ペットは子どもの成長に好影響を与える グルーマー団体がシンポ

 一般社団法人「ジャパンハッピーグルーミング協会」が1月、シンポジウム「子どもとペットの未来を考える 心のワンヘルス」を開きました。識者による講演やパネルディスカッションを通じて、ペットとふれあうことで、他者を思いやる気持ちが育ち、心の支えにもなり、子どもの成長にプラスになると説明されました。

 ジャパンハッピーグルーミング協会は「グルーミングを通じて、グルーマー、犬、そして犬と関わる全ての人をハッピーにする」ことを目指して設立された団体。

 シンポジウムでは、まず東京農業大学の農学部バイオセラピー学科の太田光明教授が登壇しました。

「人は、動物を見る、触れる、あるいは世話をすることで、ストレスが和らいだり、感性が育まれたりすることがわかっています。学生らに協力してもらった脳波実験によれば、猫のぬいぐるみに触れたとき、そして生きた猫に触れたときに、脳がリラックスしていることがわかりました。もちろん、ぬいぐるみよりも「本物」のほうが効果は絶大(笑)」

 ペットをみつめるとき、ペットが呼びかけに答えてくれた時、飼い主の脳には「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンが放出され、幸福感に包まれるそうです。

東京農業大学農学部の太田光明教授
東京農業大学農学部の太田光明教授

 犬も飼い主とアイコンタクトをとり、声をかけられたりなでてもらったりことで、やはり犬の脳にもオキシトシンが分泌されることが分かっていて、これで犬と人の間に、幸せの連鎖が生まれているのだといいます。

 太田教授は小児病棟の子どもたちに協力してもらい、犬とふれあってもらいました。すると、病気に負けまいとがんばっている子どもたちの脳にドーパミンが放出されたそうです。

 ドーパミンは「脳内報酬」とも呼ばれ、喜びの感情があると分泌されるもの。辛い治療があっても犬と触れ合えばがんばれる。犬の存在が子どもたちを心理的に支えていることが明らかになったと説明しました。

ペットは子どもの「親友」である

 続いて東京大学大学院の農学生命科学研究科の西村亮平教授が、子どもの成長とペットのかかわりについて講演。子どもたちはもともと動物に興味を持つことが多く、「発育期に動物と生活したり、触れたりするチャンスが多いと、人としての発達にポジティブな影響を与える」と解説しました。

子供のそばにペットがいる影響について話す西村亮平教授
子供のそばにペットがいる影響について話す西村亮平教授

 動物とともに暮らすことで以下の効果が期待できるといいます。

・他者を思いやる、共感する気持ちが育つ
・責任感が養われる
・病気やケガからの回復、リハビリの促進
・喘息などのアレルギー疾患の予防
・自閉症や障がいをもつ子どもの助けになる

 また、身近に動物がいることで、心の支えとなり、情緒が安定し、いざというときの「逃げ場」にもなる、と説明しました。

「子どもは大人よりはるかに小さな世界に生きている。そのため、けんかをした、叱られたなどのストレスにさらされると、逃げ場を失って追い詰められてしまう。そんな時、信頼をもって寄り添ってくれる動物がそばにいれば、彼らは子どもの逃げ場になる」

  また、動物を通じて「他者を愛すること」を学べば、やがて人と動物がともに暮らす幸せな社会づくりへとつながる、明るい未来につながる、と話しました。

大切な「命」を育む・子育てとペット飼育の共通項

 続いて、ドッグトレーナー、米サンディエゴで活動するペットグルーマー、大学教員らによるパネルディスカッション「心のワンヘルス ペットとはぐくむ子供の未来とグルーマーの役割」が開かれました。

パネルディカッションの様子
パネルディカッションの様子

 子どもの心理を研究している東京未来大学教員の渡辺千歳さんは「家の中にペットがいる、というのは家族という小さな社会の中に多様性が生まれるということ。相手を知り、理解できないと、誰しも幸せになれない。自分と違うものを知り、一緒に成長する経験は、子どもに多様なものを受け入れる寛容さを育む」と話しました。

 それを受けて、サンディエゴでペットサロンを経営している、一般社団法人KM DOGジャパンの中島かおるさんは「アメリカのグルーマーは動物の医療、心理についても勉強をしている。行動学で彼らの行動を学び、彼らを理解し、動物にも飼い主にも寄り添うのが仕事。健康管理からしつけの問題まで、犬と飼い主がより良い関係を築くお手伝いをする。社会的にも犬の存在が自閉症児や発達障がい児の発育に有効なこともわかっていて、多くのカウンセラーがドッグセラピーを取り入れている」と説明しました。

 一方、ドッグトレーナーでアニマルライフ・ソリューションズ代表の鹿野正顕さんは「人の思いばかり押し付けて、言うことを聞かせようとする関係は成立しない。犬は命令に従うもの、という感覚ではいつまでたっても仲良くなれない。相手はゲームじゃなくて生き物。相手の個性を理解して、相手に合わせた対応をすることでコミュニケーションがとれるようになる。それは相手が犬でも人間でも同じこと」と話しました。

 最後にシンポ主催者でもあるジャパンハッピーグルーミング協会理事長の丹下健一さんは「私たちは経験から、ペットが子どもたちに良い影響を与えることを知っていた。しかし改めて、学術的な裏付けがあることも確認できた。『子どもがペットを欲しがるから与える』のではなく、『飼いたい』と言い始めたときから、犬との暮らしは始まっている。グルーマーは職業柄、体調や機嫌など犬の様子がわかる立場にある。これからも飼い主とペットのそばに寄り添い、子どもたちの未来に寄与する催しを続けていきたい」と語りました。 

ジャパンハッピーグルーミング協会
子どもたちの職業体験イベント「未来トリマー」など様々な取り組みを行っている。

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