駆除シカ肉、ペットの健康食に 高たんぱく・低脂肪で注目
静岡県の伊豆半島で、有害鳥獣として駆除されたシカの肉をペットフードにする試みが広がっている。これまでは消費できず、山に埋められることもあったが、赤身主体のヘルシーさもあって、ペットの「健康食」として注目を集めている。
伊豆市吉奈の山奥に、二つの新しいコンテナハウスがある。高山弘次さん(46)が9月にオープンした「DEER・BASE・izu・しかまる」の加工施設と事務所だ。伊豆で捕獲されたシカを引き取り、ペット用の生肉やジャーキーを製造している。
シカの食害は伊豆では特に深刻で、特産のワサビやシイタケの被害が目立っている。同市は市営の野生鳥獣食肉加工センター「イズシカ問屋」を2011年に開設。一定価格でシカを買い取ることで猟師の意欲を高める狙いがあり、開設後は捕獲頭数が増えた。
一方で、採算性から買い取り対象は30キロ以上の個体だけで、土日・祝日は営業していなかった。買い取ってもらえず、個人でも消費しきれなかったシカ肉の多くは山に埋められていた。
「野生の命有効に」
「せっかくいただいた野生の命。有効に使わないとかわいそうだし、もったいない」。イズシカ問屋の立ち上げにも携わった高山さんはそんな思いから独立。イズシカ問屋とのすみ分けのため、「ペット用専門」を銘打ち、小さな個体も受け入れるようにした。殺菌や、銃弾が残っていないかを金属探知機で検査するなど、安全性にも気を配る。
冷凍のロースは100グラム300円、ジャーキーは20グラム700円の値段をつけてインターネットや地元の旅館などで販売している。ペットフードとして安くはないが、えさの質にこだわる飼い主らが早くも常連になってくれた。シカ肉は高たんぱく・低脂肪で、高山さんは「『ペットの健康に良いフード』として確立できれば」と期待する。
西伊豆町でペットホテルを営む川辺亜希子さん(44)も昨年から、ゆでたシカ肉を「無添加ペットフード」として売り始めた。15年に横浜市から移住して農作物の被害の多さなどを知り、わなの免許を取得。今では夫の寿明さん(60)と月10頭前後のシカを捕獲する。対面での販売を大切にし、犬の体調などを聞きながら食生活のアドバイスもしている。
川辺さんは「保存が利くドライフードなど、手軽に与えられる製品を作ることも検討している。シカ肉を有効利用する産業を発展させていきたい」と話す。
えさにこだわり
ペットオーナーの間では、えさにこだわる人が増えている。調査会社のシタシオンジャパンが16年、犬と猫の飼い主1236人を対象に調べたところ、フードを選ぶ際に重要視するのは「安心・安全」が71.1%で最も多く、「値段」が41.6%、「品質の良い原材料」が38.3%と続いた。
ペットフード販売を手掛けるユニチャームの広報担当者は「ペットの擬人化が進んで家族の一員と考えられるようになり、健康志向が進んでいる」と話す。同社の調査でも飼い主の76.3%が「健康に良い成分や栄養素が入っているフードを選びたい」と回答した。
動物栄養学が専門の時田昇臣(のりお)・日本獣医生命科学大准教授は「犬や猫の肥満や糖尿病は深刻化しており、予防のための『機能性食品』の一つとしてシカ肉の効果が期待されている」と話す。
(堀之内健史)
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