愛猫が脱走してしまった!どうする? 13日後に無事保護した飼い主がしたこととは
以前「猫の適切な飼育を考える」で取材協力いただいた画家の小田隆さん。実は取材の直後に愛猫「ダリ」ちゃんが自宅から脱走するという事件がありました。小田さんと、妻で大阪市立自然史博物館外来研究員の西澤真樹子さんのお二人に、ダリが無事帰宅するまでの日々について聞きました。
脱走したのは末っ子の「ダリ」
脱走したのは3匹の愛猫のうち、キジトラのダリちゃん。自宅近所で保護した男の子で、一番最後にやってきた子でした。
6月5日(金)朝
勢いよく閉めた反動で少し空いていた、2階ベランダのサッシ窓から脱走。お隣との間のわずか10㎝ほどの隙間に、1階屋根にあるちょっとした構造物の影に潜んでいる様子。そこで、関西一円で保護猫活動のお手伝いをしている「ねこから目線。」さんに相談。潜んでいるであろう屋根に捕獲器を借りて設置します。
このタイミングで、動物の動きを捉えて自動で撮影する「トレイルカメラ」(WOSPORTSトレイルカメラ防犯カメラフルHD)を購入しました。
6月6日(土)
仕掛けた捕獲器には入ってくれず。おびき寄せるための「鶏のから揚げ」を、香りが立つように温めてはおびき寄せるも、うまくいかないまま一日が過ぎました。
6月7日(日)
昼すぎ、どうやら潜んでいた場所から出てしまったらしいことがわかります。よそへ行かないように周囲に網を張っておいたのですが、それも頭で押して出てしまったようです。ここからはより広範囲の探索へと方針を切り替えます。
夕方には、ダリ用のトイレの砂を家の周辺にまき、玄関前に置き餌を。家の裏の、野良猫がよく通る場所にトレイルカメラ(防水タイプの暗視カメラ)を設置しました。
システマチックなチラシ作戦
「何かしていないと、罪悪感でボロボロになりそうでした」と振り返る西澤さん。まずは大急ぎでチラシを作り、コンビニでコピーして近隣に配りました。
チラシの目的は目撃情報を募ることと、ひとりでも多くの協力者を増やすこと。図書館で住宅地図をコピーし、グーグルマップを参照しながら、自宅周辺の見取り図を作成します。去勢したオス猫のおおよその移動距離は250m程度と聞いたので、その範囲をメインに。
同時に、近隣に「聞き込み」も開始しました。「餌やりさん」や地域猫活動をしている方の存在を突き止め、どこで野良猫や地域猫にご飯をあげているかをチェック。
早朝や深夜には、ダリの名前を小さく呼びながら実際にあちこちを歩き、猫を見かけた場所や猫のフンがたまっている場所、チラシを貼ってくださっているお店や個人宅などをどんどん地図に書き込みました。
6月8日(月)
仕掛けたカメラにキジトラが映るも、ダリかどうかは特定できず。再び「ねこから目線。」さんに来てもらって捕獲器を仕掛けますが、ダリではないキジトラとサバ白がかかったのみ(即解放しました)。
6月9日(火)
いったん捕獲器にかかったり、他の猫が捕まるのを見た猫は、捕獲器に入る可能性が低くなります。このままでは地域のTNR活動の邪魔になるので、いったん捕獲器作戦を中止。さらに広範囲に情報を広げるため、チラシの印刷・配布代行業者を利用することに。
利用したのはラクスルでした。「このサービスはチラシのデータを入稿するだけで、1人では80枚配るのに1時間ほどかかる配布作業まで代行してくれるんです。地図をもとに配布範囲を決めて、あらかじめ見積もりをとることもできました。自宅から半径250m内に約4000枚を印刷・配布。費用は4万5000円ほどかかりました」(※配布完了にはデータ入稿から1週間ほどかかりました)
この広域チラシ配布の結果、10数名の方から目撃情報が寄せられました。みなさん本当に親身になって心配してくださったといいます。
