ペットの世話が続けられない高齢の飼い主 市民団体がサポート

新潟市動物愛護センターで引き取られ、譲渡を待つ猫
新潟市動物愛護センターで引き取られ、譲渡を待つ猫

 入院や認知症でペットを手放さなくてはならない飼い主と、どうしていいか分からない家族たち。高齢化が進み、そんな問題に直面する人が増えている。ペットの多い新潟市では、民間も支援に乗り出した。

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 2018年12月、新潟市中央区の市動物愛護センター。中年男性が10歳超の高齢のシーズーとマルチーズを連れてやってきた。

 長年かわいがっていた80代の母が病気で入院し、意思の疎通もできない状態になった。飼い主の母が面倒を見られなくなったときにどう対処するか、十分に相談していなかった。男性は自宅で引き取ろうとしたが、すでに飼っている犬と相性が悪く、家族からは殺処分を勧められた。困った末に相談に来た、と職員に説明したという。2匹はセンターが引き取ることになった。

 行政が運営する動物愛護センターは、ペットを引き取って譲渡先を探すが、凶暴化するなどやむを得ない場合、殺処分することもある。新潟市でも子猫を含め、年間約400匹が処分される。飼い主にとってセンターに引き取ってもらうのは、他に手がないときの最終手段といえる。

 昨年3月には、60代女性が平均寿命を超える18歳のトイプードルの相談に来た。女性は精神疾患があり、夫は世話に非協力的だという。女性は「自分も犬も高齢。安楽死も仕方がないのかもしれない」と泣いた。職員は動物病院に相談するように勧めた。

 センターには、ほかにも多くの相談が舞い込む。「夫が亡くなって引っ越すことになったが、引っ越し先では猫を飼えない」(60代女性)。「雑種犬の飼い主の兄が入院し、代わりに世話をしていた隣人も入院した」(高齢男性)。

 17年度にセンターが引き取った犬29匹のうち、約6割の17匹は、高齢の飼い主が死亡したり、病気になったりしたことが理由だった。3月まで所長を務めた宇野匠さん(50)は「長年ペットと一緒に暮らし、情が移っている高齢者も多い。本当につらい状況。ペットの側も悲しいだろう」。飼い主が健康なうちに信頼できる譲渡先を決める必要があるとし、「自分が世話できなくなった後のことを考え、譲渡する人によく説明しておいてほしい」と話す。

ペットの世話、飼い主の代わりに有償で担う

 新潟市内では、有償ボランティアなどが対策に乗り出している。

 市民グループ「どうぶつがかり」(新潟市中央区)は15年から、介護が必要になったり病気やケガをしたりしてペットの世話が難しくなった市内の飼い主宅を訪問し、ペットの世話をする活動をしている。

 スタッフには愛玩動物飼養管理士の有資格者や、動物の保護・譲渡活動の経験者計15人をそろえる。散歩やトイレの清掃、動物病院への搬送、フードの買い出しといった作業を1時間1500円(以降30分500円、税・交通費込み)で担う。

 相談の依頼主は高齢者が9割以上。内容は「骨折して寝たきりになって猫の世話ができない」「余命宣告を受け、ペットを残して死ぬことになってしまった」など。15~17年度は市の支援事業に認定され、年間20万円の補助金を受けた。

 代表の三浦真美さん(54)が活動を始めたきっかけは、同居する80代の義母が認知症になったこと。2匹の飼い犬にあげてはいけない食べ物を与えたり、病気なのに散歩に連れ出したりし、国内で支援の重要性が増すと感じた。「行政や地域で高齢飼い主をサポートする仕組みができたら、みんなが責任を持ってペットを飼える社会になる」

 ペットのことを記す「エンディングノート」もある。一般社団法人「はまなす」(新潟市中央区)は17年、「飼い主からのおねがいノート」(全14ページ、税込み500円)を発売。犬猫2種類あり、ペットの特徴や食事の内容、予防接種の記録、世話を託したい人と同意が取れているかなどを書き込める。秋山貴子代表理事は「核家族や一人暮らしの高齢者が増え、ペットは家族同然の存在になっている。もしもの時、このノートがコミュニケーションツールになる」と話す。

飼い主が飼えなくなったあとの対処法などを書いた「おねがいノート」
飼い主が飼えなくなったあとの対処法などを書いた「おねがいノート」

 新潟市獣医師会などは「高齢者とペット」と題したチラシを動物病院などで配布。他の人が世話できるよう、飼い主にはペットのかみ癖を直すなどのしつけを呼びかけ、譲り受けた人が費用に困らないための遺言状作成など、役に立つ情報を紹介している。

「次の世代への自然な循環を」

 「ヒトと動物の関係学会」副会長で、ヤマザキ動物看護大の奥野卓司特任教授は「家で一緒に過ごすようになり、ペットが家族同然になった。精神的に依存する人も増え、高齢で飼い続けられない飼い主が増えていることは大きな問題だ」と指摘する。

 ペットフード協会(事務局・東京都)の18年の全国犬猫飼育実態調査では、「苦労しそうなこと」(複数選択)についての70代の回答は、「自分や家族の病気・入院・介護で、飼育自体が困難になること」「自分や家族の死亡により、飼育自体が困難になること」が多かった。

 こうした実態を踏まえ、奥野特任教授は「高齢でペットが飼えなくなったときに、次の若い世代が育てていくという自然な循環を作る必要がある」。ペットを譲りたい人と飼いたい人をつないだり、高齢者施設などで世話を手伝ったりといったサービスを例に挙げた。「NPO法人やボランティア、行政、地域住民の連携が望まれる」と話している。

(湯川うらら)

朝日新聞
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