補助犬をめぐる災害避難時のトラブル 受け入れ態勢の整備へ

山口さんと盲導犬のペッパー。2012年の九州北部豪雨では窓枠の下まで浸水した
山口さんと盲導犬のペッパー。2012年の九州北部豪雨では窓枠の下まで浸水した

 各地で自然災害が相次ぐ近年、盲導犬や介助犬などの補助犬とともに避難所に身を寄せた障害者が、他の避難者とのトラブルに巻き込まれる事例が増えている。

 大分県日田市の山口昌子さん(48)にも、そんな経験がある。19歳のころ、病気で視力を失い、約現在は夫と鍼灸(しんきゅう)治療院を営みながら2人の子ども、それに盲導犬のペッパーと暮らす。10年前から盲導犬と生活を共にしている。

 九州北部に停滞した梅雨前線が記録的な大雨をもたらした2012年7月3日。朝、自宅前の花月川が氾濫(はんらん)した。足元に水の感触があり、浸水に気付いた。弱視の夫と2人では避難ができない。119番通報して救助を求めた。

 だが「犬は置いていってください」と告げられる。「うそでしょ」。盲導犬であることを必死に訴えた。「この子がいないと生活できないんです」。「一度確認させてください」と通話は途切れた。

 その間も水位は上がってくる。携帯電話と財布、当時の盲導犬インディのドッグフード1食分を用意して待った。結局、消防隊員2人がやって来て、インディを連れて避難することができた。

 やっとの思いで自宅裏にある日田林工高校の体育館に到着。だが、避難者で混み合う屋内に犬を連れて入るのは、はばかられた。入り口のドアにリードをかけ、全身ずぶぬれのまま、怖がって鳴くインディをなで続けた。

 近くを通る避難者からは「なんでこの犬はここにおるんかい」という言葉が飛んできた。とっさのことで盲導犬であることを示す胴輪(ハーネス)を着けられず、普通のペットに見えたのかもしれなかった。夕方までは避難所にとどまったが、結局その後は夫の実家に移動した。

 自宅は2017年の九州北部豪雨でも床上30センチまで浸水した。避難も考えたが、「前に『どうして犬がいるんだ』と言われたことも気になったし、トイレの世話もきちんとできない」。家族で2階に避難し、やり過ごした。

おおいた動物愛護センターの施設を見学する盲導犬ユーザーら
おおいた動物愛護センターの施設を見学する盲導犬ユーザーら

厚労省、補助犬への理解を求める

 昨年10月、台風19号が東日本を中心に甚大な被害をもたらした。これを受けて厚生労働省は同月、車いす利用者や介助が必要な避難者に配慮を求める通知を被災12都県に送った。

 通知には、盲導犬や介助犬などの補助犬について、「使用者と補助犬を分離せず受け入れた上で、周りの方々に補助犬に対する理解を促進→同伴を拒んではならないことが法律で決まっていることを周知し、理解を求めてください」とあった。

 昨年12月時点で県内の補助犬は全て盲導犬で、12人のユーザーがいる。県は災害時の盲導犬を伴う避難について、受け入れ態勢などを定めたマニュアル整備を始めており、今年度中に公表予定だ。

 その拠点となる大分市の「おおいた動物愛護センター」。昨年11月には盲導犬ユーザーと支援者らが集まり、施設見学と意見交換をした。佐伯久センター所長は「盲導犬はユーザーにとって不可欠な存在。事前に態勢を整えることで、不安なく避難してもらいたい」と話す。

 こうした動きに山口さんは「よかった」と安心する。「出かけたいと言ったとき、喜んでついてきてくれる存在は犬しかいない。道具みたいに入れ替えたり、買い替えたりできないんです」
(前田朱莉亜)

「同伴避難」を法律で保障

 2002年に成立した身体障害者補助犬法は、公共機関や飲食店に盲導犬や介助犬などの補助犬の受け入れを義務付けている。日本身体障害者補助犬学会に所属する大分市の獣医師・渡辺一仁さん(58)は、「補助犬ユーザーが安心して過ごすためには、まず避難所の運営者が法律を理解する必要がある」と訴える。

 渡辺さんによると、災害時の補助犬受け入れに関する対応は各自治体ごとに異なる。「他の避難者とトラブルになりかけた時、受け入れ義務があることを担当者が冷静に説明できるかが重要」

 環境省が2018年に作成した災害対策ガイドラインでは、ペットと共に避難することが推奨されているが、補助犬を連れた「同伴避難」は法律で保障されている点が大きく異なる。渡辺さんは「普段から使用者や行政の担当者、地元住民が非常時の避難所運営について話し合う機会を持ち、互いに理解を深めることが大切だ」と指摘している。

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