売れ残った犬・猫の譲渡を事業に 「家族をみつけてあげたい」

病気やけがなどの理由で売れなかった子犬などを引き取り、飼い主を探して譲渡する事業をする「ペッツホップ」(根本寿彦氏撮影)
病気やけがなどの理由で売れなかった子犬などを引き取り、飼い主を探して譲渡する事業をする「ペッツホップ」(根本寿彦氏撮影)
目次
  1. 「犬や猫の役に立てている実感が支え」田中けいしんさん
  2. 「飼い主を成長させてくれる保護犬・猫」 坂上忍さん

 飼い主がいない保護犬・保護猫を動物愛護団体などから引き取って飼う動きが広がっています。ペットの販売をやめて、ペットショップで売れなかった子犬・子猫などの譲渡事業を始めたペッツホップ代表の田中けいしんさんと、保護犬・保護猫を飼っている俳優の坂上忍さんに話を聞きました。

◇      ◇

 2004年に、最初はブリーダーを始め、その後ペットショップ経営に転じました。ペットブームの後押しもあって、仕入れるとすぐ買い手が決まりました。

 一方で近年、動物愛護の気運が高まり、ペットショップへの逆風が強まってきました。SNSの書き込みを見ていると、ペットショップで犬猫を買った人がたたかれることも。「ペットショップ=悪」という世論が浸透してきたのを感じ、この2、3年は悶々(もんもん)としました。

 ペットショップでペットを迎えること自体が悪ではなく、ペットの流通に問題があるのだとしたら――。その問題を解決していくことに自分の役割を見いだそうと模索しました。

 17年12月、販売をやめ、譲渡事業に転換しました。オークション(競り市)の経営者らから「はじかれる子がけっこういる」という話を聞くなどしていたので、そういう子たちに家族を見つけてあげる事業が必要だと気付いたのです。

 オークションで買い手がつかなかった子、ペットショップが仕入れたけど病気やけが、先天的な異常などの「欠点」が見つかって売れない子などを引き取り、一般の飼い主に譲渡しています。ブリーダーの繁殖引退犬を受け入れることもあります。

 生体販売ビジネスでは、たとえば10匹生まれてもすべての子が売れるわけではなく、何匹かは欠点があるなどして、「どこか」へ行ってしまう。こういう子が出てくることは、生き物を取り扱っている以上避けては通れません。だから僕が、そういう子たちにも家族を見つけてあげたい。それがいまの事業の理念です。この活動が広まって保護犬・保護猫を迎える人が増えれば、繁殖、販売される子犬・子猫を適正な数に収斂(しゅうれん)していけるとも思っています。

 ボランティアではないので、寄付金はもらいません。犬や猫を引き取ってもらう方に、うちから一定程度のペットフードを購入してもらうことで、運営資金を得ています。

 始めて1年あまりで、約350匹がもらわれていきました。驚いたのは、欠点のある子でも、たくさんの人が引き取ろうと手をあげ、喜んでもらっていってくれることです。収入はがくんと減って厳しいですが、犬や猫、飼い主のために役に立てている実感が支えになっています。

「保護犬や保護猫との出会いをもっと広めたい」と話す坂上忍さん
「保護犬や保護猫との出会いをもっと広めたい」と話す坂上忍さん

 犬13匹、猫1匹と暮らしています。そのうち6匹が保護犬、保護猫です。ペットショップで売れ残り、ひどい健康状態だったのを引き取った子もいます。困っている子たちを迎えていたら、いつの間にかこんな頭数になりました。

 保護犬のなかで印象深いのは、2017年にうちに来た「筑波サンタ」です。茨城県動物指導センターから動物愛護団体が保護した甲斐犬で、左前脚がありません。団体の方から「たいへんですよ」と言われましたが、引き取りを決断しました。

 センターに収容されるまでに過酷な体験をしたのでしょう、とにかく警戒心が強いのです。なかなかなついてくれず、家から脱走してたくさんの方に迷惑もかけました。最近ようやく、心を開いてくれるようになりました。散歩に行きたいとき、僕のほうをチラチラと見てきます。甘え下手なんですね。でもそんな様子がたまらなくかわいいです。

 一方で、昨年迎えた「平塚コウタ」は、愛情に飢えすぎていて赤ちゃんのように甘えてきます。6歳で飼い主に飼育放棄された子でした。ほかの犬たちにもベタベタするので、ちょっと嫌がられています。犬同士の距離感について、いましつけているところです。

 保護犬や保護猫は、ペットショップから来る子たちと本質的には何も変わりません。同じようにかわいい。ただ、かわいいだけではなく、飼い主を成長させてくれる存在でもあると思っています。それぞれが、いろいろなものを背負っています。飼い主の側から歩み寄り、彼らに合わせていく必要があります。どんな性格なのか、何が怖いのか、何が好きなのか――。焦らずゆっくりと探るようにしています。するとふとしたタイミングで、「家族になれた」と感じられる瞬間がきます。その時には本当に感動します。

 自分の年齢を考えると、僕個人が引き取れるのはコウタが最後です。だからいま、なるべく多くの犬や猫を救うためのシェルターを作りたいと、番組を通じて模索しています。保護犬、保護猫を迎えるという選択肢を、日本でもより身近なものにしたいと思っています。

◇専門記者・太田匡彦が担当しました。

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