「ただ、キジトラという柄はありふれている上に、見分けにくいんですよね。しかもダリはうちの近所で保護した子。どうやら血縁と思われる猫の情報が多数寄せらせてしまって……」と西澤さんは思い出し笑いです。
精神的に参り始める
6月10日(水)
カメラを合計3台に増設。ご近所の酒屋さん(宅配便も請け負っているお店)でさらに保護猫活動をしている人の情報をゲット。お願いに行って、餌やりの時間(夜から朝)、敷地内にカメラを仕掛けさせてもらうことに。周辺の動物病院5軒にもチラシの掲示をお願いしました。
この日から、ダリの仲良しの愛猫・ゴヤの声を録音し、ご近所迷惑にならないよう注意しながらYouTubeのループ再生機能を使って窓からエンドレスで流しました。
6月11日(木)~14日(日)
朝夕、呼びかけるも手ごたえがないまま。精神的に参り始めます。「ねこから目線。」さんからも『飼い主の心が折れるのが一番怖い。戻ってきたら何を食べさせよう?とか、先のことを考えてくださいね』とアドバイスされていたのを思い出して、泣きながら首輪を注文したりしていました」(西澤さん)
この日は市内の譲渡会に参加して、チラシを配布させてもらいました。
6月15日(月)
トレイルカメラにハクビシンが映りました。博物館関係者としてはそれはそれで発見だったものの、喜ぶ気にもなれず。
その夜のことです。ベランダから呼びかけると、返事が聞こえた気がしました!家を飛び出して探し回ること30分後、裏隣の塀の上にダリがいるではありませんか!
夜分でしたが、塀向こうのお隣さんにお願いして敷地内に捕獲器を仕掛けさせてもらうことに。捕獲器に向かってカリカリやカツオスティック(猫用おやつ)を点々とまいて誘導するも、入り口付近の餌を少し食べただけで入ってくれません。カメラもダリの現れた塀に向かって仕掛けなおしです。
ついにカシャン!と音が
6月16日(火)
朝。声をかけると出てきました! 西澤さんの手からちゅーるなどを食べるように。「見つかっても駆け寄ったり抱き上げたりしてはダメ」とアドバイスされていたのに、うっかり手で捕まえようとして失敗。
その夜には呼べば返事が聞こえるようになったので、深夜から捕獲器を仕掛けます。途中まで誘導用ご飯を食べ進むものの奥までは入ってくれず。朝5時には捕獲器を回収。
6月18日(木)
誘導用ご飯の味をしめたのか、西澤さんの姿を見ると塀の上に姿を現すようになったダリ。これまで、夜になると捕獲器をしかけ、朝になったら回収、を繰り返しました。次はきっと奥まで入るはず、と信じて待っていると、ついに午前3時「カシャン!」という音が。ダリが捕獲器に入りました!!
こうして13日間にわたる作戦は終了しました。翌日は即、動物病院で健康チェック。2カ月間は他の同居猫への感染症予防のために隔離生活ですが、再検査の結果が陰性なら、晴れて元の生活に戻れます。
「今回の経験で、いままであまり交流のなかったご近所さんとも、お近づきになれました。みんな黙って活動しているけれど、意外なほど保護猫活動をしている人がいることにも驚きましたね」と小田さん。「少しやせて、おびえ切ったダリを見ていたら家猫は室内飼育が絶対だと、確信しました」
当の「本猫」にも変化があったようです。
「あまり積極的に甘えるタイプの子じゃなかったんですが、帰ってきたらやたらと甘えたがるようになりました」と西澤さん。元野良とはいえ、満足に食事にもありつけず、外猫たちから脅かされる日々は、さぞ怖かったことでしょう。
「もう二度と、外には出しません」。ひざの上でのどを鳴らしているダリをなでながら、お二人は心を新たにしたといいます。
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