここから逃げないと!」と冷たく硬い鉄格子にかみつく犬もいれば、認知症のため犬房(けんぼう)の中を弱った脚を引きずるようにしてうろつく犬もいる。ただただ悲しみと不安に満ちた眼差しをファインダーに向ける犬もいて、チワワなど人気の小型犬も例外ではない。
児玉さんは、一時は“家族”だった老犬たちが、人間の手によって行政施設に送られることが、犬の心を深く傷つけると憂慮している。犬は、突然家族に捨てられ、わけも分からず、冷たいコンクリートの上で困惑し、悲しみにくれるのだ。
児玉さんは、老犬たちが行政施設に連れてこられる理由は、大きく分けて4つあるという。
- 老老介護の破綻
- 看取り拒否、介護放棄
- 引っ越し
- 不明(迷い犬として捕獲・収容される)
どれもが人間の身勝手さによるものだ。行政施設では「ここに置いていくと、殺処分されますよ」という職員の声に耳を貸さず、「構いません」と背を向けて立ち去る飼い主もいるのだという。
「殺処分したくはないが…」
一方、収容する行政施設側は満杯状態で、人手も乏しいため、長期間に渡って老犬たちの世話をする余裕はない。飼い主が持ち込んだ老犬の収容期間は短く、その日のうちに殺処分されることさえあるという。収容期間中に引き取って飼いたいという人が見つからなければ、殺処分されてしまう。
多くの場合、犬たちは「ドリームボックス」と呼ばれる部屋に入れられ、二酸化炭素を充満させて窒息死させられる。「安楽死」とは程遠く、どの犬も苦しみもがいて死んでいくそうだ。
児玉さんが知り合った行政施設の職員は、老犬たちを捨てていった飼い主への悔しさをにじませながら「無念だ」と言ったという。殺処分したくはないが、回避することもできない。いまのところ、人間の身勝手な都合で行政施設に連れてこられた老犬たちを救うための特効薬はない。
「老犬たちの涙」に収載された写真を撮影させてくれた行政施設は協力的だが、白日の下にさらけ出したくないため取材を断られることもたびたびあったという。
終生飼い続ける覚悟を
本書の巻末には、「いのちとこころを守る14の方法」が掲載されている。中でも児玉さんが繰り返し訴えるのは、「終生飼養の覚悟」だ。
もう齢60歳、70歳を超えた老人が、「子犬」を求めてペットショップなどにやってくる。犬の寿命は大型犬で10~13歳くらい、小型犬、中型犬なら13~15歳を超えることも珍しくない。きちんと最期まで世話ができるのか、犬を飼う前に考えなければならない。「息子や娘が飼ってくれるだろう」というのは、都合のいい考えで、必ずそうなるとは限らない。あくまでも「自分が責任と愛情をもって世話をできるかどうか」が問われるのだ。
「介護サポーターをみつける」ことも大切で、通院や投薬、食事、排泄の介助をするために、獣医師や動物介護ができるペットシッター、家族や友人の助けが得られる体制を整えておく必要がある。何よりひとりで思いつめない、孤立しないよう早めに相談することが大事だという。
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