ファシリティードッグがいてくれたら 小5、実体験から普及活動

清武琳君とベイリー、アニー、森田優子さん(右から)
清武琳君とベイリー、アニー、森田優子さん(右から)

 生まれつきの病気で入退院を繰り返している福岡県粕屋町の粕屋中央小5年、清武琳(りん)君(10)が自らの経験をもとに、入院中の子どもに寄り添う「ファシリティードッグ」を広めようと取り組んでいる。13日には、興味をもつきっかけになったゴールデンレトリバーが働く神奈川県立こども医療センター(横浜市)を訪れ、念願の対面を果たした。

手術前日は涙 「犬が居てくれたら」

 清武君は生まれつき、背骨が横に曲がる脊柱側彎(せきちゅうそくわん)症と右側肋骨(ろっこつ)の欠損がある。5歳の頃から年2回、福岡市立こども病院に入院し、手術を受けている。

 ファシリティードッグに興味をもったきっかけは偶然だ。学校に届いている昨年10月25日付毎日小学生新聞に目を通したとき、「ベイリーありがとう ファシリティードッグ引退」の記事が目にとまった。2012年から神奈川県立こども医療センターで働いた10歳のオスのベイリーの引退と、後任で2歳のメスのアニーを紹介していた。

「病院に犬がいるの?」。記事を読んでびっくりした。清武君が入院するこども病院は、きょうだいでも病室に入ることができない場合があるからだ。面会に行く両親と引き離され、泣きじゃくる幼いきょうだいを何人も見てきた。「犬はほえるし、毛が落ちるのに、何でだろう?」

 清武君も年2回の手術はいまだに慣れない。術後の痛みを思い出すと、前日の夜は怖くて涙が出る。そんなとき、そばに犬が居てくれたら――。「自分の病院にもファシリティードッグが来てほしい」と思った。

市長に「ファシリティードッグ導入計画書」を送付

 本やインターネットで調べ、病院にファシリティードッグを導入する活動をするNPO「シャイン・オン!キッズ」に連絡し、資料を送ってもらった。

 今年7月、入院中のこども病院の原寿郎院長に手紙を書いた。「麻酔の時が、とても怖いです。だから、この病院にもファシリティードッグがいたら、どんなにいいだろう、と思いました」「動物アレルギーや犬ぎらいで反対する人もいるかもしれません。入院中にいろいろな人に意見を聞きたいと思います」

 原院長は病室に来て、返事の手紙をくれた。「入院中のお友達への取材はもちろん大丈夫です。もしよかったら、お友達の話もぜひ教えてください」

 こども病院総務課の担当者からは、感染症の恐れや、重いアレルギーの子が入院していることなどから導入は難しいという説明があり、代わりにロボット犬などが提案された。福岡市の高島宗一郎市長にも、手紙と約70ページにわたる「ファシリティードッグ導入計画書」を送ったが、市保健福祉局の担当者からは、やはり導入は難しいと返事があった。

 清武君は、それでもあきらめない。「あったかくて、ふさふさして、いつでもいてくれるから」

ベイリーのそばで森田優子さんに取材する清武琳君
ベイリーのそばで森田優子さんに取材する清武琳君

自分の活動でファシリティードッグを知ってほしい

 これまでの活動をまとめ、「第10回いっしょに読もう! 新聞コンクール」(日本新聞協会主催)に応募したところ、全国で最優秀賞に輝いた。

 14日に横浜市でコンクールの表彰式が開かれるのに先立って、アニーとベイリー、2匹とともに暮らし、一緒に患者のケアをする「ハンドラー」の森田優子さん(38)に会った。

 清武君は緊張した面持ちで約30分にわたって取材した。感染の恐れについて聞くと、森田さんは「手をきれいにして触ってもらう、移動するときは体をきれいに拭く、などに気をつければ大丈夫」と答え、導入する際のハードルになっているのは「金銭面」と指摘した。神奈川ではNPOへの寄付や病院の基金を利用しているという。

「ファシリティードッグへの思いは?」と清武君が尋ねると、森田さんは「リハビリ中の子が、アニーのリードを持つと知らない間に歩けたりする。本当に必要な存在だと思います」。

「僕の活動でたくさんの人にファシリティードッグのことを知ってほしい」と考える清武君は、「入院しているときにベイリーやアニーがいれば心が楽になる」との思いを強くした。「これからもいろんなところに手紙を書きたい」
(宮坂知樹)

◆キーワード
<ファシリティードッグ> 医療スタッフの一員として病院に勤務し、小児がんなどの重い病気の患者やその家族を癒やす専門のトレーニングを受けた犬。看護師の資格を持った「ハンドラー」と一緒に、手術室への移動や添い寝、リハビリの応援などをする。NPO「シャイン・オン!キッズ」によると、現在国内で導入しているのは、静岡県、神奈川県、東京都の3病院。ハンドラーの人件費や犬のエサ代などに年間約1千万円かかるという。

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