生きているかのような木彫りの猫 存在感ある彫刻を彫る女性作家
命が宿っているかのような木彫りの猫たち――。東京や福岡県の相島を中心に、50匹以上の実在の猫をモデルにした彫刻集『はしもとみお 猫を彫る』(辰巳出版)が発売された。背を丸めて座ったり、仲間とくっついたり、ぺろっと舌なめずりしたり。どれも驚くほど存在感があり、魅惑的だ。
はしもとさんは大学在学中から猫を追い続け、2014年からは福岡県・相島に通うなど、各地の猫たちを題材としてきた。本書には掌サイズから等身大サイズまで、100点を越える彫刻の写真と、30点余りのデッサンが載っている。
はしもとさんにとって猫は、特別な動物のようだ。兵庫から東京の美大に進学して寂しい時に、迎えてくれたのが、大学にいた黒猫の“先輩”だった。毎日、猫先輩と時間をともにし、姿をスケッチして「デッサンや水彩の練習をした」という。猫先輩が死んでしまった時には、大学の片隅で子どものように泣いた。そして、先輩の姿を小さな木彫りで作った。
「猫先輩にもう一度逢いたいという思いから彫りましたが、それが猫と彫刻と私の『はじめまして』でした。猫先輩はクロという名の黒猫で、今も工房の片隅にいます。当時の彫刻は猫に見えないほどへたっぴですが」
はしもとさんは、それから多くの猫と向き合ってきた。猫の最大の魅力は「何かを隠しているところ」と話す。
「犬は全てをさらけ出してくれますが、猫は秘密を隠し持っています」
彫刻の素材には主にクスノキを使い、秘密めいた猫を、一刀、一刀、時間をかけて彫ってきた。
「17年の間に、猫の原寸大のものは100ほど、もっと小さいものを合わせると1000は超えています。完成させるまでの時間は、等身大の猫については取材から構想まで含むと見当がつきません」
猫に会うため各地を訪れるが、彫刻のもとになる取材も緻密だ。出会った猫の情報は、デッサンとともに、名前や性質などを猫カードに記していく。そのカードも本書で公開されている。
たとえば、相島の「シナモン」は“なつき度”が『★』5つ、キャラは『シナモンを薄めたようなカフェラテ色のふっくら猫 寒い冬の中、人の後を追って待合室でぬくぬくする知的猫』とある。現場の様子がそのまま浮かんでくるようだ。
都心の飼い猫「モイ」からは、内面からわき出るような闘志が感じられる。実はモイは、取材時に闘病中だった。
「写実的な水彩のスケッチは、病気で少しきつい表情のモイをそのまま表現しているようでした。」と飼い主の音楽家が教えてくれた。モイはその後奇跡的に復調し、よく似た彫刻がお守りのように家に飾られている。
はしもとさんの出発点は猫先輩との別れだったが、「彫刻というのは生と向き合っているようで、死とも正面あるいは多角的に向き合っている」と話している。猫の生き様(生死)に対峙し、偽りなく彫るからこそ、迫力があるのだろう。
本書を企画した辰巳出版の斎藤実さんは、魂のこもった彫刻に惚れ込んだという。
「はしもとさんは様々な動物を彫られますが、猫に絞ることで、どんな風に彫るのか、どんな引き出しを持っているのか、逆に深く理解してもらえるのではないかと思い、“彫刻を見せる本”を考えました。本を手に取ってくださった皆さんが、はしもとさんが彫ってきた一匹一匹の猫への思いを感じつつ、彼らのことを好きになってもらえれば嬉しいです。末尾には、猫たちの名簿もあります」
- はしもとみおさんのHP http://kirinsan.awk.jp /Twitter @hashimotomio / インスタグラム @hashimotomio
- 『はしもとみお 猫を彫る』
- 著者:はしもとみお/撮影:森田直樹・中川真理子/発行:辰巳出版/A5 版96頁・オールカラー/定価:1500円+税
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