愛犬のしつけ「体罰反対」獣医師らが声明 「困ったら相談を」
愛犬のほえ癖やかみ癖を直そうと、思わずたたいてしまった経験はありませんか? 「しつけ」であっても、体罰が虐待にあたるのは犬も人も同じだと、獣医師ら専門家が「体罰反対」の声明を出しました。犬の問題行動の予防や治療のあり方、いざという時の相談先は――。
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「しつけや行動修正のために『体罰』を用いること、またこれを推奨する行為に反対します」
今年3月、学識者や獣医師らで作る「日本獣医動物行動研究会」が、そんな声明を出した。NHKのドキュメンタリー番組で、攻撃的な行動を示す柴犬を、殴打することでしつけようとするシーンが流れたことがきっかけだ。
会長を務める東大大学院の武内ゆかり教授(動物行動学)は、「犬への体罰を肯定するような報道があった。体罰は、動物虐待につながりかねない行為。体罰が当たり前の行為であると誤解される事態を防ぎたい」と話す。
研究会では、吠え続けたり嚙むことをやめなかったりといった「問題行動」を治すために体罰を用いた場合の問題点を、おおむね次のように整理している。
・体罰によって動物の生命を奪う危険性がある
・体罰を与える人などに恐怖心を抱くようになる
・体罰を避けるために先制攻撃を行うことがある
・問題行動がかえって悪化することがある
・より深刻な攻撃行動を示すようになることがある
・一時的に問題行動を抑えられても、再発する可能性が高い
・効果が見られるとしても、体罰を与える人がいる時に限定されがち
・体罰では学習させられず、葛藤による別の問題行動を引き起こす原因になる
このため研究会では、体罰によらずに動物福祉にもかなった、効果的で持続性があるしつけや行動診療の方法を研究・発信する取り組みに力を入れる。欧米では、1990年代に行動診療の専門医認定制度が確立したが、日本でも2013年に「獣医行動診療科認定医」制度が発足。17年末までに、8人の認定医が誕生している。
武内教授は「動物はモノではなく、人の場合と同じように体罰には悪影響しかない。動物行動学に基づく行動診療は近年、一気に発展し、浸透してきた。犬の問題行動に悩む飼い主さんには、獣医師に相談するという選択肢があることも知ってほしい」という。
犬への体罰「飼い主との信頼関係、崩壊も」
研究会幹事の村田香織獣医師が副院長を務めている「もみの木動物病院」(神戸市)では、定期的にしつけ教室を開催するほか、積極的に行動診療が必要なペットを受け入れている。現場での経験から、村田さんは「動物は体罰を受ける理由がわからないので、それを理不尽な攻撃と受け止める。強い恐怖感を抱かせるため、飼い主との信頼関係が崩壊するケースをよくみる」と指摘する。
体罰でかえって事態をこじらせ、人への攻撃など深刻な問題行動を起こすようになって来院する犬は少なくない。一般的には、ほめることで良い行動を誘発する「正の強化」により治療していくが、深刻な症状では、抗うつ薬を用いるなどして犬の精神状態を安定させる治療を一緒におこなうケースもあるという。人の側の危険が大きい場合には、犬歯先端の切断や口輪をつけるなどの対応を検討することもある。
村田さんは「予防」の重要性も説く。顔まわりや脚先を触るなど、犬が本来は不快に感じることに子犬のうちから慣らすことで、問題行動につながる芽が摘める。ほかの犬や飼い主と交流できる犬の幼稚園「パピークラス」も、予防に効果的という。
「科学的で論理的なトレーニングを」
愛犬の問題行動に悩む飼い主にとっては、ドッグトレーナー(訓練士)も相談の受け皿になる。ただドッグトレーナーに公的資格はなく、それぞれの考え方によって問題行動への対応方法は異なる。会員約150人を抱える特定NPO法人「日本ペットドッグトレーナーズ協会」では「家庭犬のしつけ・トレーニング基準」を定め、認定試験を行っている。真壁律江理事長は、「体罰を用いたしつけは犬の感情を殺すだけ。人の感情をぶつけ、たたき続けることは無意味だ」という。
会員トレーナーのもとにやってくる犬の中には、ブリーダーやペットショップで手荒い扱いを受けてきたため、最初から人を怖い存在と認識した上で飼い主のもとにきているケースが少なからずあるという。また、飼い主がインターネット上などにある古い考え方に基づく情報を信じて、かえって問題を大きくしていることも多い。真壁さんは「協会として、科学的で論理的なトレーニングを推奨し、会員トレーナーの知識と技術の向上に努めていきたい」と話す。
(太田匡彦)
■愛犬の問題行動で困ったら……
(1)たたく、鼻面をつかむ、仰向けにして押さえつけるなどの体罰はすぐにやめる
(2)犬本来の行動ができ、心身とも健康でいられるように飼育環境を見直す
(3)いつ・どこで・誰に・どのような問題行動を起こすかを記録する
(4)問題行動が起きやすい状況がわかったら、そうならないように工夫する
(5)なるべく早めに獣医師に相談する
※日本獣医動物行動研究会の声明から作成
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